何も知らない
・期末テスト
・ストックが切れた
・リアルで忙しかった
ので更新が遅れました、まる。すみません。
新章開幕です。
都内某市にある公立碧川高校の付近には、複数の小学校があり、そこの児童が遊べるような公園が点在している。
様々な学校が春休みを迎えている3月末、まだ少し肌寒くて上着が手放せないこの時期、近辺でも特に大きいわかば公園ではたくさんの小学生が集まっていた。
そのなかでも、小学校高学年くらいであろう少年少女たちのグループが、それぞれ手を振り上げて、高い声で「じゃーんけーん!!」と宣言する。グループの中の少年はまだだれも声変わりを迎えておらず、ただただ高い笑い声が公園に響き渡る。
やがて少女のうちの一人が、ひときわ体の小さい少年に文句を言い始めた。少年は悪びれもせずに舌を出して小ばかにする。どうやら少年がじゃんけんか何かでいかさまをしたらしい。
その様子を木製の乾いたベンチから眺めていたアッシュブラウンの髪の彼は、喉まで出かかった苦い感情を手に持っていた缶コーヒーで流し込んだ。
…無糖を買うつもりだったのに、間違って微糖を買っていたらしい。思ったより甘くて思わず舌を出した。
「祐也」
横からぬっと現れた大男に声をかけられて、はっとする。声の主の方を見れば、相変わらずの仏頂面がそこにあった。
「ん、竜輝じゃん、やっほー」
「うっす」
ゲームの中とは違って、珍しいほどに純粋な黒髪黒目の友人、竜輝は自分の癖っ毛を弄りながら彼…祐也の横に座る。
竜輝は、手に持っていたビニル袋から、近くのコンビニで買ったのであろうほかほかの肉まんと暖かいココアを取り出す。
「肉まんとココアって合うの?」
「…特に気にしてないし美味いから問題ない」
祐也にそう言いながら竜輝ははむはむと肉まんを食べ進める。
「そういや第一回イベント見た?」
「あぁ」
2人の話はACOの話に向く。
「バトロワかぁ、職業によって有利不利の差が出そう。マップにもよるけど」
「どれが有利?」
竜輝の端的な問いに、祐也は「んー」と首をひねって考える。
「短剣士と魔法使いはそもそもACOの2強職業だからともかく、あとはマップが入り組んでいたら暗殺者は強いかも。不利なのは2大不遇の戦士と魔剣士、あと弓士かな。盾平(騎士のようなタンク職とヒーラーである聖職者を兼任している人)も消耗戦になりそう。
竜輝はまぁ、ばりばり攻撃するし大丈夫だと思うよ」
そうか、と竜輝は簡単に答える。
「でも竜輝もライバルになるんだよなぁやだなぁ。
なぁ竜輝ぃ、俺見かけたら見逃してくれよ」
「いや、それは俺のセリフなんだが…」
ゲッソリした風にごちる祐也に、竜輝は戸惑ったような様子で首を傾げた。
竜輝からすれば、掲示板でもトッププレイヤーとして有名らしいこの友人の方が遥かに強いし恐ろしい。
昨日、アンネ・シャルロッテで色々と祐也に詰め寄られたあと二人で共闘した時は、祐也の神業といっても構わないほどのプレイングに驚いたのだ。
しかし、祐也は甘い顔立ちのその目を釣り上がらせて更に竜輝に詰め寄る。
「いーーーーや、竜輝。お前はまだVRMMOシステムに慣れてないだけだから。さっすがバレー部のエース怖ぇよ戦いたくないもん」
「…じゃあ、バトロワでもし会っても不干渉で、俺も流石にお前と戦いたくない、殺されるだろ。」
竜輝のため息とともに出された提案に、祐也は「それがいいね」と舌を出して賛同するのであった。
「んじゃ、竜輝、お前明日の午後って空いてる?
