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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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地獄絵図。(その2)

 白銀のオオカミは、銀色の四肢を伸ばしたり、顔を振ったりして、身体をほぐしていた。

灯花は、その仕草を見ていた。

いきなり抱き着いたから、身動きできなかったのだろう。

「すみません天狼さん。私が抱き着いたから、きつかったですよね」

天狼さんは、その言葉を聞いて、紫のが点となった。

そして、次第にまぶたを伏せて言った。

「いや、私はきつい思いはしてはおらんよ。灯花が私に触れて落ち着くなら、それでいいと思っている。

それに、人狼は、人から触れられるのが好きな獣だ。まあ、個々によるが、少なくとも私は、嫌ではない」

心にみる言葉だった。

人は、触れることに敏感な生き物だ。

触れたことで、傷ついたり、傷つけたりしているのに…

天狼さんのように、触れることを許してくれる生き物は、なんて…優しいんだろう。

「天狼さん、ありがとうございます…」

「…そうか」

天狼さんは、長い尻尾を振った。

その仕草が、どこかくすぐったい。

くすりと笑いがこぼれた。


 襖の世界を見渡すと、やはりここは、部屋のような所だろう。

巨大な百足の水墨画、以外、何もなかった。

ふと、私はあるものを探した。

「あ、あった」

床にごろんと転がっていた。

「また、落としちゃった…硯鬼けんき、大丈夫かな?」

瓶を持ち上げて、確かめた。

瓶は、無事だった。

よかった…

しかし、中身の方は…

涙目でこちらを睨めつける硯鬼がいた。

「うん、大丈夫ね」

「おいこらっ!どこか大丈夫だあ!調子乗ってるんじゃあねぇえ!」

子供ミイラの姿をした硯鬼は、瓶の中で小さな手でバンバン瓶を叩いていた。

「ははっ、結構シュールね」

「なめんなあっ!このぶす!ぶ~~す!」

「ふ~ん」

「あっいえ、あの…」

また、瓶を振られるんじゃないかと硯鬼はおどおどしだした。

「硯鬼、どうやって、ここから外に手を出したの?」

「はあ?」

禁忌の箱に入る前、私達は硯鬼に襲われた。

もしかしたら、硯鬼が出られる方法がわかるかもしれない。

「ふんっこれのことかあ!」

硯鬼は、床から黒煙を出し、そこから、人一人握りつぶせる巨大な手をを出した。

紅く鋭い爪に焦げたような肌。

指一本一本、筋が入った5本の指。

それが、私の目の前に現れた。

「……っ!!」

私は、瞬時に離れようとしたが、その必要がないみたいだった。

いつのまにか、現れた硯鬼の手の後ろに、天狼さんが立っていた。

人の姿に戻ったのだろう。

銀色の長い髪が揺れ、狼の獣耳がつんと立っていた。

天狼さんは、丁度、着物を身に着けていた所だった。

片手で、着物の襟首を整え、もう片方で、硯鬼の甲に触れていた。

それ以上、指一本動かせばどうなるか。

この場にいる私ですらわかった。

「大人しくしろ」

天狼さんの、冷めた声が響いた。

「…っうぐっ…」

硯鬼は、怯みだし、その黒き手を引っ込めた。

湧き出ていた黒煙が四散した。

とりあえず、天狼さんが見張ってくれているから、これで聞き出すことができる。

だけど、さっきのこともある。

要注意しながら、硯鬼に聞いた。

「教えて、あなたはどうやって、禁忌の箱からその手を伸ばしたの?」

「……お前に答える筋はねぇよ」

「あなたも出られないのよ」

答える気がない硯鬼。

そう、こまねいていると天狼が答えた。

「灯花、硯鬼が答えたとしても、この箱からは出られまいよ」

「えっ?」

「硯鬼が箱の外に出していたのは、幻影のようなものだ。人狼に例えると尻尾を出した程度のこと。狭い道に本体が通るわけがあるまい」

「じゃあ、この方法は駄目か…」

いい考えだと思ったんだけど、そう簡単にはいかないか…

すると、硯鬼が瓶の中で暴れ出した。

「くそおぉお!てんろうがオレ様の土地を奪い、こんな狭い所に閉じ込めたせいでっ!」

「ええっ!天狼さんがあなたにそんなことしたの?」

どうりで、天狼さんに敏感だ。

「天狼さん、そう言っていますが…どうです?」

天狼は、硯鬼をじっと見ていたが、素知らぬ顔で答えた。

「…………身に覚えがないな」

「と、言っているけど……硯鬼?」

今度はさっきと様子が違って、目を見開いて、驚いていた。

「おまっ…お前、てんろうか?女じゃあ…なかったか?」

「女?見間違えじゃなくて?」

アホなことを言っている硯鬼に、天狼は言葉を返すこともせず、踵を返した。

私は何も言わない天狼さんに変わって、硯鬼に言い返した。

「失礼だよ、今の天狼さんが機嫌が悪かったら間違いなく、瓶ごと燃やされているよ」

「うぐぅうう…」

「まあ、天狼さんきれいだから、気持ちはわかるけど」

女装したら、もろで似合う人だと思うし。


 私達は、鹿を貪る巨大な百足の水墨画の襖から出ると、襖の数が多くなっていることに気が付いた。

この箱の中は、ころころと世界が変わる。

油断をすると、本当に迷子になりそうだ。

そう思っていると、後ろから声をかけられた。

陽炎は、白地の襖に背にしては、腕組んで私達を待っていた。

割れたはずの鬼の面をつけているから、一層、何を考えているかわからない。

「脱出方法は考えたでござるか?」

