「気を使わないで」と言われて本当に気を使わないほど非常識ではない
ベクソンを仕留めた【妖桜】とは、ルミの持つ「夜桜の弓」に搭載された、プレイヤーレベル30で開放されたスキルである。
【妖桜】
敵の心臓、あるいは核に正確に命中することで、敵の心臓を中心に大量のHPを吸収し養分とする桜を咲かせる。
HPの吸収限界量はSTRに依存する。
HPを限界まで吸収した10秒後、桜は枯れ、崩壊する。
低確率で恐怖状態付与。
舞蘭の地獄の特訓を経たルミのDEXは高くそもそも本人が器用な方なので、距離を取ったうえで【鷹の目】を使えば、たとえ大量の枝という障害物があれど鎖で拘束された敵の心臓を正確に射貫くことはたやすいことだ。
ただし、ルミのSTRでは、シークレットボスとして設定されてステータスも高く、そもそもレベルが格上のベクソンの1/4ほど残ったHPをすべて吸い取ることはおそらくできなかった。
しかし、ルミにはノアという心強い親友がいる。
ツバサがなんらかの方法で、ベクソンとあの厄介な枝攻撃を拘束できるということが分かった時点で、ノアとルミの思惑は一致した。
ノアがルミに最大限のバフをかけ、その支援を受けたルミが【妖桜】をベクソンの心臓にぶちこむ。
言葉はないがまぁそこは長年の親友としての勘である。
かくして、ツバサの拘束とバタピーの(目立ってはいなかったが)防御のおかげもあり、邪族の初討伐という快挙を成し遂げたのだった。
まぁ本当は、ノアの装備のことやルミの種族のことを何か知っていそうだったが、聞く余裕はなかったし、死んでしまったから仕方ない。
ぴろりん
「ほよ?」
「あら?」
二人のところに同時にチャットがきた。
どうやら、パーティーを組んだ時点で自動的にパーティーチャットが設立されていたらしく、この通知はそこからだった。
ツバサ
勝ったね!!!!
バタピー
勝ったぞ!!!!!!!
ルミ
勝ったわね!!
ノア
わあああああああああああああい!!!!!(どんどんぱふぱふ)
ツバサ
お姉さんたち二人とも死んじゃったからさすがにダメかと思ったよ…
あとお兄さんってば、桜がぶわあああってなった時びっくりして腰抜かしていたよ
バタピー
この俺様バタピー様がそんなことするわじぇねぇだろ
ノア
誤字ってるぅ
バタピー
ぴえん…
ツバサ
ところで、これは本題なんだけど、このなんだっけ、ワールドアイテムってやつは誰が持つ?
バタピー
正直、めちゃめちゃ目キラキラさせてるからツバサに寄越してやってほしいところだけども、だいじょうぶそ?
ツバサ
いやいやお姉さんたち気は使わなくていいよ!!??
…ここで、ノアとルミは顔を見合わせた。
たしかにあの少年はどことなく学者肌っぽいところがあった。やけに大人びていたし小学生にしては明らかに頭がいい(彼の得意分野ならノアやルミよりもずっと賢いだろう)けれども、知識を語るときなどは年相応の笑顔を見せていた。
とはいえ、ノアとルミにとってもこのアイテムは手放しがたい。
なにせノアは、アリスと名乗る、謎すぎるしメタすぎる少女と出会っているうえに、なんだか重要そうな人に「世界のことを知って救う」と約束をしてしまっている。
かなり悩ましいところだ。
だけどなぁ…と高速で返信するニッコニコのルミを見る。
ルミ
いいのよ持っていってちょうだい。
ルミは子供に甘かった。
重要アイテムをさっさと手放してしまったルミを思わずノアはじとーーっと見る。ルミは気まずそうに目をそらした。
「ルミぇ…」
「……あの子がキラキラした目で本を解読するところを想像すると、つい…」
「そうだろうと思ったけどさぁ…ノータイムて…」
「…ごめんなさい」
「うーん…いいよ!!!」
ノアはサムズアップした。
まぁノアとて、ルミほど子供好きではないものの、自分の弟よりも年下の子に「気を使わないで!」と言われるとさすがに(一応)お姉さんとしては気を使わざるを得ないだろう、と思うのだ。
ノアには中学2年の大絶賛反抗期中のクッソ生意気な弟がいる。
でもまぁこのくらいならいいよね、と思いノアは更に返信した。
ノア
でも私たちも見たいから、フレンド交換して今度見せてくれる??
ツバサ
それはもちろん!!!
ノア
わーーいありがとう!!!
バタピー
え!!??俺も交換していい!!??
ルミ
…考えさせて頂戴
バタピー
のーーーーーーーん!!!!!!