俺午前いっぱい部活あるからログイン出来ないんだけどそのあとならいける」
「あー、俺は午後から部活だから無理」
祐也はあららら…と残念そうに綺麗な顔立ちの眉毛を下げる。
祐也はバスケ部、竜輝はバレー部にそれぞれ所属していた。
「んじゃ、それならしゃあないね」
「だな」
「手加減してね…キルケ」
「こっちこそ、夕」
少しの間があってから、クククと互いに可笑しそうに笑った祐也と竜輝はベンチから立ち上がり、それぞれバッグを担ぎあげて、空になった缶を持つ。
「それじゃあ竜輝ぃ、どこいこか」
「バッティングセンター行きてぇ」
「おっけ〜」
少年少女たちは、いつのまにか公園から居なくなっていた。
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「ひーかーりー!!」
同日、よく晴れた某県の中枢都市の駅前で、芽衣は大手を振りながらぴょんぴょこぴょんと光璃に近づいてきた。
そんな芽衣を見た光璃も微笑んで手を振り返す。
その様子を見て…ギクッとなった芽衣は、恐る恐る、といった感じで小声で光璃に声をかける。
「…待った?」
「えぇ、とても」
…それは、それは、いい笑顔だった。
芽衣は「ごめんちゃい」と気まずそうに目を逸らすも、未だ上品な笑みを絶やさぬ光璃の後ろでは、業火がメラメラと燃え上がる。
「…何時待ち合わせって話だったかしら?」
「…1時」
「今は何時?」
「…1時30分」
「家を出たのは?」
「1時10分です!!寝てましたごめんなさい!!!!」
光璃が笑顔で詰寄るのは、本当に怒っているときである。
恐れをなした芽衣は思わず「ぴゃーー!!」と擬音がつきそうな勢いで猛烈に反省するのだった。
それから5分ほど、やれ「こっちは約束の15分前には着いていたのよ」だの、やれ「そもそもなんで昼過ぎに時間設定したのに寝坊なのよ」だの、笑顔のままのお説教が続き、光璃が「ったくもう…」とため息をついて芽衣はようやく解放された。
「それじゃあ芽衣、どこから行きたい?」
「じゃあね、最近できたって言うアクセサリー屋さん行きたいな!」
ハンドメイドだから高いけど、見るだけ!と付け足して、先程までこってり搾られていたとは思えないような上機嫌な足取りで、焦げ茶のストレートヘアを靡かせながら目的の方向へと向かい始める。
その数歩後ろを光璃は追いかけはじめた。
…すると、誰か彼かからか光璃に不躾な視線が突き刺さる。
その視線が、先程までの光璃のお説教のせいでは無いことは重々承知している。
以前の、中学校までの光璃であればその視線に怯えていた。しかし、芽衣と光璃が通う美葉南高校はなかなかヘンテコな高校で、光璃のような髪色の人は多くはないが珍しくもない。そんな環境に1年も身を置けばいやでも自分の髪色にも慣れてくる。
視線は不愉快ではあるが、正直もう慣れたものなので憂鬱を振り払って芽衣を追いかけた。
「んとー、じゃあそのアクセサリー屋さん行ったあとはお洋服見たいなー!夏服もう出ているかなぁ」
季節はまだまだ桜が綻び始めたばかりだが、アパレルショップは得てして季節を先取りするものだ。芽衣は可愛いワンピースを探したかった。
と、いうのも、ACO内で凄腕の変人生産オタクことゆゆに作って貰った白のワンピースが気に入ってしまったのだ。
同じのは無理でも似たのないかなぁ、と呟く。
「そうね、あれとっても可愛かったもの。ゆゆさんすごいわよね…
うーん、私も買えるものあったら買おうかしら…ただ、今年の流行りってサロペットスカートなのよね」
「光璃が着たらどっちが幼稚園の先生かわからなくなるね!!!」
「はっ倒すわよ」
童顔を弄られた光璃は横でケラケラと笑う芽衣をじろりと睨む。…過去、光璃がサロペットスカートを着た時、完全に小学生みたいになってしまったのだ。南無。
すると、それまで楽しそうに笑っていた芽衣が「およ」となにかに気づいたかのような顔をする。
「芽衣?どうかしたの?」
「あそこに宮女の人いて、この辺では珍しいなぁ〜って思ったの」
そう言って芽衣が目線を向けた先には、チャコールグレーのプリンセスラインのワンピースに、黒い刺繍の施された白い丸襟、赤い棒タイの上品な制服に身を包んだ同い年くらいの女の子2人組がいた。
一方は綺麗な顔立ちに波打つ黒髪ロングの女の子、もう一方は、ふわふわとした色素の薄い茶髪のボブにうるうるした愛らしい丸い目を持つ女の子だ。
「…さすが宮女って感じね、身のこなしが上品だわ」
「ハンバーガーとかこぼさずに食べる訓練とかしてるのかなー」
「なんでよりによって宮女が食べなさそうなものを引き合いに出すのよあなたは」
芽衣と光璃が言う宮女とは、宮條女学院というこのあたりでは有名な超お嬢様学校のことだ。
校則がかなり厳しいことでも知られており、『家からウンm離れたところに行く時には制服着用』とかいう訳わかんねぇ校則がある、と聞いた事があった。さすがに盛ってると思っていたが話は本当だったようだ。何せ今は春休みだし、宮女の最寄り駅はここからだいぶ遠めである。
「うちの学校の人達、宮女行ったら耐えられなさそうだねー」
「…一部のバカは放り込みたいレベルね」
「なんで私の方見るの!?やめて光璃!?私耐えられない!!」
光璃はちょっと根に持つタイプだった。遅刻されたことにまだ怒っているらしい。
と、いうのも、芽衣たちの美葉南高校は、校則が無いに等しいヘンテコな学校だった。
とはいえ、医者志望の芽衣が通っているだけあって、このあたりではダントツで頭がいいことで知られている。ついでに頭がとち狂った奴らがいっぱいいることでも。
制服は当然のようになく私服だし、髪色も髪型もメイクの有無も当然自由。
なんならバレンタインの日にモテない悲しい男ども(そう例えばバタピーみたいな男)が教室で闇鍋開催して腐ったチョコレートみたいな匂いを撒き散らすレベルでイカれ、じゃなくて自由なのである。さすがにそれは怒られていたけど。
といった事情があるので、少し離れたところでそれは優雅に談笑していらっしゃる宮女は、まるで異世界なのである。
はえー、とアホ面晒してる芽衣の横で、光璃はふと中学校の時のことを思い出した。
俯いて怯える自分に、声をかける芽衣。
『じゃあさ、一緒に行こうよ美葉南!
