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友達だから

 学院の食堂で俺はローラに言った。


「校章おめでとう、ローラ」


「ありがとうございます、アルベルトさん!」


 学院ではつい先日まで期末テストがおこなわれていた。

 俺は鉄の校章をすでに持っているのでテスト免除となったが、そうではないローラは昇級テストを受けていたのだ。

 結果、合格。

 ローラの襟元には石の校章があった。


「フィルブスさんのマンツーマン授業のおかげです!」


 先の戦いで従軍したとき、フィルブスは責任者として俺たちと一緒にいたが、あれは『授業をする』という名目もあった。

 そんなわけで戦いのない日、ローラはフィルブスから一対一で授業を受けていた。


「まー……別にローラは教えなくても受かると思うけどな……」


 などと言いつつも、態度もよく飲み込みも早いローラへの授業はフィルブスも楽しそうだった。

 ちなみに俺は――


「お前に教えることなんてあるか。あっちでマジックアローの魔術書でもずっと読んでろ」


 とひどい扱いを受けた。言われたとおりにしていたら一層マジックアローの理解が深まった気がする。

 ローラが話題を変えた。


「そう言えば、もうすぐ夏休みですね。アルベルトさんはどうするんですか?」


 その言葉は俺に嫌なことを思い出させた。

 俺の顔を見たローラが慌てた声を出す。


「どどど、どうしたんですか……、アルベルトさん!? 顔が死にそうになっていますけど!?」


 そんなひどい顔なのか……。無理もないけど。


「……俺は実家に帰ることになったよ……」


 少し沈んだ声で俺はそう答えた。

 父は謁見の間での話を覚えていた。領土に戻った父から連絡があり、夏休みになったら実家に戻るように要請された。


 正直なところ、あまり気乗りしない。


 そもそも俺にとって実家は居心地が悪かった。子供の頃から優秀な弟と比べられて使用人にすら陰で笑われていたのだ。

 そこに戻る、か――

 俺の口から思わずため息が漏れた。


「できれば戻りたくないんだけどな」


 テーブルの上に置いていた手がこわばるのを感じた。

 その手をそっと温かいものが包み込んだ。

 ローラが手を重ねてくれたのだ。


「……アルベルトさんが実家にいい想い出がないのは知っています。アルベルトさんが心を開いて教えてくれたから」


 ローラが柔らかな日差しのような笑みを浮かべた。


「だけど、アルベルトさんが変わったように、一〇年前からいろいろなものが変わっていると思うんです。だから、同じにはならないと思います。だってアルベルトさんはこんなに素敵なんだから」


 ローラの言葉で――

 俺の心はすっと軽くなった。

 いつもそうだ。俺はローラの言葉に救われている。どれほど救われているのだろう。

 だから、口をついて言葉が出てしまった。


「ローラ」


「はい?」


「その、ローラさえよければなんだけど、どうだろう、俺の実家に一緒に来てくれないか?」


「……え?」


 驚いたようにローラが目を見開く。


「アルベルトさんの実家って――侯爵家ですか……!?」


「ああ」


「え、いや、その……わ、わたしみたいな平民が、そんな――」


「気にしなくていい。俺が招待するんだ。文句は言わせないよ」


 俺は言い切った。


「来てくれると助かる……いや、来て欲しいんだ。年のわりに情けなくて申し訳ないけど――怖いんだ。一〇年ぶりの父親、一〇年ぶりの実家……でも、誰か知っている人が近くにいれば少しは心が落ち着くかもしれない」


 ローラはじっと俺の言葉を聞いていた。

 断って欲しくない。俺はそう思った。ローラがいてくれれば心強いことこの上ない。

 だけど、ローラには関係のない話だ。貴重な夏休みもつぶれてしまう。断られても仕方がない。

 硬い顔で聞いていたローラは――

 照れたようにはにかんだ。


「そんなこと言われたら――断れないじゃないですか」


「……え、じゃあ……」


「アルベルトさんにはお世話になっていますから! わたしごときが役に立つのならご一緒させてください!」


「……そう言ってくれると嬉しいよ」


 そこで俺はつい自分のうかつさに気がついた。


「あ! 夏休み、ローラは自分の村に戻る予定だったりしたのか?」


「……うーん、そのつもりでしたけど、いいですよ。急ぐものでもないですし」


「ご両親は心配するんじゃ?」


「い、いえ……たぶん、むしろ賛成するのではないかと――」


 ローラは赤面しながらしどろもどろに答えた。

 ……なぜ、赤面する?

 俺は気づいた。ローラの父親は真顔でこんなことを言っていた。


 ――ローラを嫁にもらって欲しい。


 そう頼まれた男と娘が夏休みを過ごし、なんと実家にまで連れていかれてしまう。ローラ父にとっては願ったり叶ったりの状況だろう。

 そこに気づいた瞬間、俺も露骨に狼狽した。慌ててローラと重ねていた手を引っ込める。


「ロロロロ、ローラ! そ、そういう意味じゃないから! べ、別にそういう意味じゃないからな! ご、誤解はしないでくれ!」


「はははは、はい! もも、もちろんです! とと、友達として! 困っている友達のため! ついていくだけですから! はい!」


 お互いにお互いの変な様子を見て――

 俺たちは同時に笑った。


「友達として頼むよ。ローラ、一緒に来てくれ」


「はい、もちろんです。アルベルトさん!」


 俺の差し出した手をローラが握り返してくれた。


3章終了です。


アルベルトくんが言っている通り、次章は実家の話スタートとなります。


日間の総合1位になりました! えええええええええええ! びっくり!


そして、07/23夜のポイント「8888」に二度びっくり!


末広がり! 縁起良さそう!


二度と取れなさそうなので、スクショに撮って家宝にしておきます!


なんかもー、ホント感謝しています。


面白いよ!

続きが読みたいよ!

頑張れよ!


という方は画面下部にある「☆☆☆☆☆」から評価していただけると嬉しいです!


応援ありがとうございます!


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shoei
― 新着の感想 ―
[一言] 確かにこの小説で「8888点」をもう一度取るのは難しいかもしれないですねw
[一言] マジックアローよ爆発してしまえ!(笑)
[一言] ランキングから見に来ました。 私的には8888は末広がりとかよりも『パチパチパチパチ』で拍手が最初に出ますね。(脳内、ゲーム&ニコ動汚染中)
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