それはたった一つの鍵
神聖都市マリアベル編完結です
このあと数話挟んで次章いきます
ノアとルミは、大聖堂の中を探索していた。
探索といえば聞こえはいいが、ほぼ観光である。
ミッションコンパスは「キャトスル(赤の王国の王都)行けや」と言ってくるが、無視を決め込む。邪族討伐したんだから多少ゆっくりしたって許されるだろう。
あとは、あわよくば何かアリスにまつわることを知れないだろうか、という狙いもある。一応。
「んー、でも、歩いても歩いても普通に綺麗な教会と、あとはアリスとは別人みたいな女神様の彫刻とか絵画ばっかりだねぇ」
髪の色は一緒だけども、と呟きながらノアは辺りを見回す。
ノアたちが歩いていたのは、大聖堂内の画廊だ。女神アリスやそれにまつわる神話に関する絵が飾られている。
飾られている絵画は、多少の画風の違いはあれどどれも似たようなシーンを切り取ったものだ。
片方は銀色の、片方は黒色の瞳を持つ、長い金髪の麗しくグラマラスな女性…すなわち、女神アリスが、跪いて剣を携える男の頬に触っているシーンだ。
しかし、ノアが出会ったアリスは、水色の瞳に、左目だけが魔族特有の黒い眼球を持っていた。
麗しいというよりかは、そばかすが素朴で可愛らしいボブカットの女の子である。あとスレンダーだった。
うーんと唸りながら、2人は画廊を出る。
「私はあなたの会ったアリスに会ってないから、その辺は何ともいえないけれども…なんか文献とかないかしらね」
「失礼いたします」
ふとぼやいたルミに、近くを歩いていた壮年のシスターが、声をかけてきた。
髪はシスターのベールの中に隠れて見えないものの、穏やかそうで優しい笑みを浮かべるシスターだ。
そしてその瞳は、青く…そして、虹彩だけが金色であった。
その瞳の特徴には気づかずに、ノアとルミは「はい?」と答えた。
シスターは、ゆったりとした穏やかな声で続ける。
「この通路をまっすぐ進んだところに、大聖堂に併設された図書館がございます。よければご利用くださいまし。」
「本当ですか?親切にありがとうございます」
ルミが礼を言うと、シスターは優雅に一礼して去っていった。
「じゃあ図書館行ってみましょうか」
「れっつごー!」
「…騒ぐんじゃないわよ」
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「飽きた!!」
「でしょうね…」
大聖堂図書館で、ノアは机をダァンと叩いた。
ノアは本を読むのがあまり得意ではなかった。
一方、文字がびっしり書かれている本に没入しているルミ。
そんなルミに「机叩くのやめなさい」と窘められて、ノアは「ぶー」とすっかりむくれている。
それにしても…とノアはルミを見る。
「こんなガッツリ西洋風のところに和装がいると面白いね」
「ミスマッチなのは私もよくわかっているわ。そんなことで笑うほど暇なら、まだ見てないところ見てきて頂戴」
ノアは「はーい」と気のない返事をして、立ち上がって図書館を出た。
図書館を出て、まだ通っていない通路を歩いていくと、ノアは礼拝堂へとたどり着いた。
「わ〜!!すごい綺麗!!
