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リュミナスの英雄

 夏休みの最終週――

 リュミナス領を巡り終わった俺とローラは俺の実家に立ち寄った。


「お帰りなさいませ、アルベルトさま」


 そんな俺たちをセバスチャンが迎えてくれる。

 ここに数日滞在し、旅の疲れを癒やしてから転送陣で学院に戻ろうと俺は計画していた。


「はわわわわわ! はわわわわわ! アルベルトさああああん! 侯爵さまの生活がすごすぎですうううううう!」


 また侯爵のリッチな生活にローラが目を回している。

 俺たちがそんな時間を過ごしていると、早々にセバスチャンが話しかけてきた。


「アルベルトさま」


「なんだ?」


「旦那さまがお呼びでございます」


 父か――

 前のときほど心に重圧はなかった。それは意外にすんなりと俺の心に入り込んできた。

 だから、


「わかった。案内してくれ」


 何も迷わず言うことができた。

 執務室に向かうと父が座っていた。

 ……おや……?

 てっきり父も俺と同じく柔らかい雰囲気でいるのかと思ったが、妙な雰囲気をまとっている。

 ……まだ難しい話が残っているのだろうか……。


「アルベルト、よく戻ってきてくれた。疲れているところすまないが、少し尋ねたいことがあるのだ」


「わかりました」


 俺は父の前に立った。


「何でしょうか?」


「うむ。実はな――妙な噂を聞いてな」


 父は困惑気味な様子でそう言った。


「妙な噂?」


「そうだ。領では定期的に僻地の村を巡回して状況の確認をおこなっているのだが、危険視されていたゴブリンやオークが軒並み倒されていると報告があったのだ。それもいくつかの――いや、かなりの数の村で」


 ああ……。

 思い当たる節がありすぎる……。


「村の人間に話を聞くと、アルベルトという男がやってきて倒していってくれたと言っているのだが――」


 父は俺をじっと見て続けた。


「そのアルベルトは、お前か? アルベルト?」


 ……確かに領地内でのことだ。偽名も使わずに活動すれば父の耳に届くのも無理はない。

 とはいえ、父にバレても特に問題はない。

 なので俺はこう答えた。


「はい。その通りです」


「……旅に出ると聞いてはいたが……まさか、このようなことをしていたとは……」


「領民を助けることができて、心を開いた領民から話も聞ける――一石二鳥だと思いました」


「よくぞ領民を助けてくれた。感謝するぞ、アルベルト」


 父はこう続けた。


「もともと僻地は手薄になりがちなのだ。人も予算も限りがある以上な。おまけに今年は特に厳しい。領民には苦労をかけている……」


「今年は? どうしてでしょうか?」


「アレンジアの出兵だ。リュミナス家が軍の指揮をとる以上、当家が多くの兵を用意するのはやむなきこと。そのため領内の守りが薄くなっているのは事実だ」


 そして、ため息をこぼす。


「領の内政を担っていたアレンジアの死――だけではない。痛んだ財政に人手の不足。領には多くの課題があるのだよ」


 そこで父は冗談めかした声で続けた。


「おっと。後継者であるお前に言う話ではないな。後継者を降りるなんて言わないでくれよ?」


 どうやら父が俺との距離を詰めようとしてみたらしい。

 父の冗談などどれくらい前から訊いていなかっただろう――一〇年前どころの話ではない。

 俺も少し口元を緩めて応えた。


「もちろん言いません」


 それからこう続けた。


「もしも兵のなり手を探しているのでしたら、心当たりがあります」


「なんだ?」


「村の自警団に声を掛けてはどうでしょう?」


 俺は多くの村に行き、そこで村のために尽くす若者たちを見た。彼らの多くは村を守ろうと懸命に頑張っていた。

 領の兵になっても責任感をもって仕事をこなし、きっと村のことも気にかけるよい人材に育つだろう。


「ちょうど私が村の脅威を解決したところです。彼らにも人的な余裕があるでしょう。兵として雇っても村の危険性が高まることもないと思うのです」


「……なるほど、それは悪くない考えだな」


「ご検討ください。村を回ったとき、私の心に残った人物のリストを後でお渡しします」


 俺を見る父の目が輝いた。


「おお……アルベルトよ……。お前はそんなことまで……!」


「お役に立てばいいのですが」


 と言いつつ、俺は少しばかり充足感を覚えていた。

 俺のしていたことには意味があったのだ。いろいろなものがつながっていく。その心地よさは気分がよかった。

 父が俺の目をじっと見る。


「……アルベルトよ。お前は僻地の村を巡り、そこに暮らす人物といろいろ話をしてきたのだな」


「はい」


「僻地の村にはいろいろ課題があるのは事実だ。どうしても行政の光が届かない場所だからな……どうだろう、せっかくの機会だ。お前のほうで何かしらの施策を考えてみないか?」


