≪厄災≫の襲来
新章突入です。
重要人物がぽこぽこ出てきます。
「ルミー!【STR加護】!」
「ありがとうノア。…【花に嵐】」
「そしてその間に〜【ウィンドカッター】!」
雛菊の平原、マリアベル側。
本来であれば、ノアは一度マリアベルにいたことがあるため、転移石でマリアベルまで飛ぶことが出来るのだが、ふたりはわざわざダリアからマリアベルまで歩いて行くことにした。あんまし目立たないように人のいないとこを選んで。
それぞれの新装備のスキルの確認と連携プレーの練習のためである。
ノアとルミは、シルバーウルフとアグリーダック、そしてラフラビット――laugh(笑う)ではなくrough(乱暴な)らしい――の大群に囲まれていた。およそ、30匹の。
ノアの化け物バフ【加護】を受けたルミは、大群の攻撃が届かない上空10mまで急上昇し、弓を放つ。刹那、一本だったはずの矢は10本となり、桜の花びらのエフェクトを纏ったまま地上に降り注ぎモンスターたちを無差別に屠っていく。
そして上空からの矢が当たらなかった魔物は、ブーメランのように大きく旋回する風の刃によって切り裂かれていった。
かくして、ほんの短時間であたり一帯にはモンスターが完全にいなくなってしまった。運営の想定撃破を上回り、この近辺のリポップのストックがなくなってしまったのである。運営は現在、対応に追われている。
たしかに、この辺りは人が寄らない前提でリポップのストックも少なかったが、二人のステータスに対しては個々のモンスターが弱すぎるのも事実だったが…あんまりにも、あんまりである。
撃破後の演出の光の粒子が乱反射し、あたりは幻想的な風景になっていた。まぁモンスターの残骸なのだが。
「わーいすごい!!このあたりのモンスター全滅したよ!!」
「えぇ、ほんとに全滅出来たわね…ノアの化け物バフのおかげよ。敵の引付もありがとう。」
えっへん、という風に胸を張るノア。聖女セットによるステータス上昇に加え、回復量が大幅に上がるパッシブスキルの【聖女の矜持】も相まって、ノアの【ヒール】は初期スキルでありながら致命傷も即座に回復できるレベルになっている。また、VITもそれなりに高めだ。なので、本来後衛のはずのノアが盾役をやっていたのだ。
「じゃあこのままマリアベルにGOしよう!」
「えぇそう…」
「ごきげんよう嬢ちゃんたち」
刹那、ルミの背後に急に、黒いマントを羽織った男が現れ、剣でその背中に斬りかかった。
「っルミ!?」
明らかにダメージは大きいだろう。ルミが大きくぐらつく。
「悪いなぁ不意打ちで。さて、お友達のエルフの子も殺ってやるよぉ!!」
そう叫びながら、紫の髪に銀の瞳の魔族特有の黒い白目の男が、ノアに対して大きく振りかぶる。
突然のことで涙目で硬直してしまうノア。
目の前に剣が迫ってくる。
「ッ!!」
カキィン!!!!!!
