コートの男。
男は、座り込んでいる私を見下ろして言った。
「君、ほんとに大丈夫?」
様子を伺う声に、私は少し落ち着きを取り戻す。
普通の人ならば、こんな所で座り込んでいる女子高生がいたら心配するし、声ぐらいかけるだろう。
「だ…だっだいじょうぶです…」
恐れで裏声だったが、声を出せたのはよかった。
私は伏せていた顔をゆっくりと上げた。
そこに立っていたのは、背の高い男だった。
一見普通の成人男性に見えるが不安を感じる格好をしていた。
男はスーツの上に茶色いコートを着ていたが、仕事帰りにしてはかなり汚れていた。
山でも入ってきたのだろうかと思うほど、男は土まみれだった。
男の顔は暗くてよく見えなかったが、笑っているような気がした。
優しく言っているのは分かるが、なんだか悪寒がする。
「大丈夫なら早く帰った方がいいよ、君」
「…はっはい…」
言われた通りに重くなった体をあげる。
早く帰ろう。
こんなところ早く離れよう。
男に背を向けた時、声をかけられた。
「気をつけて帰ってね、夜は危ないから…」
そう言われた時には、逃げるように走っていた。
不気味な声音で言ってくるから恐ろしくて私は逃げた。
そんな女子高生の背中を見ながら、男はつぶやいた。
「そんなに逃げなくても…」
自分はただ心配で声をかけただけなのに…
男はため息をつき踵を返した。
電工灯は男を照らしていたが、男の影はその形はしていなかった。




