白猿の資格取得。
天狼さんとオタ面さんとの話で大体の事はわかった。
「まず、天狼さんは、以前の方法でここから出ようとしているんですね」
天狼は、頷いた。
私は、オタ面さんから聞いたことを話した。
「無理にこの世界を壊すと、そこから禁忌の物が出てくるらしいんです」
「そうだな、だが、それしか出る方法が無い」
私は、一拍置いて、言葉を出した。
「私は、その方法は納得できません」
「ふむ、ではどうする?」
天狼は、腕を組んで話に傾けた。
私は、オタ面さんを見た。
鬼の面をしていて、表情は伺えない。
「正直に言ってください。他に出る方法があるのでしょう、教えてください」
私は、じっと鬼の面を見た。
すると、オタ面さんは鬼の面を外した。
黒髪に緋色の瞳、顔には花のようなあざがある。
顔の輪郭は、天狼さんにそっくりだった。
背恰好まで、近い。
やはり彼は、天狼さんと血縁者なのだろうか?
そう思いながら、様子を伺っていた。
「そう睨み付けるな、天狼。これも、主の命だ」
いつもと違う声音で言葉を吐いた。
「資格無き者に、禁忌を手にするなかれ。愚か者に手打ちを」
陽炎は、灯花が持つ硯鬼を見た。
その様子に天狼が、すかさず言い出した。
「相手になるぞ?陽炎」
「いいや、拙者ではない。天狼…相手は、これぞ!」
陽炎は、鬼の面を上と投げた。
「…っ!!」
鬼の面は、天井にいる白猿へと上がった。
白猿は、鬼の面を受け取った。
「陽炎!」
天狼が叫ぶと陽炎は、背にある刀に腕を回した。
「灯花たん、約束は守るぞよ」
「ふぇ?」
いきなりの事でまぬけな声しかでなかった。
「来るぞ!」
天狼さんの声が響いた。
その時、天井から背筋が凍るほど殺気を感じた。
灯花が天井を見上げると、白猿が鬼の面をしていた。
顔が無い白猿が鬼となった瞬間だった。
目録として機能していた白猿が、別の機能を発揮していた。
いきなり、灯花の元にと尖った刃が振り落とされていた。
灯花は、声にならない叫び声をあげた。
そして、この箪笥の空間に鈴の音と打撃の音が鳴り響いた。
「資格が無ければ、会得すればよいこと。簡単な事でござるな~」
オタ面さんの声が聞こえて来て、灯花は自分の置かれた状況を把握した。
目の前には、白猿の鋭い獣爪があった。
その凶器が私にかかることはなかった。
なぜなら、天狼さんが瞬時に刀から刀身を抜いて、押さえていたからだ。
甲高い音が鳴り響くと同時に鈴の音と琴の音が鳴った。
オタ面さんの手から伸びる黒い糸が白猿を捕らえていた。
指を小刻みに動かすと目の前にいる白猿が後方へと引っ張られ、箪笥方へ叩きつけた。
衝撃と反動で、箪笥の引き出しが、飛び出した。
いくつもの重量がある引き出しがこちらへと飛んで来たが、それを天狼が素早く切り捨てる。
陽炎は、白猿に追い打ちをかけるように、背にある刀から刀身を抜いて、抜刀をかけた。
まさに、金棒ように振り下ろし、白猿に一撃を食らわせた。
だが、白猿も鬼。
白猿の手には、鎌が握られていた。
鎌には、鎖と重りがついていた。
灯花には、見覚えがあった。
悪器。
地獄蟲の死骸を幾もの重ねて、作り上げた武器。
ここに落ちて来て、白猿によって召喚された悪器だ。
その武器を使いこなす白猿。
陽炎の一撃は、鎌と鎖によって防がれた。
陽炎は、瞬時に白猿と距離を置いた。
天狼は、灯花を背に置いて、刀を構え直した。
「陽炎、後で覚えていろ」
陽炎は、不敵な笑みを浮かべて言った。
「ご褒美でござる」
白猿は、鎌が付いている鎖を回しながら、天狼と陽炎の様子を伺っていた。
先に動いたのは、陽炎だった。
鈴の音を鳴らし、再び黒糸を白猿に絡めとろうとするが、それも白猿の鎌によって瞬時に斬られた。
鎌の動きがまるで、蛇のようだ。
その滑らかな動きで、黒糸が斬られのだ。
生きてる武器とはこの事を言うのだろう。
黒糸の呪縛を切り裂いて、鎌が向かったのは、天狼の後ろに控える灯花の方向だった。
天狼は、刀身で鎌の動きを弾いた。
白猿は、鎌を己の元へ戻すと、再び鎖を回した。
「界」
どこからか、複数の男女の言葉を聞いた。
突然、白猿の元に黒い大穴開いた。
黒い穴は、怖気がする闇一点。
白猿は、回していた鎌を大穴に投げた。
すると、投げた鎌を通じて、大穴から巨大な蟲が現れた。
蟲は、巨大化した蠅だった。
蟲が大穴から這い出ると大穴はすぐに閉じた。
悪器は、地獄蟲を召喚出来るのか。
さすがは禁忌と呼ぶ物。
最悪過ぎて、吐き気がした。
「客を呼ぶとはな…笑わせる」
天狼の呟きが灯花の耳に届いた。
灯花は、その場から動けずにいた。
一歩でも動けば、その身は無事でいられるだろうか?
