追憶 長い長い絶望の始まり
一応最初の2行が前回のあらすじの全てとなっていますが、なんのこっちゃわからない人は「追憶 スラム街の少年」を見てください
トーマが総長エグゼウスにスラム街より救い出され、革命軍に入隊してから1ヶ月が経った。
その1ヶ月の間に、トーマは一兵卒として、多くの任務をこなしてきた。
それは機密文書の配達であったり、敵の偵察だったりと、どれも派手ではないが重要で、危険度の高い任務だった。そしてそれ以外にもアジトでの諸々雑用などがあり、かなり忙しい日々を過ごしていた。
それらをきちんとこなすトーマは、上からも割と気にいられているのであった。
そんなある日、トーマたちは革命軍最大のアジトである廃墟で兵士たちが使う武器の手入れをしていた。
「まったく上官も人使いが荒いわよねー」
「…聞かれたらまたしごかれるぞ」
「いいのよ、近くにいないもの」
そうやって子供のようにふんと不機嫌そうに鼻を鳴らすのは、トーマよりもほんの少し先に革命軍に入っていたという同い年の16歳の人族の少女、メルシーである。
チョコレートブラウンに金のメッシュが入っている不思議な髪をポニーテールにした彼女は、かつて孤児であった。
経営が立ち行かなくなったらしい孤児院を国の人間に焼かれて、寝食を共にした仲間たちを約半数失ってしたったという。
残った子供たちを守るため、自ら探し当てたエグゼウスに直談判して革命軍に入隊したらしい。
そのためか、エグゼウスに対しての忠誠は篤いが、革命そのものに対する意思はそこまで無いらしい。国の支配に対しては諦めがついている、と本人は言う。
「それにしても、トーマ」
メルシーはトーマを覗き込む。
「なんだよ」
「あんた、何を武器にするかそろそろ決めた方がいいんじゃない?訓練が本格的に始まった時困るわよ」
「あー…そうだな」
もうまもなく、トーマたち雑兵に対しての本格的な戦闘訓練が始まるのだ。
指導してくれるのは、将校たちである。
剣、弓、槍、盾、魔法、治癒、そして暗殺。
革命軍ではこの七部門のトップが将校となり、時に戦場で指示を出し、あるいは前線に立ち、そして時に部下の育成に務めている。
「メルシーは剣だったっけか」
「そうよ、あたしの目標はエグゼウス様のお命を守ることだもの。近衛になるには剣に進むしかないらしいわ」
「…お前は暗殺の方が向いていると思うがな」
トーマがふとごちると、メルシーは不機嫌そうに睨みつけてくる。
とはいえ、メルシーは革命軍総長として厳重に身を隠しているエグゼウスを後ろ盾のない孤児の身で探し当てた女だ。諜報の素質はあるはずだ。
「何も近衛じゃなくても、総長直近の影という形で守ることはできるはずだぞ」
「うるさいわね!それはあたしが決めることよ、口出さないでちょうだい!
…それよりもあんたよ、あんたはどうするの」
トーマは困ったように黙ってしまった。
はぁ、とメルシーは呆れたようなため息をついた。
「まぁいいわ、そうね、あんたは剣以外にしなさい」
「またなんで」
「あたしと同じだったらライバルになるじゃない?
そしたらあんた、あたしに叩きのめされるわよ」
そんな自信がどこから湧いてくるんだか、とトーマは呆れるものの、面倒になってきたので「そうかい」と適当に返した。
「こら、お前ら!!無駄口叩いていないで手入れをやれぇ!!!」
「うわぁ!?じょ、上官…」
「ほら言っただろお前…」
背中に大剣を担いで怒鳴り散らかしながら入ってきたのは、ドワーフ族の壮年の男であり、トーマ達の直属の上官であるヒョードルだ。
エグゼウスに拾われたトーマが次に会った革命軍の人間である。
ドワーフ族のため身長は低いが力は強く、自分の身長よりも大きく、自分の体重と同じくらいの鉄塊のような大剣を振り回す。その実力は、剣の将校と渡り合えると噂されるほどである。
しかし本人は、「将校になれば自由に前線に出れん!」と一蹴しているが。
それほどまでに強い彼だが、トーマやメルシーのようなまだまだ弱くいつ死ぬともしれない一兵卒も気にかけてくれ…そして、実際にトーマと同じころに入った少年が任務中に命を落とせば涙を流す、厳しく怖いが情に厚い人物であった。
「メルシー!お前喋れなくなるほどに鍛えてやるから作業さっさと済ませて表に出ろ!!