金属同士がぶつかる音。
「…急に、襲うなんて、ッマナーのなってない男は嫌われるわよ…!!」
「ありゃ?当たってなかったか?」
先程致命傷を受けたであろうルミが双剣で男の剣を受け止めていた。
しかし、ルミの双剣は夜桜セットに含まれていなかったので、初期装備の銅の双剣のまま。
一方襲ってきたは、黒く光る刃に銀色でなにやら呪文のような文字が彫られており、明らかに上物だとわかる剣だ。下手したらルミの弓、いや、ノアの杖と同等レベルの。
そんな剣どうしでの押し込み合いでは、当然ルミの方が分が悪い。
頬に冷や汗が伝うルミを見て、ノアはすぐに行動に移した。
「【STR加護】!【チアアップ】!【ライトニング】!」
【加護】はルミに、【チアアップ】はノア自身にかける。そうして少し後ろに下がって杖の先を男に向ける。【ライトニング】の魔法の光が男の顔面に直撃した。
男は思わず後ろへノックバックする。
「ってぇ…うわぁHP半分まで減ってんじゃん、さっきの【ライトニング】だよなぁ…?しかもエルフちゃん、LV.4じゃねえかよ…へぇ…」
よろめきながらもなんとか持ち堪えた男は、やけに面白そうに笑みを浮かべる。
ルミは随分お怒りのようで、責めるような口調で男に詰め寄る。
「…PK行為自体は否定しないけれども、私たち狙うのはないんじゃないの。しかも不意打ちで」
「はーぁ???お前たちみたいなのこそ俺からしたら狙うほかないんだけど」
男はケロッとした顔で答えた。
なるほど、とルミは思う。
どうやらこいつは初心者を狙うタイプの悪質なPKらしい。ちょうど自分たちは人があんまりいない所にいたために、他に助けを求められない。だから狙うには丁度いいカモ、ということだろう。なるほど随分と腹立たしい。
男の頭上のカーソルを見れば、文字は真っ赤だ。
ACOでは、PKを行うとカーソルの文字の色が変わる。流れ弾が当たったなど事故でPKをしてしまった場合や、未遂に終わった場合にはカーソルの色はオレンジになり、一定期間静かに過ごせばそのうち元の緑カーソルにもどる。一方、明確な殺意を持っており、かつPKを果たした者のカーソルは、赤くなり、一定期間大人しく過ごしただけでは元には戻らない。一定期間大人しく過ごしたうえで受けられる「更生クエスト」なる言うものを受けなくてはならないのだ。
つまり、目の前の男は、一度以上明確な殺意を持ってプレイヤーを殺している。
ゼット LV.10
男の名前はゼットというらしい。
LV.10と、レベル自体は土蜘蛛と同じだが、一緒にしてはいけないだろうと考える。なんせ後ろにはLV.4のバケモンステータスエルフがいる。レベルでステータスを測ってはいけないのは十分わかってる。その上恐らくこいつはプレイヤースキルも兼ね備えているだろう。
ゼットは「ヘっ」と笑い、じろりとルミを見る。
「最初の一撃は当たらなかったのか…はたまた無効化スキルがあるのか…」
「……」
ルミは無言でゼットを睨む。
実際、ゼットの不意打ちの初撃は、致命傷…すなわち残りHPの80%以上を失う攻撃を無効化する【陽炎】によって回避されたのだ。
確かにルミはVITはかなり低いが、それでもHPの8割以上を確定で削ぐ攻撃のことを考えると、思わず冷や汗が出る。
「【ウィンドカッター】!」
対峙するルミとゼットをガン無視で、ノアは次の攻撃を繰り出す。杖の向きは変え、狙うは足だ。ACOでは、体の特定箇所に一瞬で大量のダメージをくらうと、そこが≪欠損≫という状態異常になり、そこの体の部位の使用に制限がかかるのだ。たとえば、足なら遅くなったり動けなくなったり、である。
足を斬ろうとする風の刃が、ゼットの足元に届こうとした、その時。
「ッと、危ねぇなぁ…」
その風の刃を見切って、ゼットはジャンプして回避した。
「んなっ!?」
「お?この程度だったら当然回避するだろ。」
そう言って、ゼットはノアに剣先を向ける。
「【深淵】」
すると、突如ノアの足元から地面がぐらぐらと崩れ始め…
「え?うわ、いぃぃやぁぁああああああああ!!!」
やがてノアを中心に半径1m程度の底のない穴が生まれ、ノアは吸い込まれるように落ちていった。
「ノア!!」
