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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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田舎の華鬼。

 偽りの月明かりの下。

私達は、田んぼ道を歩いて行く。

進むにつれて、一軒だけの古民家が見えて来た。

家に明りが点いていることで、誰かがいるのかもしれない。

「このまま、あの家まで行くか?」

天狼さんに聞かれて、私はすぐに答えを出した。

「行ってみましょう…」

どのみち、この道はあの家へと続いている。

進むしかない。

「わかった」

天狼は二つ返事で了承した。

私達は、警戒しつつ、その古民家に近づいた。

すると、天狼さんが急に立ち止った。

どうしたのかと伺うと、彼の顔が険しくなった。

「灯花、私の後ろにいてくれ」

私は頷き、彼の後ろに回った。

地獄蟲が近くにいるのかな?

ここが未だに禁忌の箱の中である以上、何があるのかわからない。

緊張を抱えつつ、彼と共に歩み出した。

古民家のたどり着くと、ただの家ではないことがわかった。

ぬかるんだ土道から変わり、砂利と石畳みが並べられており整備されていた。

玄関には、青い火の提灯と紫の絹に蓮の花が刺繍されたのれんが降りていた。

見た所、格式がある家のようだ。

天狼は、そのまま家の敷地に入り、玄関に手を掛けようとした時。

どこからか、声が聞こえた。

「庭にいるよ……」

少年に近い声だった。

「こっちにおいで…」

声の主は、どうやら庭に来るように言っているようだ。

人がいるのだろうか?

天狼は、声がした方へと向かった。

その後を、灯花が追う。

石畳みの道を歩くと、お庭があった。

寂しげな木と月を映す池、虫一つ鳴かない静かな庭園だった。

いくつもの青い火の提灯が並ぶ縁側に人が座っていた。

「いらっしゃい…」

彼は、にんまりと口元を弧を描き、こちらを向いて笑っていた。

見た目は、私と歳の近そうな青年のようだが、どこか大人びた雰囲気が漂っていた。

夜の色を映した藍色の瞳に色白い肌。

さらさらと細い黒髪、ぱっつんと横に整えた前髪と紅いひもで結んだ長い後ろ髪が特徴的。

首には、小さな花の首飾りを首に巻き付けていた。

服は、白の寝間着を着ていて、その上から紫の羽織を着ていた。

紫の羽織には、蓮の刺繍が施されていた。

ただ人ではないのが一目でわかる容姿だった。

青年は、にんまりとこちらを向いて笑っていた。

まさに、月夜の美青年いけめん

「よく来たね…………って言うかあああー!!!」

その言葉を聞いて、唖然とした。

「いったい何時だと思ってるんだっ!このボンクラどもめがあっ!!」

あ、あれ…私が思っている人物像が違った。

青年は怒りの形相で訴えていた。

「天狼おおぉお!またお前か!またっ!お、ま、え、かあぁ!!」

どうやら、天狼さんに恨みがあるそうだ。

「落ち着け、いきなり言われても、話が全く見えん」

天狼さんが落ち着けるように声を出したが、相手は大きく荒げた。

「これが!どこが!落ち着けるかあっ!」

「いったいどうしたのかと、聞いているんだ」

天狼さんの冷静沈着ぶりにさすがだと思った。

でも、この温度差はいったい…

「どうしたのこうもないだろうが!この綾女あやめしとねに刃を寄越しただろうがっ!」

青年は、刃を天狼に投げつけた。

「……っ!」

天狼は、瞬時に懐から黒い扇子を取り出し、それを弾いた。

キンっと高い音を出して、刃は砂利の地面に落ちた。

落ちた刃は、刀の刃だった。

そんなことする青年こそが、あぶないじゃないか。

物騒な刃を投げるなよ…てか、天狼さんの持っている扇子どっかで見たような…

灯花は、一人でつっこんでいると、天狼さんは刃を拾った。

「ああ、そんなところに…すまなかったな」

その刃は、天狼が折った刀の刃だった。

「すまなかったな…ないわ!頭に刺さったじゃないか!」

「そうか」

「天狼さん、あの人死んでますよ」

「そうか」

素通りする天狼さん。

「おのれ~相も変わらずそんな態度しおってっ!今何時だと思っているんだ!?朝早いんだよ!寝かせろよ!残業続きで辛いんだよ!寝かせろよ!頼むから!寝かせてくれよ!」

うわっこの人よく見たら、目の下くまが出来てる…

色白い顔が青白く見える。

まさかの社畜の人。

「天狼、お前がここに来たってことは、また荒らしに来たのか!何度穴を開けたら気が済むんだよ!お前が開けた穴のせいで、箪笥に潰されたからなっ!どうしてくれんの!?足の小指だけじゃあ、済まなかったんだけど!!」