巨大した蠅が耳障りな音を響かせて、こちらを向いていた。
巨大した蠅の下からは、黒蟲が湧いていた。
わらわらと蟲の蠢く音に不快さを感じた。
灯花は、急な出来事について行けなかった。
話し合おうとして、なぜ戦闘が始まったのかわからなかった。
今わかることと言えば、私は狙われているぐらいだ。
蟲との目が合ってしまった。
あれは、こちらを獲物として判断した証拠だった。
私は、手元にある硯鬼を持とうとして、それをかすめた。
やばっ!
どうやら、先ほどの白猿の衝撃で、硯鬼を手放してしまったようだ。
この状況で、落としたとなると、迷惑千万。
灯花は、落とした硯鬼を探した。
天狼は、己の中にある炎を練り出し、青の火炎を纏った。
握る刀には、鋭い刃を蟲に向けた。
「早々に終わらせてやろう…」
その瞳は、より鋭く刃の如く獣の眼をしていた。
先に動いたのは、黒蟲の方だった。
群れを引き連れて天狼達を襲った。
天狼は、一線を引くように黒蟲の群れを斬った。
斬れた黒蟲は、その一線に導火し、青の炎となって一瞬で灰となった。
灯花は、青の炎の熱気と灰が舞い落ちる中、必死に硯鬼を探していた。
箪笥の床が荒れていて、所々引き出しが飛び出ていた。
そんなに遠くは飛んでいないだろうと、辺りを見渡す。
「あっあった!」
4、5メートル離れた所に、引き出しと一緒に転がっていた。
その時、子供の声が上がった。
「うぎゃあああー!!」
硯鬼の絶叫が響いた。
「燃えてる!おれっち燃えてねぇ!?」
瓶の中いるから、燃えてないが、青い炎が近くで燃えていたら誰だって驚く。
私は、目覚めた硯鬼の声を聞きながら、とりあえず見つかってよかったと胸を撫でおろした。
そのつかの間に、次の打撃が響いた。
白猿が鎌を使って攻撃をしていた。
それをオタ面さんが刀を使って防御し、黒糸で応戦していた。
天狼さんも巨大した蠅と黒蟲たちと対峙していた。
二人とも、各々敵と向き合っていた。
このままだと、硯鬼は、この戦闘でまたどこか行ってしまう。
…私のすべきことをしょう。
怖がって、うずくまることはいつでもできる。
だけど、今できることは、今しかない!
灯花は、その場から動いた。
硯鬼を手に入れるために、身体を動かしその手を伸ばした。
足元はおぼつかず転んでしまったが、それでも足を動かして硯鬼の元へと向かった。
そして、手元に硯鬼が戻った時には、状況は悪くなっていた。
あとちょっと、動きが遅かったら、飛んできた引き出しに当たっていた。
「やばいやばいやばい!」
「うるせー!このドブスがああー!!」
「あなたもうるさいわよ!このくそガキ!」
再び飛んで来る引き出しに、私はとっさに硯鬼を抱きしめた。
「灯花!」
天狼さんの声が響いた。
来るはずの痛みは、来なかった。
なぜなら、黒霧の地面から、巨大な黒い手が私を庇うように現れていたからだ。
焦げたような肌に紅い鋭い爪をし、人を簡単に握りつぶせそうな指をした鬼の手。
「ちっ!おれ様をしっかり守れ!このブスが!」
どいう吹き回しなのか、私を庇ってくれた。
「はいはい!わかりました!だから、大人しくしててよね!」
ほんと口悪!でも助かった。
私は、片手で瓶詰めの硯鬼を抱きしめて、硯鬼の大きな手に触れた。
人の肌の感触であるが、その硬さに驚いた。
鋼鉄と表現すればいいだろうか?
触れた時に、その重圧を感じた。
「灯花!」
天狼さんの呼び声に、私は反応した。
「天狼さん!」
天狼は、黒蟲を青の炎で対峙しながら、私の傍に来てくれた。
「無事か!」
「はい!大丈夫です。この子がいたから、助かりました」
「そうか」
天狼は、私を一瞥した後、巨大した蠅へと視線を向けて言葉を出した。
「灯花は、そのままそこにいてくれ」
「あっはい!」
私が返事をすると、天狼さんは蠅の元へと走って行った。
天狼は、灯花の元から去ると、一目散に親蟲の元へと向かった。
「終わらせると言っただろう?」
天狼は蠅の頭に刀を振り下ろした。