あの地下の礼拝堂よりも広いし、光が差し込んでいて素敵だね〜!!」
さすがは王国1の教会と言うべきか、ノアが邪族と戦った礼拝堂よりもずっと大きい。そもそもあそこは地下で陰気臭かったし。
白亜の礼拝堂の祭壇のその奥には様々なトーンの青のステンドグラスと、青と白の旗、そして一際大きな女神像が祈るような体勢で鎮座していた。
ステンドグラスは光を受けて、大理石と、青地に銀の刺繍のカーペットに色を落としている。
ノアがブーツの音をことりことりと立てて中に入れば、先客がいた。
礼拝堂のベンチでいちゃいちゃしてる猫獣人と人族の住民(NPC)と、自分と同じようにチラッと見に来ただけらしい鬼のツノを持つ女の子のプレイヤー、そして、女神像をじっと見つめる人族の男性プレイヤーだ。
ノアは綺麗なステンドグラスだなー、と思いながら祭壇の方へ近づいていく。
青のステンドグラスが光を落としているために、まるで水の中を歩いているような気分になるのだ。
あとでルミも連れてこよう、とノアは決めた。
そして、女神像に近づくと、先に女神像を真正面から見ていた男性が振り返った。
恐らく30代半ばだろうか、普通の暗めの茶髪と同じ色の目をしていた。青色のツナギのようなものを着ている。
そして腰には、少し太めの木の棒が警棒のようにぶら下がっている。
その男性は、ノアを視界に入れた瞬間、これでもかと言うほど目を見開いて驚いたような顔をした。
「あ!お気になさらず!!」
「…きみは」
「私はノアっていいます!」
「あぁ、そう…俺は豆腐鍋だ、自己紹介ありがとう。
ノア、ってことは…きみが邪族を討伐したのかい?」
ノアは一瞬きょとんとしたものの、「あぁそっか」と納得した。さっきACO全体にアナウンスが流れたからだ。
ノアは肯定する代わりにへへんと笑ってみせる。
豆腐鍋、となんだか美味しそうな名前を名乗った男性はなんだか納得したような顔をしてる。
「あー、いやなに。きみの装備が気になってね」
「それはベラベラ喋っちゃダメってルミに言われてるんです、黙秘権!」
「まぁそりゃそうだ、賢明だよ。
何も詳細を聞こうって訳じゃないんだ、本当に。誤解させて申し訳ないね。
俺はβテストもやってたんだけど、きみみたいな強い子がいたら覚えているはずなんだ。これでも顔は広い方だからね」
だから驚いたんだ、と豆腐鍋は笑う。
「βってことは…舞さんのことも知ってますか??」
ノアはキラキラとした目で豆腐鍋を見つめる。
豆腐鍋は「えっ?」と聞き返す。
「まいさん…もしかして、舞蘭のこと?」
「はい!!」
「そりゃ知ってるけども…きみ、あの子を知っているの?」
「師匠ですっ!!」
ノアはぴしっ!と敬礼して見せた。
豆腐鍋は、舞蘭を思い出す。おそらく自分より一回り歳下の、クールというよりはちょっぴり人見知りの女性。そして、ACO最強プレイヤー。
他のプレイヤーとはあまり関わらない印象の彼女。そんな舞蘭と目の前の少女がどういう経緯で知り合いになったのかはわからないが、舞蘭が師匠だと考えれば、なるほど強いのも納得がいく。
しかしなぁ、と豆腐鍋は首をひねった。
「舞蘭が教えるの上手いとは思えないんだがなぁ」
「…やって覚えろってタイプでした!」
「うん、大体把握した」
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「たーだいまーー!!」
図書館に元気よく帰ってきたノアを見て、ルミは手に持っていた本を閉じて出迎える。
「おかえりなさい、丁度私は区切りが着いたところよ。そっちは何か収穫あったかしら?」
「アリスのことについては特になかったけれど、舞さんとゆゆさんと、あと何だっけ紫色の髪の嫌なやつ」
「ゼットね、その覚え方は心の中だけにしなさいね」
「そうその人!その人たちと知り合いって人と会ったよ!キムチ鍋みたいな名前だった!」
豆腐鍋である。まぁルミも名前に関してはノアを信用していないのでキムチ鍋で覚えるような真似はしないだろう。
「ルミの方はどうだった?」
ルミは、数冊積み重なった本を難しい顔で見つめながら言う。
「基本は公式HPに書かれていることと伝承は大差ないわね。ただ、気になることはあったわ」
「えっなになに」
「…その前にあなた、HP見てないわよね」
「見てないです!!」
誤魔化さずにキッパリ元気に答えるノアに、思わずルミは「はぁ…」と呆れたようにため息をついた。
「じゃあ仕方ないから、かいつまんでまとめて話すわね」
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ACOのマップは、「赤の王国」と「白の王国」で構成されているのはわかるわね?