「まだですよ、今、ちょっと考えを巡らせているんです」

硯鬼がこの世界から出たかっていたから、出方を知ってるかと思ったけど、的が外れた。

もし、出れてしても、五体満足ここから出なきゃ意味が無い。

それも、一人も欠けずに。

「そうでござるか、ならば拙者は待つとしょう」

「一緒に考えないんですね」

「他者の意見などあてにすると、どうなるか、身に染みてわかったでござらんかったか?」

……確かに。

「拙者は、灯花たんの指示に従おう」

「……普通、こういうのは大人が先導するのでは?」

「危機的状況で、誰が年長かどうかなどと関係ないでござるよ。この状況で、どう生き抜くかが肝心でござる。生き抜く者が先導しなくては、誰が導く?」

「…………」

確かに、先導者は必要だ。

だけど、私でなくても…

私は、天狼さんの意見を伺った。

「私も、陽炎と同意見だ。生き抜くすべを持っている者が先導するのがよい。私は、お前だから任せられるし、信頼もしている」

そう言われても…

「ならば、お前の後ろを任せてくれないか?私を信じて、前へと進んでくれ、灯花」

天狼さんの意志を強く感じた。

さすがにそう言われたら、引き受けないわけがない。

「わかりました。よろしくお願いします」

私は、頭を下げた。

気にして下げたわけではない。

自然と下がったのだ。

オタ面さんと天狼さんが、あまりにも大人だったから、年長として恰好よかったからだ。


 一つ、幽世の理を思い出そう。

あくまで、私の考えだが。

幽世は、生と死の狭間で異界である。

こちら側に現れると歪みをもたらし、不可解な場所として私達の前に映し出される。

だが、現世と違って、完全ではない。

必ず、不安定な場所が存在する。

現世と幽世の繋いでいる場所。

それは、入り口でもあり、出口となっている。

そして、今。

禁忌の箱。

意味を持って作り出されたこの場所は、蔵として機能している。

箱の蓋として白猿を使ったと聞いたが、いまいち、よくわからない。

人の心を映し出す道具かもしれないと、とりあえず、考えている。

箱の器は、幽世。

幽世の理を当てはめると、どこかに、不安定な場所があるかもしれない。

それが、入り口でもあり、出口でもあるのだろう。

私達が入って来た時。

古い家屋だった。

きっと、それがここから出られる手がかりとなるのかもしれない。


 灯花は、天井を見上げた。

白猿は、相変わらず、こちらを見下ろしていた。

見た目は白い猿。

人の二倍ある胴体に白く鋼のような毛並みに二つある尻尾。

猿の顔があるはずの顔は、鏡。

顔がない猿。

先ほど、天狼さん、オタ面さんは暴れ出した白猿と戦った。

びっくりするほどの戦闘力だった。

猿のくせに、暗器の武器まで使ってくる始末。

もう一度、戦うことになったら、マジ勘弁。

私が今、何を考えているかと言うと、白猿の鏡の方だ。

天狼さんは、あの鏡から出て来た。

もしかして、あれが出口かもしれないと候補として考える。

私は、白猿に恐る恐る声をかけて見た。

「おーい!白猿!」

すると、白猿は鏡からあるものを取り出しては、こちらに投げて来た。

「うわっちゃあぁあ!」

当たられなかったのが幸いだ。

「ばかっ!もうっ話しかけないでっ!」

「…………」

私は、投げられたものを拾った。

また、渋柿だった。

「そ、れ、は、せんべつだよ☆つぎは、絶対、当てるから~!きゃあ☆」

私は、オタ面さんに渋柿を投げつけた。

「ぶっつほうおっ!」

裏声がうざい。

「これっ灯花、食べ物を粗末に扱うな」

「ちっ」

天狼さんに言われてこの場を鎮めた。

「白猿に用があるのか?」

天狼さんの問いに私は素直に答えた。

「白猿の鏡が気になって…天狼さん、あの鏡から出て来たんですよ?」

「そうか…」

その反応は、何か知っている?

「天狼さん、白猿のあの鏡の中に入ることは出来ますか?」

「白猿の中か?それは、出来ぬことはないが、やめたほうがいい」

「何か、あるんですか?」

「白猿は、顔だ」

「顔?」

「顔は、他者が見れば顔となり、写すことで己を自覚できる。だが、内から見ると?己の顔を己の目で見る事は出来ぬ」

「……すみません、言っていることが、よく、わからないです」

「つまり、己の認識が出来ないと言う事だ」

「自身がわからなくなるんですか!?」

「そうだ。顔の中に入るのはいいかもしれない、だが、入ってここから出られても、自我が持てるかどうか…白猿のように顔無しになるか、はたまた別人となるか…」

血の気がさぁーと下がった。

「し、白猿の鏡は、やめておきましょう…」

「そうだな、そのほうがいい」

出戻りは出来ないようだ。

蔵の中に易々と入れるけれど、閉じ込められる仕掛け。

セキュリティーとしては、さすがだ。

盗人が入っても、盗人ごと閉じ込める。

もし、出れたとしても、廃人となっている。

さすがの大泥棒も、お手上げかな?


 灯花は、襖の空間の先を見た。

襖の数が多くなっている。

先ほどの、百足の水墨画といい、他にも水墨画が存在していた。

それは、見ていて、ぞっとするような絵ばかりだった。

地獄蟲の水墨画。

本当に趣味が悪い。

だけど、陽炎さんのヒントってこれの事だと思う。

わざわざ、白猿と戦って、この世界にしたんだし。

この襖の向こうに、必ず、出口はある。

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