「そうか…」

「天狼さん、あの人やっぱ死んでいますよ」

「そうか」

またもや、平然とする天狼さん。

「しかし、そうも言われてもな…」

見覚えがないと言っているようで…

怒りで髪振り乱し、着ていた寝間着も乱し、もはや美青年いけめんの姿は崩れていた。

「しらばくれるなよ!記録にも残っているからな!見よ!20年前に、お前が穴を開けたことを事の詳細を隅から隅まできちんと記録してるからなっ!」

そう言って、奥の部屋から、事をつづった書類を渡して来た。

墨筆の文字と事の細かい内容がびっしりと書かれた紙の束。

天狼さんはその書類を一目めくりした。

「…確かにこれは、私だ。すごいな…」

「天狼さん、そこ感心するところですか…」

以前、オタ面さん(陽炎)が言っていた。

天狼さんがここから出る為に、穴を開けたと…

そのつけが、回りに回ってようやくたどり着いた。

おせぇよ…

「…てっ、20年前って、天狼さん今幾つなんです?」

「27だが?」

私と11歳差…

「ということは、天狼さんが7歳の時にここに来たってことですか!子供がやった事なのに根を持つ人なのねあの人」

「やかましいわっ!」

猫みたいに毛を逆立たされても…なんとも。

すると、天狼さんは前へと出ていた私を、肩を引いて身を引かせた。

「灯花、近づくな。気苦労が多い者のようだが、人ではない」

「えっ?天狼さんと同じ人狼じゃなくて?」

「違う」

天狼のその言葉を聞いて、男は乱れた着物を正し、乱れた髪を払いながら言った。

「ふんっ!よく聞け!頭の悪い小娘」

頭が悪いって…

「我は、華鬼はなおに綾女あやめ。この禁忌の箱の管理者だ。我にこうべを垂れよ、愚女ぐじょ

「…………」

どうリアクションすればいいのやら…

顔色が悪い人に言われても、大丈夫ですかと言いたくなる。

「えっと……初めまして、朝峰灯花です」

とりあえず、頭を下げて、あいさつをした。

「綾女さんって呼べばいいですか?」

「さまをつけよ!さまを!礼儀をしらん小娘だな」

礼儀…

「えっと…綾女、さまは、華鬼って言ってましたけど、鬼なんですか?」

見た所、角がないように見えるが。

「我は、可憐で美しい華鬼だが?」

「はあ…」

灯花は、ちらりと自分の腕の中にいる、瓶の中にいる鬼を見た。

同じ鬼なのにこの差はなんだろう…

枯れたミイラは、いつの間にか、眠っていた。

あれだけ騒がしかったのに…

「おい、その下級のものと一緒にするな」

「はあ…」

私は、天狼さんの袖を引っ張り、耳を貸してもらう。

「どうした?うん?」

「鬼って、いつもあんな感じなんですか?初対面なのに態度が辛口なんですけど…」

「見栄を張る種族だからな、仕方ない」

「そうなんですね…」

「少々面倒くさい男だが、上手く合わせてやってくれ」

「わかりました、天狼さんがそう言うのなら」

こそこそ話が終わると綾女さまは、大人しく待っていた。

「なんだ、話は終わったのか?」

「ええ…まあ…」

「それで、この綾女に用があるのだろう?とっと申せ、ボンクラども」

「えっ?」

さっきとは、違う態度で驚いた。

落ち着いた様子で聞いて来たのだ。

きちんと聞く耳はあったか…

先に口を出したのは天狼だった。

「お前が、ここの管理者なんだな?」

「…なんだ、天狼。我のこと覚えておらんのか?…」

天狼は、目を細めた。

本当に覚えていないようだった。

綾女は、ひとため息をして、言葉を続けた。

「…………はあ、まあいい…この綾女、申した通りここの管理者だ」

管理者…?