1000年前は、この二つの王国の代わりに「黒の帝国」っていう大きな国があったみたいなの。
そこはあまり良くない国だったみたいで、魔族以外、とくに獣人は差別されていたみたい。
そして、その「黒の帝国」が信仰していたのが、今邪神と呼ばれているグレバティスだったんですって…ぐるぐるフェイスじゃないわよ、やめて頂戴その呼び方。
そして、黒の帝国によって皆が苦しんでいるところに、「アリス」というオッドアイにきれいな金髪の女神様が現れて、「勇者」に力を授けたんですって。
…勇者に関しては、文献によって男女も名前も性格も武器も違ったわ。でも総合して一番多いのは槍使いの男性ね。王国で一般的に伝わっているのも槍使いの男性らしいし。
そして力を授かった勇者は黒の帝国の女帝を討ち取り、帝国領の半分を奪って「白の王国」を建立したんですって。
そして残った帝国も結局内紛で崩壊、「赤の王国」となった、というのが今の国の形になった経緯ね。
それで、時系列は正直文献によってぐちゃぐちゃなのだけれども、黒の帝国の崩壊に怒り狂った邪神グレバティスが世界を滅ぼそうとしたらしいの。おそらく自分を信仰してくれなくなったからですって。
そこを勇者が封印して…めでたしめでたし。
とりあえずここまでが公式HPにも書かれていた内容をちょっとわかりやすくしたものね。
そして、当時の女神アリスの使徒だったのが、幻翼族だったんですって。
使徒、というのがなかなか曖昧なところだけれども…神話の中ではキリスト教でいうところの「天使」みたいな扱いになっているけどもちょっと納得いかないわね。
たぶん実情は「神様公認の信者」ってところなのかしら。「君ちょっと優遇してあげるから代わりに仕事してくれない?」って感じの。
だから、今現在の女神の使徒であるプレイヤーも、邪神グレバティスの使徒の「邪族」も、他の住民(NPC)より強いけれども、生物として根本的に違う、って感じではないわよね。
…言い方がドライとか言わないで。この方が分かりやすいでしょ。
それで、ここからが問題なのだけど。
幻翼族は勇者がグレバティスを封印したときに、生贄となったらしいの。
もともと数が少なかった、その全員が。
…つまり、この世界に幻翼族はもういないはずなのよ。
だから、使徒とはいえこの世界に幻翼族が存在するのはどうなのかしら。
そうそう、それもあって、現在の種族カーストの頂点は有翼族なんですって。幻翼族に近しい存在だとかなんとか。
…そうよねぇ、有翼族と幻翼族の違いもいまいちわからないのよ。
そこは掲示板とか見てみようかしら、システム面からわかることもあるでしょうし。
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「ねぇね、ルミ」
「何かしら?」
「その幻翼族って、実はひっそり生きていたりしないかな?みんなからは死んだように思われているけど実は!!みたいな」
ルミは「なるほど」と少し思案する。
「…えぇ、そうね。それは十分ありそうね。ありがとう、ノア」
「えへへ~~どういたしまして!」
たりらりらーん!
丁度空気を読んだかのように、今まで聞いたことのないような軽快な音が聞こえた。
「およ、なんだろ?」
「えっと…あ、運営からのお知らせみたいね」
「うんえい!!見てみよ見てみよ!!」
ノアはルミの周りをぴょんぴょん跳ね回って催促する。「じっとしてなさい!」と言いながらルミは手元を操作する。
「…あったわ、これね」
そして、そのお知らせを見た二人の声はとても綺麗にハモるのであった。
「「…第一回イベント、バトルロワイアル?」」
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2060/3/17
第一回イベント バトルロワイアル のお知らせ
Alice Code;Onlineをプレイしてくださりありがとうございます。
正式サービス開始から、皆さまこの世界を満喫してくださっているようで運営一同喜んでおります。
さて、早速ではありますが、イベントを開催したいと思っております。
形式はプレイヤー全員がソロで臨むバトルロワイアルです。
できるだけ長く生き残ることが目的です。したがって、一人ずつ撃破するもよし、共闘するもよし、逃げ回るもよしです。
順位に応じて豪華景品がもらえますが、参加するだけで「スキル交換チケット銅」「5000マタ」が貰えます。
また、総合順位の他にもいくつか部門を用意しておりますので奮ってご参加ください。
なお、バトルロワイアルに参加せず、観戦することも可能です。
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日時
現実時間 2060/3/24
18:00~受付開始
19:00 受付終了バトルフィールド転送開始
※受付終了後はいかなる理由でもバトルロワイアルに参加はできません。予めご了承ください。
参加方法
上記受付時間にログインすると、各自自動で参加するか否かのアンケートウィンドウが表示されます。ウィンドウの指示に従ってください。
バトルフィールドは完全オリジナルマップとなっております。
いつも読んでくださってる方、ありがとうございます!
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2021/03/21 追記
気が向いたのでタイトル変えました




