箱からの脱出方法。(その2)
灯花は、よく目を凝らして箪笥の空間を見渡していた。
「また、こけるでござるよ」
オタ面さんの言葉を聞きながら、私は箪笥の床を歩いていた。
「大丈夫です。だいぶ、慣れてきましたので」
少し金具を踏んでも、あまり痛く感じなくなった。
「そうは言っても、辛いのは変わらないだろう?」
天狼さんが、心配そうに言葉をかけてくれる。
「無理はせずとも、私がお前を抱えよう」
私を抱えようとする手が伸びて来た。
灯花は、すかさずその手から、身を引いた。
「いいです!だいじょうぶです!」
これ以上、甘えるわけにはいかない。
灯花は、再び歩き出して、目的である歪みを探した。
「…………」
天狼は、空ぶった手を引っ込め来ることができず、その場で固まった。
それを見ていた陽炎は、口元を押さえてくすくすと笑った。
「ぷぷっ!振られているでござる」
聞いていた天狼は、じろりと陽炎を睨み付け、そして、にっこりと笑い、陽炎に近寄った。
「えっ?ちょっとどこを触っているでござるか!いやんっ!ぎゃあああ!!」
「ふんっ!」
天狼の手には、黒い毛が握りられていた。
「うっつうぅ……なんてひどい人!」
まるで、夫に暴力を振るわれた妻のようだ。
そんな陽炎を無視して、天狼は灯花の後を追った。
なんだか、後ろがうるさいなぁと思いながら、灯花はきょろきょろと箪笥を見ていた。
見渡すかぎりの箪笥を見ていたが、歪みは見当たらなかった。
ふと、上を見上げると白と紫の旗が天井から降りているのを見た。
どの旗も、花模様の刺繍が施してあった。
灯花は、少し思考を巡らわせた。
そして、ある疑問が浮かび上がった。
歪みを探さなくても、他に出られるはずじゃないのか?
こっちには天狼さんがいる。
人狼たちにとって、神様だと思っているぐらいだ。
それに、管理者がいるみたいだし。
管理者に聞けば、簡単に出られるのではないか?
それとも、ここが単にそういう場所だからだろうか?
なんて、歪みを見つけるのが面倒くさくなったわけではなく、ただ本当に疑問に思った。
オタ面さんが言っていた。
当代の管理者は意地悪だと…
私は、天狼さんに振り返って聞いてみた。
「天狼さん、あの…」
天狼さんは、私の言葉に傾けていた。
「うん、どうした?」
私は、意を決して言葉を出した。
「天狼さん、前にも来たことがあるんですよね。それって、同じように歪みを探して出られたんですか?」
天狼は眉をひそめた。
「どうして、そう思う」
「えっと…天狼さんなら、簡単に出られるんじゃなかなと思って…それに、ここの管理者がいるんですよね?その人に会えば、すぐに出られるんじゃないかなと思うんですけど…あの、変なこと言ってすみません…」
おそろおそろ天狼さんの様子を伺うと、不敵な笑みを浮かべて、天狼は言葉を出した。
「当たりだ」
「えっ?」
「灯花の言う通り、本来なら、すんなりとここから出られるだろうな」
「じゃあ…」
「だが私は、ここから出られる力が無い」
「…………」
天狼さんは、天井を見上げた。
その視線の先は、白猿だった。
いつの間に、こちらまで来ていたのだろうか?
白猿は、天井に張り付いたまま、こちらをじっと見ているようだった。
「私は、以前ここに来た。だが、同じように閉じ込めれて、出られなかった」
「……今回も同じように?」
「そうだ、それしか出られなかった。そして、管理者に何を言おうとも、今の私は相手にもされなかった」
「そんな!困っているんですよ!」
「ここが、そう言う場所だからな。資格が無い者は、封じ込めるのがこの世界の常識。管理者に意を唱えるなら、それなりの資格を持たねば、会うすら難しい」
「天狼さんに資格が無いと言う事ですか?」
「そうだ」
「そんな…」
天狼さんにそこまでさせる管理者っていったい…
天狼さんより、偉い人?
それに…
「本当に危ない場所だとわかっていたら、入らなかったのに…」
閉じ込められるなんて、聞いてはいたけど、こんなにも危険な場所なんて思いもしなかった。
天狼さんはよく入ったよね…
「正直、灯花がいるのは驚いている」
上を向いていた天狼は、今度は灯花を見ていた。
「よく封じられなかったな、ここまで来るのは、苦労しただろう?」
「ああぁそうですね…誰かさんが、居てくれたので何とかここまで来れました」
誰かとは、あえて言わない。
「とにかく、前に進むしかなさそうですね。頑張らないと…」
「本当に無理だけは…」
「ほんとうにだいじょうぶです!」
「そうか…」
なんだが、残念そうな声が聞こえたが、そこは流そう。
そう何度も抱えられたら、顔が真っ赤で治らなくなりそうだ。
ここから出る方法は、わかった。
歪み。
現世と幽世の隙間。
曖昧で、かさぶたのようなもの。
りんさんからの言葉だ。
彼の言葉が今の私がいる。
生かされている。
灯花は、切ない気持ちを押しとどめて前を向いた。
歪みがある所ってどこだろう?