バタピーがオーバーリアクションでショックを受けているところを想像して、クスッと笑ったノアとルミは、「仕方ないなぁ」といいながらツバサだけでなくバタピーにもフレンド申請を送るのであった。
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「やっほー」
「うっす」
友好記念都市ダリア、女神像広場。
カーキの髪に蜂蜜色の瞳の王子様、夕が、颯爽と人混みを抜けて、テンション低めの挨拶を交わす。
相手は、大きめの体躯に青みがかった灰色の癖っ毛の吸血鬼の男、キルケである。
こちらもローテンションに返事をする。
すると夕はふと思い出したようにニヤリと笑った。
「そうだお前、なんで日付間違えてたんだよ」
「間違ったものは仕方がない」
「でもってなんでそれで何時間も待つんだよ」
「健気に待ってたんだよ」
クールな雰囲気の大男が真顔で自分のことを「健気」なんて言うものだから、夕はげらげらと笑い始めてしまった。キルケは悪びれもせずにぽやぽやしてる。
「んにしてもキルケ、お前初期装備からは変えられたのな」
「あー」
確かにキルケは、前日にルミとノアに会った時の初期装備からは打って変わって、灰色をベースとして銀と青が差し色となっている軍服と、青色の持ち手に銀色の刃の大剣に変わっていた。
「結構強そうだけどどうやって手に入れたの?」
キルケはちょっと考えた後に、答えた。
「…雪山で遭難したら見つけた」
「は?」
「いやなんか、お前と結局昨日会わないならどうしようかなーと思って、じゃあ適当にレベル上げするかと思って。」
「はいはい」
「で、赤の王国の方の、キャトスル?とダリアの間でやろうかと思ったんだ」
「…で、方向間違えてよくわかんないけど雪山に行ったと?」
「何でわかった!?」
「わかるよ!!??キルケのことだからどうせそんなとこだろうと思ったよ!?」
キルケはあまり表情を変えないものの、クールな顔に大きく「ひどい!」と書かれた気がした。キルケは表情筋は死にかけではあるが、かなりわかりやすい所がある。
「うん、で、まぁ、続けて?」
「…で、遭難してたら山小屋見つけて、入ったらなんか爺さんがいて、その人に譲ってもらった。」
「うーん…謎が多いなぁ…」
夕はβテストを思い出すが、あの時は、ダリア、マリアベル、キャトスルの三都市しか公開されていなかったため、雪山など覚えがない。
あぁでもたしか、魔女さん率いる考察班がキャトスルの城のてっぺんによじ登って「あっちに森!あっちに雪山!あっちは…霧で見えないぞ!!!」って叫んでた気がする。もしかしたら見えていたのかもしれない。
ちなみに、城によじ登った彼らは赤の王国の衛兵に連行されていた。牢屋から「城の内部把握してきました!!」って掲示板に元気に書き込んでいた。ああいう人種がいちばん強いよな、と夕は苦笑いした。
「ん、夕。じゃあどこ行く?」
「えーとりあえずお前がどんな風に戦うか見たいからなぁ、キャトスルからちょっと離れたところ行くか。」
「了解」
そして、2人が歩き始めたその瞬間、上空から声が聞こえてきた。
≪使徒の皆様にお知らせいたします≫
≪使徒 ノア ルミ ツバサ バタピー がリュコス遺跡内のシークレットボス、邪族ベクソンを撃破しました≫
≪これは、初の邪族撃破になります≫
…ダリアにいたプレイヤーの多くがざわついた。
夕もまた、思わず訝しげな顔をしてしまう。
「邪族…?リュコス遺跡にいたのか…裏ボスなのかな?気づかなかった」
βの時にはあまり触れられなかったので忘れていたが、思い出した。使徒の目的は、邪神とその配下の邪族を滅することである。
ということは、ワールドクエストにも直接関わってきそうだよな…と考え始めたところで、気づいた。
「キルケ、そんなカラスがBB弾食らったみたいな顔してどうした?」
「ん、鳩が豆鉄砲だろ」
「…小学校の時それで覚えちゃったからしゃーない」
「どういうことだよ」
夕は時折、微妙にずれた言い回しをすることがあった。まぁいつものことである。
「まぁそれはいいんだよ、どうした?」
「いや、今言ってた『ルミ』と『ノア』っていうのが、昨日ダリアでフレンドになった人」
「あー、お前がイケメンムーブして助けたっていう子か」
「イケメンムーブって…」
ニヤニヤと詰め寄る夕に、キルケは不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いてしまった。
キルケの口角が微妙にびくついている。…照れているらしい。
「でも、そうか。その子たちが邪族撃破したのか。強いのかなぁ?どういう子だった?」
夕にとって、もしかしたらライバルになるかもしれない存在だ。幸運にもキルケが彼女たちに会った事があるならば、情報は入れておきたい。
キルケは顎に手を当てて思い出す素振りをする。
「ノアが、騒がしくってチワワみたいなエルフ。
で、ルミがなんか特殊な感じの有翼族?なのかな。で、かわいくて優しい子」
今度は夕が、カラスがBB弾…ではなく鳩が豆鉄砲を食らった顔をする番だった。
「き、き、き」
「キルケが女の子に『かわいくて優しい』って言ったああああ!!!!!」
「あの朴念仁でクソ鈍感で初恋クラッシャーのキルケが!!」
「初恋クラッシャーってなんだよ」
「女に興味無いぜって感じの顔をしていたキルケが!!」
「特殊な感じの有翼族は気にならないのか」
「気になるけどその前に俺の兄弟の大進歩を祝わなくちゃいけないだろ!!!!
女の子をまともに褒めやしないし元カノにも『私のこと本当に好きなの!?』とか『気を使ってよ』言われて頷くだけだったあのキルケが!!!声に出して『かわいくて優しい』って!!!!!」
「俺の兄弟は颯真と早乃だぞ、お前じゃない」
「そうじゃなああああい!!!」
夕は思わず近くの壁をドォン!と叩く。壁ドンである。相手はいないが。
夕はキルケの耳を引っ張り始めた。キルケが自分よりも10cmも背が高いのが憎らしい。
「痛い痛い痛い」
「うるさい!!とりあえず、バトルは後だ後!!すずめ亭とアンナ・シャルロッテどっちがいい!!??」
「どっちも知らん手を離せ耳千切れる」
「しょっぱいものと甘いものどっち食べたい!?」
「甘いもの」
じゃあアンナ・シャルロッテだな!!いくぞ!!と宣言した夕は、更に耳を掴む手に力を込めてキルケをどなどな引き摺って行くのであった。
アンネ・シャルロッテ、というスイーツパティスリーは、実際に私のお気に入りのパティスリーが元ネタです
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