他人の明かりで歩く
国道14号を東に向かって歩く。大通りは良い。夜中でも私の存在を覆い隠してくれる。ただ一人なのに、一人じゃない。孤独だけれど孤独じゃない。そんな気分にさせてくれる。コンビニ前には人がたむろしているし、自転車もフラフラと走っている。車はしょっちゅう往来し、まばらに人が歩いている。夜中だけれど、一人じゃない。部屋に戻ると孤独が待っている。Lineで面白いんだか面白くないんだかよく分からないやり取りをするのも疲れた。いつしか私のLineは未読が999+と表示されるようになった。もう疲れたんだ。月は欠けてぼんやりと明るいし、夜空に星は見えない。街灯とヘッドライトの明かりを頼りに歩く。他人の明かりで自分の足元が照らされている。これぐらいの距離間で丁度いい。
夜中は良い。汚いものを覆い隠してくれる。ポイ捨てされた空のペットボトルもきらきらと輝いている。空き缶だって輝いているし、私だって街灯の下ではスポットライトを当てられた役者のようだ。私の汚い部分は隠れて、見られるところだけが映される。鳥の糞や吸い殻なんて目に入らない。この世の綺麗な部分だけを切り取ってくれる。月は欠けているくせに綺麗だ。相変わらず星は見えない。水たまりに足を突っ込んだ。靴の中に水が染みたようだ。けれども、見えないから大丈夫。
信号で立ち止まって考える。私は私の心を言葉にできるのだろうか。名前を付けるとしたらなんだろうか。色は何色だろうか。味は、臭いは、どうだろうか。味と臭いは簡単だ。しょっちゅう胃からこみあげてくる刺激的な液体と同じだろう。色はきっと薄黄色だ。見た目だけならレモン色の綺麗な液体かもしれない。だけど酷い刺激臭がするだろう。とてもじゃないが人には見せられない。私の心は吐しゃ物だ。レモン色に彩られた汚物だ。こんな心なんてトイレに流せばいいのに、どうすることもできずに、今日も腐っていっている。掃除してくれる人なんていない。やっぱり私は孤独だ。
国道14号を西に向かって歩く。結局、私は孤独だ。コンビニの前の人も、シャリシャリ走る自転車も全部他人だ。往来するトラックも、信号を待つ人も全部他人だ。月は欠けているし、星は瞬かない。スマホに通知が来ることもない。孤独は孤独の巣に帰ろう。誰にも知られずひっそりと生きていく。汚物は社会の見えないところへ隠しておこう。街灯やヘッドライトが汚物を照らし出す。そっとしておいておくれ。私はちゃんと巣に帰るから。私の唯一の居場所に帰るから許しておくれ。
汚物は消毒だ
燃やし尽くせ