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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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箱からの脱出方法。(その1)

 灯花は、箪笥たんすが並ぶ世界で、何かが割れる音が聴こえた。

……今、何か割れた?

辺りをきょろきょろと見渡していたら、つま先に金具を引っ掛けた。

「うわあぁ!ぶべぇっ!」

ぶざまに転んだ。

「よそ見をするからでござるよ」

オタ面さんに、不注意だと言われてしまった。

床まで箪笥だと取手やら金具を踏んで非常に歩きにくいのに、オタ面さんは金具を踏んでもスタスタと歩いていた。

よく、普通に歩けるよね…

痛い思いをしたが、持っていた硯鬼けんき瓶が割れなかったのは、さいわいだった。

起き上がって、硯鬼瓶を持ち上げる。

「よかった…何ともないみたい」

瓶の中は、すたすら眠っている硯鬼がいた。

見た目は、小さな子供だが、ミイラ化している。

オタ面さんは、これを処分すると言っていた。

理由わけは分かっている。

でも、私はこれと少しだけ話をした。

よくないとわかっているんだけど、どこか気が引いてしまう。

泣いていたし。

今の所は、好きにしていいって言われているし、しばらく、どうするか考えておこう…

そうこう考えていたら、オタ面さんは上を見上げていた。

「……どうしたのですか?」

私も上を見上げた。

天井には、白猿はくえいが鎮座しているだけで、動きは見られないが。

「ご無事でなりより……」

オタ面さんの言葉に反応するように、白く濁っていた白猿の鏡が青く光った。

「なっ!」

眩しくて片目をつぶってしまったが、それでも、何が起きたのかはっきりとわかった。

鏡のから、人の片腕が伸びて来た。

「えっ?」

白猿の鏡は、人一人出れる大きさに広がり、腕だけ伸びていたのが一気に人の全身まで、露わになった。

鏡からゆっくりと落ちてくる人物は、銀色の長い髪をなびかせる、白銀の人狼だった。

「……天狼さん?」

白銀の人狼は、箪笥たんすの床に着地した。

紫の瞳が私を捉えると、驚いた顔をした。

「……灯花か?」

その言葉でわかった。

私は、声の主へと駆け寄った。

「天狼さあぁあん!!」

駆け寄ったのはいい、だが、足元を見てなかったのは悪かった。

「あら~ん!ずぶぇええぇー!!」

華麗に金具につまづき、無様に転び、天狼さんに届くことはなかった。

「学習しないでござるな~」

オタ面さん、今はつっこまないでください。

感動の再会をしょうとして、このざまは恥ずかしい。

「灯花なのか?」

「天狼さん…まだ疑っているんですか?」

「いや、こんな所になぜ…とっとにかく、大丈夫か?」

天狼は、手を差し伸べる。

私は、本物だと言うように、その手を力を入れて掴んだ。

「天狼さんが、あまりにも遅いから迎えに来たんです!」

天狼さんは、また驚いた顔をした。

「……遅かったのか?」

私もオタ面さんも頷いた。

「………それは、すまなかった」

落ち込んだように下を向き始めた天狼さんに、私は慌てて言った。

「ああぁでも!ほら、ちゃんと合流できましたし!よかったじゃないですか!本当に無事でよかった!」

「………そうだな」

天狼さんは、そう言って私の頭を撫でた。

私に自然と頭を撫でて来るから、少しばかり照れる。

私の言葉に気持ちを少しでも上げてくれてよかった…

この優しい手は、確かに本物の天狼さんだと、温もりを感じながら思った。


 さて、天狼さんと無事合流を果たしたし、帰るか…

だけど、そう簡単には出られないのが幽世だ。

箪笥が並ぶ世界。

出口はどこだろう…

まさか、箪笥の引き出しの中とか?

