愛の逃避行
たいっっっっへん申し訳ございません学校の授業やら色々で全然更新できませんでした。あと普通に筆が進みませんでした。ふかぶかどげざ。
ここからは更新スピード戻します。たぶん。
メリッサ・ホワイティ。齢は15である。
白の王国の第二王女である彼女は、隣国たる赤の王国との友好の証として、赤の王国の第三王子、ハグリッド・ヴァン・レッドリーに嫁ぐことが、つい三か月前に決まっていた。
赤の王国との友好は、1000年にも及ぶ。白の王国、赤の王国それぞれは大きくない国であるが、この二か国がまるで同じ国の違う地域のように、手を取り合って来たからこそ、1000年という長い間、近隣の強国からの侵攻を退け、緩やかに栄えてきたのである。
両国の友好は揺るがないものであるが、数代に一度、各国の王族が、たがいの王族或いは公爵に嫁ぐことで、この友好をより強固なものにするのである。
そして、メリッサこそが、今代の友好のための婚姻の花嫁として選ばれたのである。
しかし、国家に大きく係わる婚姻であるのに、なぜ急に婚姻が決まったのか?
これには、使徒の存在が大きく係わってくる。
話を聞けば、各国の王や重鎮が神託として使徒の存在を知らされたのは、半年前だったという。
両国ともにモンスターの被害や、邪族の脅威に頭を悩ませていたところに、突如降って湧いた話だったのだ。
両国は使徒について取り決めを交わした。決して一か国のみで使徒の力を独占しないということを。この局面を二か国で協力して乗り越えようということを。
いくら友好関係にある白の王国と赤の王国とはいえ、使徒という存在は彼らの長い歴史においてイレギュラーであった。
故に、彼らは「人質としての婚姻」を約束した。
そして白の王国から嫁ぐのが、メリッサである。
5つ上の第一王女のカミラはすでに国内の公爵家へと降嫁しているため、婚約者のいない妙齢のメリッサが選ばれたのだ。
なお、メリッサの一つ上の第三王子フェンネルもまた、今回の事態に際して婚約者が決まった。赤の王国第四王女のドレシアだ。12歳とやや年は離れているものの、赤の王国の王女で婚約者がいないのが彼女しかいなかったのだ。
そして、メリッサの婚約者として決まったのが、同い年の赤の王国第二王子のハグリッドである。
婚約が決まってからメリッサは一度だけハグリッドと顔合わせをしている。正直あまり顔を覚えられなかったのだが、少しやりすぎなほどにこちらに気を使ってくれるような人だ。
悪い人ではないことはわかっている。
けれど、メリッサが執事のスクアードと愛を育んだ時間はあまりにも長かった。
メリッサが3つの時からそばにいたのだ、彼は。
いずれ執事となるように育てられた二つ上の彼は子爵令息で、数代にわたり王族の侍従を務めてきた家系であった。
そして、最低限とはいえ王宮で通用する程度の執事としての知識を叩き込まれた彼は、最も歳の近い王女メリッサの話し相手として、執事教育の実践を行うことにしたのだった。
メリッサは今でこそたおやかで、淑女の鑑のような娘であるが、王女としての教育が本格化する5歳までは、それはそれはお転婆であり、使用人たちはメリッサの回収に大忙しであった。
スクアードは、そんな王女の唯一無二の「共犯者」であった。
彼女が裏庭に探検したいと言えば「護衛です」と澄ました顔で着いていき、裏庭の池のアヒルを追いかけようとする王女を「頼むからそれだけはやめてください」と止めたり、あるいはスクアードの父親で、現王の執事でもある子爵にいたずらをしようとする王女のためにこっそり手引きしたり…
共に笑い、共に怒られ、そして学び。
そうして共に歩んできた2人は、いつのまにか互いに恋い慕うようになっていたのだった。
しかし、そもそも王女と子爵という低い身分の執事の恋愛は、民にはドラマチックなラブロマンスとして人気が出そうではあるが、現実には厳しかった。
スクアードは一度、「メリッサ殿下は本当に素敵な方で…」と父親の子爵に漏らしたところ、
「スクアード。我々はな、あくまで王家の手下であるのだよ。立場を弁えるのだ。」
と、厳しく釘を刺されたのである。
故に、2人の恋は、誰にも知られてはならなかったのだった。
唯一、メリッサがじゃじゃ馬娘出会った頃からの親友であるデボラ・マッカートニー公爵令嬢のみは二人の関係を知っており、2人が逢い引きできるように画策していたのだ。
今回、2人がどこかへ逃げようとするならば、確実に彼女の協力が必要である。
しかし、デボラは一か月前に馬車で事故に遭い、幸いにも命に別状は無かったものの、足に怪我を負ってしまったのだ。