「……」


 のせられようとしているな……。

 俺は実務をしないと言った。なのでこの話はダメだ。父もそれを承知で振っているのだろう。


 断るのはたやすい。


 だが、俺は知ってしまった。

 僻地で暮らす人々の姿を。彼らもまたリュミナスの領民なのだ。

 俺にできることがあるのならそうするべきだろう。彼らは俺を信じていろいろと話をしてくれたのだから。


「……才なき身ではありますが、少しは考えてみようと思います」


「気軽にやってみるがよい。何も思い浮かばなくても大丈夫だ。私のほうでケアはしておくのでな」


 父は上機嫌にそう言った。

 俺は話題を変えた。


「ある僻地の村についてですが、ご報告すべきことがあります」


「何だろう?」


 俺は語った。ずっと九頭龍の封印を守ってきた村のことを。

 話を聞き終わると父は硬質な声をこぼした。


「……そんな村が、あったのか……」


「はい。リュミナス領の平穏は彼らの犠牲の上に成り立っていたのです」


 そして、俺はこう続けた。


「財政が厳しいとは存じますが、彼らの苦労に報いたい気持ちがあります。慰霊碑の建設などご検討いただきたいと思います」


「……もちろんだ! 私自らが村を訪問し、彼らの話を聞こう!」


 強くうなずいた後、父は質問を俺に投げかけた。


「その、九頭龍というのは?」


「私が倒しました」


 意表を突いていたのだろう、父親がのけぞった。


「お前が龍を――ドラゴンを?」


「はい」


「……おお、おおお……! アルベルトよ! アルベルトよ! お前は何という……お前は……!」


 言葉にならない様子で興奮して父はまくし立てた。

 少し落ち着いてから父はこう言った。


「私はお前を誇りに思う!」


 そして高らかに断言した。


「お前こそがリュミナスの英雄だ!」


 ……俺が……リュミナスの英雄?


「アルベルトとしてのお前、アルベルト・リュミナスとしてのお前。その共存をお前は願ったが――それは正しい結論だったのかもな。お前は一領主の器におさまる人間ではない。これからも正しい心のままに正しい行いを続けるのだぞ!」


 父からの最大級の賛辞だった。

 まさかそんな言葉をもらえると思えなかった俺はそれだけで胸がいっぱいになってしまった。

 しばらく返すべき言葉を見つけることができず――

 これだけを言うのが限界だった。


「……ありがとうございます。その言葉に恥じぬよう歩んでいきたいと思います……」


本章終了です。ここまでが書籍2巻の範囲となりますが――


書籍2巻は【4万3000字の大加筆】で、本の半分が書下ろしで別物です。たとえば、ここのエピソードの後も文庫だと別シーンが6ページ続いています。


書下ろし部分だと『ユニコーン絡みの新エピソード』がかなり面白いです。読んだ友人も爆笑していたので自信があります。


こいつだけで2万6000字、なろうで言うところの9話ぶんくらいの分量があるので読みごたえは抜群です。


カラー口絵もですね、素晴らしいんですよ。


1枚目が『フルバーストの発動ショット』。アルベルトとエフェクトがですね、カッコよすぎです!


2枚目が『ユニコーンを呼ぶために水浴びしているローラ』。肌色全開のショットですね。書いているとき、絶対にここはカラー落ちするな……と思っていたら、そうなりました。さすがラノベ(笑)


とてもうまく描かれていて、男性読者はもちろん、女性読者も「きれい!」と思える感じの美しい絵になっています。ラフを見た瞬間、加筆してよかった……と思いましたね。完成が楽しみです。


3枚目は『アルベルトと一緒に木立を歩くローラ』です。ローラの表情が素敵で尊死します。


そんな感じで発売中の文庫版2巻は『超完全版』となりますので、ぜひ購入をお願いいたします!


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コミック版マジックアロー、発売中です(2021/08)!
以下の画像をクリック->[立ち読み]で少し読めます。

shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] 止まるマジックアロー。 [気になる点] 闇じゃなくて光になるのか。。。 [一言] 乗れるマジックアロー?
[一言] これね、もし「アレンジアが何事もなく侯爵位を継ぎ、丁度晩年に至る頃に九頭龍の封印が解けたら」どんだけ慌てふためく羽目になるかって思うと領民が不憫でたまりません。え?アレンジア?失敗知らずのバ…
[良い点] アルベルトが最初の孤独で情けなかった時に比べて、大きく成長しているのを感じます。 [気になる点] 父「……そんな村があったのか……」 リュミナス領の規模がどのくらいか分かりませんが、領主…
感想一覧
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