確か、管理者って資格がないと会えないと聞いた。

あと、意地悪だって…

灯花は、天狼の後ろで綾女を様子を見た。

「ならば、聞く。ここから出たい、出る方法はないか?」

天狼がそう言うと綾女は、一層顔が険しくなった。

「そんなことで、我を起こしたのか?てっきり、きんを取りに来たのかと……」

きん?」

きんか?」

禁忌きんきじゃあボケっ!!わざとか!」

綾女は、ぶつぶつと言いながら、縁側に座り、貧乏揺すりを始めた。

相当苛立っているようだ。

寝不足を語っていた。

「そもそも、陽炎はどうした?あいつの役目のはずだろう?」

「はぐれました」

「あの変態がっ!今度生き埋めにしてやる」

綾女さまの前にも、公認の変態ぶりなのだろう。

息が上がった姿が目に浮かぶ。

「喜びますよ」

「わかっとるわっ!とにかく、分かりや~す~くこの綾女が、道を開いて置く。寛大かんだいな綾女を称えろよ!特にそこの泥鰌どじょう顔の小娘!」

「どじょうって…」

「天狼は、百歩譲って許してやる。いいな、百歩だけだからな!いや、五拾歩!違うな、十歩だ!…………お前、どこの化粧品使ってる?」

顔で勝負して、近づいているし…

白粉おしろいのことか?」

「その程度か、天狼。もっとあるだろう…化粧水とか乳液とか、毎日のスキンケアは大事だぞ?」

ああ、だから苛立っていたのか…

夜更かしは肌に大敵だから…

「とにかくだ!天狼お前、今度、またいらんことしたら、豆腐と一緒に固めてやるからな!覚えておけっ!」

「覚えておこう。今度参った時、ご相伴に預かろう」

「話聞いてた?」

「…………」

だめだこの人…


 決して、忘れていたわけではない。

色々あり過ぎて、思考から飛んでいただけである。

「あの~綾女、さまは、小鬼たち見かけませんでしたか?」

綾女は、目を細めた。

「小鬼?」

話の続きは天狼が語った。

「私は、その小鬼たちがここに入ったと聞いて参ったのだ。此度の件は、その小鬼たちによって硯鬼の封が破られ、外にまでその手が現れた。白猿が小鬼たちを封じたと聞く、無理にとは言わない、時を見て出してやってほしい」

綾女は、くすりと笑った。

「最初から、問えばよかったものの…小娘のためか」

「答えずともわかるだろう」

「えっと…どう言う事です?」

どうしよう、わかんない。

ふな顔の小娘。この綾女が説明してやろう。天狼は言葉を渋るしな、つまらんだろう」

フナって…

「小鬼どもは、盗人だ。そして、失敗したと判断した時。置き土産と硯鬼を置いて行った」

「なっ!」

「今封じられた小鬼どもは、その盗人の一味だ。蝌蚪かと頭の小娘に分かりやすく言ってやる」

「かと?」

「米の皮に包んで言えば、蛙の子だ」

それ、包んでいない。

「よいか…小鬼どもは、最初この禁忌の箱に入り、禁忌をを盗もうとし、失敗した。そして、持って来ていた硯鬼の封を解いた言う事だ。ここから漏れた理由は、天狼がやらかしたからな、それは天狼が悪い。そして、小鬼どもは、まんまと白猿に封じられた言う事だ。硯鬼は、外から持ち込まれたものだ。それをお前が持ってしても、我はどうしようもしないぞ。好きに扱え。」

「なにそれ…オタ、陽炎さんは、そのことを知っているんですか?」

「知っているも何も、あやつが捕らえてここに放り出したからな」

「それじゃあ、何のために私達をここに?」

「そこは、陽炎に聞け。それにあやつは、隠者だしな…それこそ、主人の為か、雇われたかだな。我か?我はただの管理者よ。つづられたモノをただ読むのみ。大体のことは、あの猿を用いれば事足りる」

「じゃあ、小鬼たちはどうなるのですか?」

「盗人は、当然、罪人だ。それそうの処置と罰を与えなければならない」

「……許してはくれないんですか?」

未遂みすいであったとしても、禁忌の物を無断で持ち去ろうとしたんだしな。水黽あめんぼ並みの甘さの小娘め、事の重大さがわからんのか?それに、お前は見て来たではないのか?ここまでの道のりは、そう簡単にたどり着けなかっただろう?必ず、お前と言う試しを施し、それ相応の道を開く。黄泉の地獄絵は、簡単すぎたかな?」

「……それって、ここまでの道は、あなたが用意したって意味ですか?」

「半分はと言っておこう」

残りの半分は、白猿だろう。

「それに、天狼は途中から開いた道を放棄した。よって、お前と同じ道のりとなったがな…」

すぐに天狼さんの言葉が挟んだ。

「余計なことを言わなくていい」

それは、どういうことだろう…

「灯花とはぐれるわけにはいかなかったからだ。それ以外に理由はあるか?」

「納得いく、回答です!」

当然だ、天狼さんとはぐれたらそれこそ、今頃、蟲の腹の中だ。

「ふん、ごまかしよって…」

綾女さまの言葉がこぼれた。

「だがな、後回しは積むぞ。覚えておけ、天狼」

「…………」

天狼は何も答えなかった。

本人もわかっているようだった。

「小鬼たちのことは、この綾女が預かる。これは、管理者の務め。異論はないな、天狼」

「……ああ、わかった」

さすがの天狼さんでも、小鬼たちを出せないらしい。

でも、綾女さまの言う通り、小鬼たちをそう簡単に許すことは出来ないのだろう。

禁忌の物は、ほとんどが地獄蟲が関わっている。

それは、危険な物で違いなく人に害するものばかりだ。

そして、これは私にも警告だ。

今持っている硯鬼もまた、例外なく危険なモノ。

私がこうして持つことを許されているのは、外からの持ち込みだからだろう。

「…………」

私は、じっと硯鬼を見た。

本当は、この子もここに置いて行った方がいいんだけど…

私は、しないでおく。

小鬼たちの事は、本当に残念だった。

「会って見たかったな…」

硯鬼と似たような鬼だったりして?会えることを楽しみであった。

小説や漫画、アニメの中しか会えなかったんだ。

それが、目の前にいる。

こんな、嬉しいことはないよ。

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