そうこう考えているうちに、天狼さんとオタ面さんは先に進んでいた。

「あっ!待ってくださああい!あぎゃん!」

学習しないとは、これの事だろう。

金具に思いっ切り踏みつけて、痛い思いをした。

「~~~っ!」

今までの幽世で、ここが一番嫌な世界だ。

それでも、遅れながらでも天狼さんとオタ面さんについて行かないといけない。

よたよたと二人に追いつくと、オタ面さんに言われた。

「灯花たん、足つぼと思えば、歩きやすいぞよ」

「えー痛いですよ」

「血行が悪い証拠でござるよ。よ~く、ほぐして行けば気持ち良くなるでござる」

「はぁ…」

要するに、慣れろってことだよね。

天狼さんは、金具を踏んでも平気そうだし、普段と変わらないぐらいスタスタと歩いていた。

その慣れ、私もほしい…

「天狼さんは、ここに何度も来ているんですか?」

天狼さんの返答は、少し間が開いてから来た。

「…………ああ」

そのあまりにも、そっけない態度に、聞いてはまずかったことかもしれないと思った。

「あの、すみません…ずかずかと聞いてしまって…」

今思えば、私が知っていては、いけないような内容ばかりだ。

部外者が、立ち入るような場所ではないはずだ。

そう私が言うと天狼さんは、少し困った顔をして言った。

「いや、そうではない。ただ、ここには嫌なものばかりが置いてあってな、来るたびに思い知らされる」

「……そう、ですか…」

そんな天狼さんの様子に、私は踏み入れてはいけないものを感じた。

誰にでも、己の領域がある。

ここは、きっと自分と言う領域が具現化する所なのだろう。

だから、私にはあのバーガー屋に辿り着いた。

天狼さんが、暗い表情をしていることから、きっと良くない場所へとたどり着いているだろう。

それとも、いい所だっただけど、嘘が入った場所だったかもしれない。

それも、理想という場所。

どれも私がここまでたどり着くまでの、経験の上の話だが。

実際はどうかはわからない。

「ところで、灯花。それをどうするんだ?」

天狼さんが、話題を振って来た。

私が持っていて、気になったのだろう。

本来、これを斬るために天狼さんはここまで来たんだし。

「…そうですね、どうしょうかな…」

「悩んでいるなら、私が受け取る。それは人の身に余るものだ」

天狼さんは、白猿と違って、私にゆだねることはしない。

当然なことで、当たり前だ。

ふと、手元の硯鬼を見た。

胎児のようにすたすら眠る硯鬼。

「少しだけ、待っててもらえませんか?」

「なぜだ?」

「なぜって…可哀そうだから」

「灯花、馬鹿なことを申すな。人の慈悲だけで、治まるわけがあるまい」

確かにその通りだけど…

「だからその、待ってほしいです」

「待つ?それをどうするのか、判断したいと言っているのか?」

「はい…」

私の返事に、天狼は紫の瞳を伏せた。

しばらくの沈黙の後にすぐに答えは出た。

「…………わかった」

持ってていいの?

「あ、あの…」

天狼は、瞳を開け、私を視ずに言った。

「ただし、責任は持て」

「あっはい!」

今度は、はっきり返事をした。

硯鬼を落さないようにしっかりと胸に抱いた。

その様子を見ていた陽炎かげろうは、天狼に言った。

「てっきり、取り上げると思っていたでござる」

「本人がああ言っているんだ。それに、少しでもおかしな事をすれば斬り捨ててればよいこと」

天狼は、再び箪笥の空間を歩き出した。

「甘いですなぁ…だが、これも、一つの道かな…」

そう言って、陽炎は天狼の後を追う。

灯花は、そんな二人の後ろ姿を見ていた。

二人の雰囲気は、独特の薫りが放っていた。

追いついてもすぐに置いて行かれる、私の幼稚な頭じゃあ、彼らの考えは理解できないのだろう。

わがままを言っても、また置いて行かれる。

人と彼らとの差は、こんなにも遠い。

私は、そう思いながら、転ばないようにゆっくりと自分のペースで歩いた。


 箪笥の空間は、どこまでも続いた。

さすがにそろそろ疲れて来て、天狼さん達に追いつくのが辛くなってきた。

身体が痛く感じて、その場にうずくまってしまった。

そう言えば、あの廃ビル以降、あちこちに怪我をしていたんだった。

どおりで痛いわけだ。

今まで、痛くなかったのは、それどころじゃなかったからだろう。

生きるか、死ぬかの間際になると人は、痛みを感じなくなる。

この痛みが生きてる実感ってやつ?

「灯花、辛いか?」

私の様子に天狼さんが、傍に駆け寄ってくれる。

「あっ大丈夫です…」

ホントは辛いけど…

「だらしないでござるよ~まったく、近頃の若者は~」

オタ面さんにそう言われて、私は目を細めて言い返した。

「…あなたが連れて来たんですけど?」

天狼さんは、その言葉を聞いて、オタ面さんをじっと見た。

「陽炎、私は言わなかったか?灯花に指一本触れるなと…」

オタ面さんの鬼の面がじわりと汗をかいていた。

「あぁあ…そうだった、で、ござるな…」

天狼は、オタ面さんに問答無用で尻に蹴りを入れた。

「ぐほっおぉお!!」

オタ面さんが、尻を押さえている間に、少しだけ休憩をした。

出口が見当たらない世界で、疲労がたまっていた。

「あの~出口ってどこにあるのですか?さっきから、ずっと歩きぱっなしですけど…」

つい、愚痴のように言葉を出してしまう。

そんな私の言葉に答えたのは、尻をさするオタ面さんだった。

「出口は、ないでござる」

「……はっ?」

何を言っているんだ?