現在、傷跡が残らないように慎重に、【ヒール】を繰り返し掛けている段階であり、まだ満足には動けない状況であった。
故に、秘密の話をするために、デボラにこちらに出向いて貰うことは出来ない。
しかし手紙に事細かに書けば、検閲されてしまい、そこから秘密が露呈する。
スクアードは王宮から離れられないため、直接マッカートニー公爵邸へ出向くことは出来ない。
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「故に、『詰み』ってことか…」
王宮内、メリッサの自室の横の応接室。
青と白がベースの、しかしこちらは木製の家具が多く落ち着いた雰囲気の部屋で、ふっかふかのソファにらびびとフッ化水素は座っていた。向かいには、優雅な動作でお茶を飲むメリッサがいる。
スクアードはメリッサの斜め後ろでしゃんと立っている。
事情を聞いたフッ化水素は少し考え込む様子を見せる。
「しかし、なんでそんな事情を話すほど僕達を信用してくれたの?いや嬉しいんだけどもね。」
「あの現場を見られてしまいましたから…毒を食らわば皿まで、ということです。
それに、見られたのがあなたたち使徒様でしたから。使徒様は、新たにこの世界に来たばかりです。この世界の社会的な情勢とはしがらみが無いとも言えます。
ですので、お父様への義理もないでしょう?でしたらお父様たちへ報告される可能性は、ほかの王侯貴族や使用人たちよりはまだ低いかもしれない、と判断したまでです。」
と、メリッサは少し不安げな微笑みを見せる。
信用できるかどうかは賭けらしい。
「んじゃ〜あ、そのデボラ様、って方にらびぃたちが連絡取ればいいのかなぁ?」
きょとん?という感じに首を傾げるらびび。
「メリッサちゃんも言っていたけれども、らびぃたちはぜ〜んぜん!この世界の人達とまだまだ関わりがないの!
だから、らびぃたちが直接メリッサちゃんたちの愛の逃避行を助けるのは無理かなぁ?」
「愛の逃避行て…」
なんか響きが一昔前のメロドラマみたいだな…おばさんかこいつ…と思ってしまったフッ化水素は、隣の兎から冷気と殺気を感じ取り、慌てて背筋を伸ばす。
「そうですね…では殿下、今から具体的な計画を立てます。その詳細を、デボラ様に手紙で書いてくださいませ。」
「…わかったわ、スクアード。
らびびさん、フッ化水素さん、あなたたちの案に乗ります。公爵家についてから、私からの名代と言って手紙とは別に渡す紹介状を見せれば直接デボラに通してくれるでしょう。」
覚悟したように、重々しくメリッサは頷いた。
それを聞いたらびびは、ウサギの耳をぴょこぴょこさせながら「うんうん♡」と嬉しそうに頷いた。
すると、突然、フッ化水素とらびびの上空から声が響いてきた。
妙齢の女性の声だ。
≪使徒の皆様にお知らせいたします≫
≪使徒 夕 が神聖都市マリアベルの初回踏破者になりました≫
「…ん」
「あれぇ?」
彼らはその知らせに、思わず天井を仰いだ。
「…夕がトップバッターか。速いな。RTAでもしてたか?」
「まぁそれならイベントは踏んでいないでしょ」
夕、という名前は彼らはよく知っている。
らびびにとっては因縁深い相手だ。フッ化水素は直接は戦っていない分、より強く警戒している相手である。
――――――王子様のような優し気な笑顔には似合わない、心底つまらなさそうな瞳。
それを思い出したらびびは不快そうに目を細め、フッ化水素も真剣な顔になる。どうやら夕は、サービス開始から大して時間もたたない間にまた強くなっているらしい。
急に様子の変わった二人に、目の前のメリッサは訝しげに「どうなさいましたか」と首をかしげる。
フッ化水素とらびびは、まるで空耳を聞いたかのように何でもないそぶりで向き直った。
「いいえ、なんでもございません。メリッサ殿下。安心してくださいませ。必ずや、あなたがたの思いは、我々がサポートいたします」
「そうだよぉメリッサちゃん♡
愛のない結婚なんて寂しいもの、女のコだったらしたくないのは当然だよ!
らびぃと一緒にがんばろうねっ♡」
メリッサは、「ありがとうございます!」と心底嬉しそうにほほ笑み、傍らのスクアードは、これから起こす事件のために、覚悟を決めるのであった。
愛の逃避行のための計画が今、始まった。
余談ですが、メリッサが5歳まで比較的好きにさせられていたのは白の王国の王族の、数代前からの教育方針です。
心を豊かにするため、ということで、王子・王女は危なくない範囲で好きに遊ばせるようにしています。
どうやら数代前の『元』王太子様が勉強詰めにさせた結果かなりのパスサイコになったらしいです。
まぁ本筋には関係ないようですが。