そう簡単には、見つけられないだろう。
「天狼さんは、前来た時、歪みはどこにあったんですか?」
「ああ、そうだな……」
なーんか、嫌な予感。
天狼さんの反応が、私が思ってもいないことを言いだしそうだった。
「どこにあったかと言うと、空間を斬りつけてだな…」
「…………はい?」
それって、強行突破で出たと言っているような、気がする。
「斬っていいんですか?」
「駄目だろうな」
「…そっそ、それじゃあ、前回は、無理やりこじ開けて出られたんですか?」
「ああそうだ」
なんだろう、この不安は…
「なに、少し傷ができるぐらいだ。問題なかろう?」
悪気もなしに、答えて来る天狼さんに、私は待ったをかけた。
私は、少し遅れているオタ面さんに近寄った。
「あの、オタ面さん。あの見た目はすっごくかっこいいんだけど、物騒なことを言っているんです。本当に大丈夫なんですか?私、生きて帰れますか?」
オタ面さんは、さっきから尻尾をさすっていた。
「無事ではすまないだろうな。ここは、禁忌の箱でござるよ。そんなことして、禁忌が漏れてしまうでござる。まあ、漏れてしまったでござるがな」
「まさか、硯鬼が出て来たのは…天狼さんがつけた傷のせい?」
「ほう…察しが早くていいでござるな。直感がよいことは、兆しがあるぞよ」
「…………そうなのですか?」
「さっきから、冷たい態度をしおってからに…ぷいぷいでござるよ。天狼坊ちゃんに、直で言ったらどうでござるか」
「私が言っていいんですか」
「天狼坊ちゃんは、歪みと言うより己がつけた傷を探しておられる。傷を開くと言う事は、今より傷が悪くなるでござるよ。今言わなくては、いつ言うでござるか?己の直感を信じた方がいい、少なくとも身の危険を知らせるものであるぞよ」
「まさか、そんな、物騒なこと、天狼さんが…」
「まあ、言わなくても後々が大変だということは、わかっているでござる」
「それじゃあ…」
「拙者は、監視者であるぞよ。それ以外は、職務外でござる。ここがどうなろうが、当代の管理者の問題でござる」
「…薄情なんですね。オタ面さんも閉じ込められているんですよ。どうやったら、無事に出られるか考えてくださいよ!えっまさか、自分だけ出られる方法を知って…」
オタ面さんは、ぷいっと顔をそむけた。
「ああー!!知っているんですね!」
なんて人なんだ!
こっちは必死に、出られる方法を考えて、歪みを探していたのに!
私は、オタ面さんの着物を引っ張ったり、叩いたりして、白状させようとしたが、白を切られた。
「もぉお!オタ面さんのばか!いじわる!へんたい!」
「ぐっふふふっご褒美でござる~!ぐっふふっふ……ふ?」
オタ面さんの笑いが止まった。
じろりと刃のような瞳がオタ面さんの影から見えた。
「は…」
オタ面さんの背後には、天狼さんがいた。
「なにやら、二人で話しているようだが…灯花をいじめてはないだろうな…」
「はっ…は、は」
武道に精通していない私でも、天狼さんから殺気を感じた。
天狼さんがオタ面さんにお仕置きをする前に、私は割って入った。
「天狼さん、ここはきちんと協力しましょう」
天狼は、訝しげな顔をした。
「協力?」
私は、天狼さん、オタ面さんを交互に見て言葉を出した。
「私は、ここがどう言う所なのかは、よくわかりません。ですが、私達は、この場所に閉じ込められているんです。お二人の話がどうも食い違っています。ここは、知っている情報をどうか私に教えてください。お願いします」
天狼は、陽炎を見ては、そして目を閉じた。
「わかった、灯花の頼みだ」
陽炎は、鬼の面の中で小さく笑い、頷いた。
灯花は、了承してくれたことに安堵した。
「ありがとうございます。それでは、脱出の方法を考えましょう」
今度は、きちんと3人で話会おう。
だいぶ遅い投稿ですみません。ペコリ(o_ _)o))
これからもコツコツ投稿を頑張ってきます!
読んでいただいてありがとうございます!