光璃となら行けると思うんだ!一緒に頑張ろー!』
光璃は少し目を細めて「見てないで行くわよ」と芽衣に声をかけた。
その声は、先程の不機嫌なものよりも、ちょっと優しいものなのであった。
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「まじであのクソそのうちぶん殴ってやる」
「おーおー結さん今日も荒れてらっしゃる」
虫も殺さぬような朗らかな笑みを浮かべたまま物騒なことを口にする友人に、隣で聞いていた平澤花恵は煽るように口に手を当てて微笑む。
傍から見ればまるで優雅なお茶会の談笑のようではある。見てるだけなら。
と、いうのも、この友人こと速水結は、自由で強かなその本性からか、非常に父親と折り合いが悪かった。
結の実家は、ここ最近ではいっそ珍しいほど厳格で古風な家であるので「女は男の1万歩後ろにいろ」という感じである、というのが本人談。
「いや1万歩も後ろとかどうするのよ」
「そのくらいなの!守る気もないくせにとりあえず後ろに置いておきたいだけなのあの父親は」
「クソとか言わないの、せめてお花摘って言って」
「なんかそっちの方が生々しいんだけど…」
花恵のよくわからない訂正に、結は少しゲンナリした様子であった。
かくいう花恵も、家族仲はいいものの今度は教師との仲が悪かった。花恵の希望進路が自分たちの学校では類を見ないものだったからだろう。あとはしょっちゅう校則を破っては自分の好きなゴスロリでうろついているから。
今日は結を巻き込みかねないため校則通り制服で出歩いているが、一人で来る時は大好きな格好をする。
逆に結は教師との仲は良好だ。
結は自分の可愛らしく庇護欲をそそる見た目を存分に駆使して主要な男性教師陣を自分の味方につけているのだ。
とはいえ結は「JKの可愛さに惑わされるとかきっも」とせせら笑っていたが。
そしてそのせいで、結は女子生徒の一部から顰蹙を買っているが、本人はまるで気にしていない。
花恵も気にしていない。だって結が男性教師陣にあざとく振舞ったって自分に害はないし、花恵は結と好きなものについて喋るのが大好きだったから。
かくして、宮條女学院の嫌われ者2人組は、チャコールグレーのワンピースを翻して駅を歩く。
結はどうやらまた怒りをぶり返しているようだった。
「あーーもーー腹立つもう帰ってACOしよっかな…あ、そういえば花恵は結局種族と職業何にしたんだっけ」
「私?私はエルフ族の魔剣士よ」
「うーーわ不遇じゃん、できんの?花恵そんなゲームやったことないじゃん」
花恵はふふんと少し腹立つ感じで胸を張る。
そして、芝居がかった声で
「私の浪漫を求める情熱を見くびらないでくださいまし?この闇に呑まれし悪魔令嬢、†蜜姫†の覚醒の刻はもう目の前なのですわ!!」
と言ってみせる。
結は「あーはいはい」と呆れた声で返す。
「出たよ花恵の厨二病妄想癖」
「妄想癖言うな、もうすぐ叶えられそうな夢よ」
「厨二病は否定しないのね」
「それはそう」
だって好きなんだもの、そういうの。
「まぁ、次のバトロワ?のイベントでは暴れてやるわよ。父親だとか長男だとかへのストレスをVRでぶん殴って蹴り飛ばして発散していたらそのうち有名になっちゃったあなたには勝てなくとも。」
「かかってきなさい一撃で顎吹き飛ばしてやるわ」
すん、と低くなった結の声に、少しの間を置いて、二人揃ってふふふと上品に笑うのであった。
そしてその2人の横を、焦げ茶の綺麗なストレートを靡かせた美少女と、小柄で幼い顔立ちの、金髪碧眼の可愛らしい少女が通り抜けてゆくのであった。
そういえばどうでもいい余談なんですが、アンナ・シャルロッテの元ネタのパティスリーでバイトすることになりました。ぱちぱちぱち。
いつも見てくださってる方ありがとうございます。
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