駄々っ子の欲しがるものは大したものじゃないという話
私気づいた
フッ化水素とらびび動かすの苦手だ(白目)
ということで今回は別の人たちサイドです。
するする書けました。
一方ここは、王都マリアベル中心街の路地裏。
「…よぉ、相変わらず湿気たツラしてやがる、王子様」
黒い刃の剣を肩に担いだ、足首ほどまでの黒いマントに紫の髪の魔族のプレイヤー…ゼットは、目の前の男に愉快そうな笑顔で話しかけた。
しかしそれは、断じて親しい友人に対しての笑顔ではなく、そう、例えるならヤンキーの上級生が気に入らない後輩に話しかける時のそれだった。
話しかけられた男は、確かに「王子様」と呼ばれるに相応しい風貌をしていた。
耳や目に僅かにかかる程度の長さの髪はサラサラとしており、無造作でセットも大してしていないにもかかわらず様になっている。顔立ちも、やや女性的ではあるが端正で甘い雰囲気を醸し出している。
惜しむらくは、王道の王子様のような金髪碧眼でもなく、あるいはハーレムものの主人公のような黒髪黒目でもなく、カーキ色の髪と金色の瞳であることだろうか。
しかし、その金色の瞳は蜂蜜のようでもあり、甘く溶かしてきそうな魅力がある。
装備は至ってシンプルで、白いシャツに黄緑のベスト、茶色のカーゴパンツと、ランクが高いとはいえ既製品であり、中の上のプレイヤーが身につけるものである。
唯一、背中に羽織っている深い緑に黒い裏地の腰の下までのマントだけは、光を反射すると細かく金色に輝き、トッププレイヤーに相応しい装備であることがひと目でわかる。
腰には、これまた非常にシンプルだが、洗練されたデザインの片手剣が皮の鞘に収まってぶらさがっている。
そして、王子と呼ばれた男は、その剣にすぐさま手をかける。
「…王子様だなんて言うなよ、気色悪いなぁ」
「はっ、そっちこそ白々しい笑顔やめろよ。気持ち悪ぃ」
ゼットにそのように言われる彼は、なるほど優しく穏やかな笑みを浮かべてはいるが、金色の瞳は感情を映し出していない。
勘のいい人が見れば表面上の笑顔だとわかるものだった。
「…それで、なに。また俺を襲いに来たの?
やめてよ俺、明日リア友と約束してるからそれまでにレベルまであげなきないけないんだよ。時間ないの」
「へー、お前、友達いたんだ?どうせ嫌々の付き合いだろ?」
「…あいつは違う」
その真剣な声に、ゼットは「へぇ」と意外そうに答える。
「そりゃあ、なに。数少ないお友達は大事にしなきゃあな?
じゃあいい、俺は今日機嫌がいいんだ」
「…へぇ、珍しいね」
心底どうでもよさそうな男の様子を無視して、ゼットは続ける。
「あぁ本当に。馬鹿みたいに面白い女たちがいたんだ。お前、BANTZの玉と同じ大きさのライトニング食らったことあるか?」
「…はぁ?」
BANTZとは、死んだはずの人間たちが全身タイツみたいなのを着て敵と戦う漫画だ。それに出てくる玉とは、自分たちの身長と同じくらいの大きさだ。そのレベルのライトニングなど見たことがない。
フッ化水素も出そうと思えばそのくらいのライトニングは出せるのかもしれないが、奴はライトニングよりも上位の魔法スキルを使う。
「そんな奴いるの?そんなの【シューティングスター】じゃないか…」
「おっ、ようやく興味持ったか、人間らしい目もできるんだな?…おい待て話すからその表情やめろ。
…まぁ詳しいことはわかんねぇ。舞蘭のやつは初心者だろって言ってたが。
まぁ何よりえらい美人だったぞ2人とも。儚い系の美人とロリ系のかわいこちゃんって感じだな」
「美人かどうかなんてどうでもいいよ…で、初心者なの?それでそんな威力の魔法出せる?チートじゃないの?」
「おいおい、美人に興味ねぇとか嘘つくんじゃねーよ思春期!