「人を惑わすことを言うな」

天狼がすかさず、訂正をした。

「出口はある、だが、それは出口ではない」

「あの、よけいわからないんですけど…」

「ここは、箱の中だ。箱に出口はあるまい」

「えっ!じゃあ、出られない!?」

驚きに辛さが吹っ飛んだ。

「灯花、落ち着け。そうは言っていない、出口がなければ作ればよいことだ」

「あっ…」

そう言う事か…

肩が上がった身体をゆっくりと落ち着かせた。

「じゃあ、作るってどうやって作るんです?あの、箪笥しかないんですけど…」

「本当に箪笥しか、無いか?」

天狼さんの問いに、気づき始めた。

「えっと…もしかして、白猿?」

「それもあるが、あれは目録だ。もう用はない。他にもあるだろう?」

他って…

私は、周りを見渡した。

箪笥と白猿は違うとなると、大体は絞られる。

「まさか、柿ですか」

「食べるか?良い出来だ」

「いえ、いいです」

白猿に渋柿を投げつけられたことを思い出した。

あれは地味に痛かった。

「そうか、それで?」

天狼さんの反応で、違うとわかった。

「じゃあ、提灯?」

あかりか。持って行くか?」

大体の物は、言ったけど違った。

「えっと、ヒントをもらってもいいですか?」

「そうだな…灯花は、どうやってあの廃ビルから出ることが出来たんだ?」

「えっ?」

廃ビル…

「これは、もう答えかもしれないな。お前の友人はどうやって出られたんだ?」

川村君は、私が廃ビルの屋上から突き落としたんだ。

その時、確かに出口はあった。

「…歪みですか」

「そうだ」

ここも幽世。

現世と違って、完全ではない。

「ここは、幽世を器にしている。当然、歪みはある。私はその歪みを辿って今に至る」

「最初から、そう言ってくださいよ。出口はないといか言われて、本当にびっくりしました」

「だから、惑わすなと言ったんだ。なあ、陽炎?」

オタ面さんは、尻尾をさすっていた。

「毛づくろいですか?アホ毛でも抜きましょうか?」

「二人して、ひどいでござる」

オタ面さんの言葉を聞き流しながら、話を続けた。

「…にしても、歪みがあるなら、早く言って欲しかったです。私にも出来る事ですし」

「そうだな、最初から言えばよかったかもしれん。だが、見えるのか?」

「えっうそ、そんな特殊な魔眼が必要なんですか?」

「まがん?ああすまない、変な言い方だったな。そうではないが…人によっては、違うのだ。歪みの見方が」

その言い方だと、天狼さんが見ている世界と私が見ている世界は違うと言う事になる。

人狼と人間とは、やはり違うのかもしれない。

「もしかして、霊力とかで見えるとか?」

幽霊を見る人は、霊力とかあるとか無いとか言っているし。

「それもあるが、灯花は世界をどう見ている?見方によっては、道が違うかもしれない」

「なんだか、怖いこと言いますよね…道が違うって、まさか見えなかったら、私だけ取り残されるなんてこと…」

「それはない、私がそうさせない」

そうはっきりと、天狼さんに誓いのように言われてしまった。

これを心が震えずいられるだろうか。

「…………えっと」

赤面しながら、天狼さんの問いに答えようとした。

だけど、どう答えたらいいのかわからなかった。

世界をどう見ているなんて、自分でもよくわかない。

それは、ずれた人しか見えないし、ずれていることを知っている人しかわからない答え方だろう。

「………わかりません」

「そうか…ならば、私の見方で世界を判断する。それでよいな」

「はい、すみません」

自分の見方に自信が無い。

「なぜ、謝る?」

「言い出したのに、何も出来なくて…その」

「確かに今の灯花は、何も見えておらんな。下ばかり見ているお前は、何も見ようとしない。そんなお前を誰も信じないだろうな」

「…えっ」

いつの間にか、私は下ばかり見ていた。

私は、上を見上げた。

すると、そこには天狼さんが真剣な顔でじっと私を見ていた。

「灯花、これだけは覚えておくんだ。この世は、まやかしばかりある。その中で真に信じるべきものがある。それは、己自身だ。己を信じなければ、何も見えず、一歩も歩けまい。自信を持て、灯花。さすれば、道は出来る。それが出来たから、お前は友を救えたのだ」

天狼さんは、そう言って私に微笑みを向けた。

自信を無くせば、道は見えない。

下ばかり見ている私は、きっと、ここから出ることは出来ないだろう。

だけど、天狼さんの言葉を聞いた。

己を信じて、出口はあると信じて、前へと進み出口を作る。

それが、幽世から出られる唯一の手段なのかもしれない。

「天狼さん、私も歪みを探します。どうか、手伝わせてください。足手まといだと思いますが、お願いします」

私は、気持ちを入れ替えて、天狼さんに頭を下げた。

「まさか、足手まといなんて思っていない。灯花、それは力になる。力を貸してくれ。ただし、無理だけはしないでくれ」

「はい!」

私は、差し出された手を取った。

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