ルミは、迷わず穴に飛び込んだ。
ゼットはぎょっとするも、まぁ助からないからいいか、とため息をつく。
ノアの落下速度を考えると、今はもう深度20mくらいは行っているだろう。有翼族が羽で飛べるのは5mが限界。なんならあの着物娘は他の有翼族より羽が小さかったのだ。飛べるとも思えない。
そう考えたゼットが穴に背を向けて歩き出した、その時。
深い穴の中から、大きな翼をはばたかせて、ルミが舞い上がってきた。
ルミはノアのローブの首根っこを掴んでおり、ノアは「ふええええええこわかったよおおおおおおあいつきらいいいいいい!!!!!」と手足をじたばたさせながら絶叫している。
「こらじたばたするんじゃありません!!あの穴に落っことすわよ!!!」
「やめて!?」
高度10mでコントのようなやり取りをする二人を唖然とした表情で見上げるゼット。
「…!?なんで戻ってこれんだよ!!っていうか着物娘、その翼どうして…」
「うちのアホ娘じゃないんだから名前くらい覚えなさいこのあんぽんたん!!ルミよ!!」
「あんぽんたん…」
「アホ娘…」
あんぽんたんなんて久々に聞いたぞ…と思わず遠い目になるゼットと、流れ弾を食らってしょぼんとするノア。
そんなノアにルミは声をかける。
「ノア!!この位置から出来る?」
「!!おっけルミ!!【INT加護】【チアアップ】【ライトニング】!!」
【加護】【チアアップ】を乗せた絶大ダメージの巨大な光の弾が上空からゼットに向かって真っすぐ落ちてくる。まるで、流れ星のように。
「っ嘘だろ…!?」
ゼットは焦ったような顔になる。それもそのはず、初級魔法はレベルや内包されたダメージ量によって大きさが変わるものであり、通常【ライトニング】は野球ボール程度から、大きくともバスケットボールくらいであるのが「普通」だ。
しかし、ノアの杖の先から膨らんで大きくなった光の弾は、ちょうど身長160㎝のノアがすっかり隠れてしまうほどの大きさだったのだ。
「いっけえええええええ!!!」
そして、その巨大な光が落下すると
あたりに光が散乱し、轟音が響いた。
「うわあっ!?」
「ちょっ!?」
魔法を放った本人のノアと、ノアを支えていたルミもその光の量に思わず目をつむってしまう。同時にルミの羽が時間切れで消えてしまい、上空10mから落下を開始する。一応上昇したときに座標を深淵の穴からずらしているので穴に落っこちることはないが、それでも地面に叩きつけられ、そこそこにスリップダメージが入ってしまう。
「いてててててて…あ、ルミ、【ヒール】」
「…ありがとう……」
打ち付けてしまった背中をさすりながら、低いVITのせいで自分よりダメージの入ってるルミに【ヒール】をかける。2/3になっていたルミのHPは一瞬ですべて回復した。
そうして光が引いていくと、そこには、光で半径10mは焦土と化したフィールド、そして―――
「はぁ…やっべぇな、アホみたいな威力じゃねぇか…」
HPポーションを片手で割りながら平然と立つ、ゼットの姿であった。
「うそ、めっちゃVIT高いのかな。まさか極振り!?」
「いやいやSTRも高いはずよ、あとAGIもノアよりはあると思うわ」
驚きにわちゃわちゃしてしまうルミとノア。その二人にゼットが近づいてくる。
「あぁ、面白かったぜ、ノアちゃんよ。初級魔法であんだけの威力あるやつなんざ初めて見た。まぁあの気に食わねぇ人畜無害ほどじゃねえが。そこの着物娘…ルミか?の反応速度もどこぞの腹黒爽やかプリンス程でもねぇがまぁいい線いってるべさ」
じゃあ、死ね。
そういってゼットは地面を蹴ると、一気に間合いを詰めてきた。黒い剣に紫色の炎を纏わせて、ノアとルミに向かって大きく振りかぶった。
「っ!!!!!!」
ノアは思わず目を閉じてしまう。ルミもまた、動けずにいた。
…しかし、刃はいつになっても降ってこなかった。
「やめろ≪厄災≫、初心者に手を出すのは貴様の矜持に合わんだろ」
涼やかな声がして、ノアは目を開ける。
藤色の着物に藍色の袴を着た黒髪の凛々しい女性が、刀でゼットの剣を軽々と受け止めていたのだ。
「気に食わねぇ人畜無害」という言い方も気に入っています。