…まぁさておき、チートを使ってる様子も無かったな。言われてみればPSはカスだったし」
「PSはないのか、ならいいや」
そう言って、男はその場を立ち去ろうとする。ゼットは慌てて引き止めた。
「おいおい、お前の興味の基準なんなんだよマジで…」
「いや俺は、とっとと全クリしてイベントで一位とれたらもういいし…
PSないなら上位に食いこんでもすぐ居なくなりそうだから、まぁ俺の障害にはならないかなって」
心底面倒臭そうにため息を着く彼の言葉で、ゼットは理解した。
「なるほどなぁ…夕、お前、ACOが作業になってるのか?」
「作業っていうか」
「作業だろ。そんなんじゃあお前すぐ飽きて引退しそうだな…ったくどうりでゲームしてんのにつまんねぇツラしてる訳だべ」
「…一位取るまではやめないよ」
「あぁそうかい、じゃあお前は一生この『クソつまんねぇ』ゲームに時間を割くことになるな、俺お前に負けるつもりねぇし。ご愁傷様?」
皮肉めいたその言葉に、男…プレイヤー名、夕は少し気まずそうに目を逸らした。
ゼットは不愉快そうに顔をゆがめて続ける。
「ほらあるだろ、自分にとって傑作のアニメでもネットのレビューでボロくそ言われてたら、駄作のような気がするってやつ。
俺にとって、そのレビューがお前。てめぇがつまんなそうにACOやってるから俺までつまんなくなるんだ。
義務感でやってるならとっととやめろ?その方が俺もお前も有意義だ。」
「…だから一位とるまでやめないってば」
頑ななその態度に、ゼットは思わず頭を搔く。
「なんなんだよお前のその一位への執着は…」
「…癖?」
「そんな癖があってたまるかよ…」
もういい、とゼットは呆れたように呟いて、夕に背中を向けた。
大股でその場から去りながら、ゼットは振り返らずに夕に言う。
「まぁ、やめろは言いすぎたが、リア友とひっそり楽しくやってろ。
一位、そのうち取れればいいなァ?《疾風》さん?」
嫌なことを言うやつだ、と思いながら、夕はゼットの背中を眺めていた。
しかし、たしかに作業ゲーとして、義務感でACOを続けているのも事実だった。
正直ヘッドギアの準備をするのもだるく、いつも「やるかー…」と気合を入れてからヘッドギアを手に取ってる。学校の宿題と同じような感覚だ。
それでも、1位をとるまではやめられないのは、小学校の時のバカな思い出のせいだというのはわかってる。
喧嘩するほど仲がいい、という訳では無いはずだ。断じて。
せめて「あいつ」にもう一度会って、なんでもいいから俺が勝つことが出来たなら、この執着から逃れられるかもしれない。
その時には、あるいは一位をとれたなら、まぁ、竜輝には悪いがACOはとっとと辞めたいと思っていた。
竜輝とは、彼のリアルでの親友の本名だ。明日、ダリアで待ち合わせをしている。無愛想で第一印象はとっつきにくいが、話せば親しみやすいやつだ。
まるで俺と正反対。俺が辞めたところでフレンドをさっさと作るだろう。
卑屈な感想を抱く夕はフレンドは基本的に作らない。どうしても成り行き上仕方なく作ることならあるが、その後は連絡もなくチャット欄は膠着したままになる。
いつでもしがらみなく引退できるようにしているのだ。さっさと「遊び尽くして」辞めるのにフレンドを作ると厄介なことになる。
今も、フレンド欄にはβの時にクエストなどの成り行きでフレンドになった顔も思い出せない僅かな人々と、竜輝のハンドルネームだけしかない。
そう思ってると、タイミングがいいのか悪いのか、竜輝からチャットが入った。
「ん?どうしたんだ……っていや…プッ…」
夕はそのチャットの内容を見て、相変わらずなやつだと思って1人で笑ってしまった。
キルケ
今日待ち合わせだと思っててさっきまで何時間も待ってた
あとなんかフレンドできたさ
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「ッぷはーー!!楽しいねぇーー!!」
現実世界、ノアこと穂川芽衣の自室。
ACOからログアウトしてヘッドギアを外すと、まだ少しACO内での感覚が抜けていなかった。特に、ウィンドカッターを発動した時の杖にかかる風圧は手のひらに鮮明に残っている。VRMMOに慣れると感覚も簡単に抜けるようになるらしいが、ノアは初心者だった。
しかし、現実同様ACOでも大して動かない芽衣はともかく、現実とは違ってビュンビュン飛び回っていたルミこと町本光璃は大丈夫だろうかと、芽衣はふと心配になった。
エアディスプレイを起動する。空中に現れた画面のホログラムを指ですいすいと操作して、同時にログアウトして今頃部屋にいるはずの光璃に電話をかける。
「もしもーーし!!」
『はい、もしもし…あー、体が重いわ…』
「あちゃー、やっぱりだめだったかー」
『そうね…こっちの体が重いと言うよりあっちの体が軽すぎたのだけど…』
案の定、現実との感覚の乖離が襲ってきたらしい。光璃の不機嫌そうな絞り出すような声が聞こえてくる。光璃は低血圧気味なので特に冬場の朝はしんどそうなのだが、まさにそんな感じである。
『あっちでもう…ビュンビュン飛んだから…』
「舞さんスパルタだったねー!!」
そんなしんどそうな光璃とは対照的に、キャッキャと心から楽しそうに笑う芽衣。「あなたは良いわね…」と恨めしそうな声が聞こえてくるが聞こえないフリをした。
『でも、そうね。いい人に会えてよかったわ。あなたったら人懐っこいから、ありがとう』
「光璃がでれたー!!!」
『…次ログインした時覚悟しておきなさい、素敵な双剣作って貰ったんだから』
「きゃーーー!!こわーーーい!!!」
『芽衣』
「ごめんなさい」
途中までは脚をばたつかせながらおちょくっていたものの、さすがに本気のトーンで名前を呼ばれれば、すちゃっと正座したくもなるのだ。
「んじゃー私そろそろ勉強してくる!」
『偉いわね、世界史もやるのよ』
「やらないもん!もう世界史とらないもん!」
『あー、そうね、あなた四月から理系なのねそういえば…』
「そうなの!だから地理とるんだ!名前ないし!!光璃!教科書忘れたら借りに行くね!」
『…忘れない努力はしなさいね』
芽衣と光璃にはそれぞれなりたい職業がある。
かつて、まだ幼い時、病気に冒された母を救ってくれた医者に憧れる芽衣。
そして、幼い従兄弟たちのような子供たちを笑顔にできる幼稚園の先生になりたい芽衣。
こんなにぽやぽやしたJKではあったが、存外真面目な夢を持っているのだった。
☆わかる人にはわかる元ネタ☆
BANTZ→作者がにわかどころの騒ぎじゃないせいで全身タイツとか言い出していますが許してください
そしてキルケくんの本名がわかりましたね。
苗字は猪口です。猪口竜輝くんになります。