トーマ!お前もメルシーに乗っかった時点で同罪だ!!来い!!!!」
「はぁ!?トーマが悪いんですよ!!
トーマが武器をまだ決めないから、あたしはその相談に乗ってやったんです!!」
「なんで俺まで…」
びゃー!と文句を言うメルシーの横で、とばっちりを受けたトーマがため息をつく。
その、時だった。
かつん
「あ」
「どうした」
「あそこ、見て」
かつん かつん
トーマたちが作業している場に足音を響かせて入ってきたのは、白いローブを頭から被った小柄な女だった。
その後ろからは、今度は黒いローブを被った人たちがずらずらと5、6人続けて入ってくる。
「…あれは?」
「いらっしゃったか、口を慎めお前ら。
覚えておけ、あれがメリル様だ。閣下のお気に入りの娘で、たしか、旗持ちなんかやっている。
元は治癒部隊だったらしいが…」
そう言っていたヒョードルが、咳払いをして黙り、そして女の方を向いて跪いた。
「え?え?」と混乱するトーマとメルシーに、ヒョードルは今にも血管がはち切れそうなほどに怒った表情で目くばせする。お前らも跪け、ということらしい。
その圧に思わずメルシーと共にトーマは跪く。
女とその後ろの黒いローブの軍団は、3人の前までかつりかつりと近づいてきた。
すると女はその白いローブから杖を取り出し、3人の前に掲げる。
「…新たな未来を渇望する諸君に、光を」
ずいぶん事務的で、感情のない声だった。
顔を拝んでやりたかったが、この状態からのぞき込むことは横の鬼教官 (ドワーフだが)が許さないだろう。
そして、再びかつんかつんと音が鳴り、その音はやがて遠ざかって、消えていった。
…それから5秒後、後ろのメルシーがいる方向から、がばっと顔を上げる音がした。
「なに!?あの女!!あれでいい身分貰っているっていうの!?」
メルシーがキンキンした声で叫ぶ。トーマは耳をふさぎながら宥めすかす。
「おうよく耐えたな偉いぞ」
「えへ、あたし偉い?…ってそうじゃないわよ!!
あんな陰気くさい集団がエグゼウス様のお気に入りだって言うの!?なーんにもしてないじゃない!!やる気なさそうな声して!!」
「それはみんな思っているぞ」
ゆっくりと体を起こしたヒョードルが腕を組んで困ったように顔を歪める。
「あの女…メリル様は、およそ2年前までは治癒部隊の一隊員、それも下っ端だった。
だがある時、突然総長閣下がメリル様に上等な装備と軍内での身分、そしてあの黒いローブの集団…専属の護衛を与えたのだ。
閣下は聡明であられるから何かお考えがあってのことだとは思っていたが…正直彼女は、金を貰って戦場で旗を振っているだけでなぁ…」
あ、とヒョードルは付け足す。
「くれぐれも閣下とメリル様本人の前で貶さないようにな。
特にメルシー、お前は直情的なところがあるから心配だが、閣下に直接使えたいというならばより一層気を付けるように」
さっきの女…メリルが、敬愛するエグゼウスに仕えられるかどうかに関わるほどの重役であることに納得がいかないのだろう。メルシーは眉をこれでもかとひそめる。
しかしそれでも、エグゼウスを直接守る夢の方が大事なのだろう。
「…はい」
と、絞り出すような低い声で答えるのであった。
トーマはというと、メリルのことなど特に気にすることなく、それよりもこれから始まるであろうヒョードルの鍛錬の方が気がかりであった。
だからこそ、トーマは知らなかった。
これが、トーマの、長い長い
20年に渡る、絶望の始まりであるということを。
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2021/03/20 追記
名前が男性ぽいという指摘があったので、バートン→メリルに名前を変えました。




