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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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黄金の人狼の箱。

 琴を鳴らす音で、天狼は意識を浮上させた。

起き上がると、自分は畳の上で横になっていた。

「ここは…」

ふらつく頭を押さえて、状況を把握する。

確か、私は…

白猿はくえんが作り出す、己の回想世界へと入り、そこから出たはず…

なぜ、私はここにいる?

まさか…

「そのまさかだ」

見上げてると声の主がそこにいた。

と筆で描かれた白い布で顔を隠した女中から酒を注いでもらい、それを飲み干す男。

お膳が並ぶお座敷に、着物をはだけさせる、無作法な振る舞い。

金色のざんばら髪に黄金の獣の瞳、白い肌に整った顔立ち。

男なら誰もが羨む、鍛え抜かれた肉体。

何一つ、欠点がないほどの容姿に男の私でも惚れてしまう身体。

だが、その男もここにいる理由わけは言わずとも知れたこと。

「くっくくく、久しいな負け犬」

「…………」

誰もが虜にしてしまうその声で言われ、天狼は目を細めた。

「くっくくく」

くすくすと笑う男に、一瞥しながら身体を起こした。

天狼は、己を叱咤した。

天狼であろう私が、再び封じられるとは…

この世界では、私の本質が露わになる。

今までの事もある、これは当然の結果だった。

「そう嘆くな、見苦しいぞ」

にやつきながらひじ掛けに寄る男は、寝間着同然の格好だった。

だが、男が身にまとっている羽織は、翡翠ひすい色の絹で蓮の刺繍が施している羽織だった。

天狼は、その場に姿勢を正し、男に言った。

「この場は、お前に従おう。その代わりに私に道を示せ」

「この私に道標になれと?」

「そうだ」

「ふっははっはは!何を言うのかと思いきや、また随分な口を聞いてくれる!」

「…………」

天狼は、天狼らしく振舞ったまでのこと。

「甘えるな子犬こぞう

男の黄金が細められた。

「……だがな、このまま哀れな子犬こぞうを観つつけるのは、つまらん」

男は、懐から黒い扇子を取り出し、天狼に投げつけた。

天狼が受け取ると男は、言葉を続けた。

「私を楽しめさせろ」

「…………わかった」

天狼が答えを出すと、部屋の襖から、白い布で顔を隠した女中達が現れた。

ここで、自尊心を出す安い私ではない。

だが、少しばかり嫌な予感がした。

「「「まぁまぁ~~まぁまぁ~~まぁまぁ~~」」」

女中達に連れられて、ある部屋へと向かうこととなった。


 再び、黄金の瞳に天狼が映った時には、笑い声が飛びかかった。

「…………」

笑うだろうと思ってたが、そこまで笑う事はないだろう。

「美しいぞ、さすが天狼」

「うるさい」

天狼は、女の格好をさせられていた。

上品な蒼い引きずり着物に、問答無用の紅。髪には、かんざしをいくつも刺されている。

女の格好は、幼少の時以来だ。

「似合っているぞ」

御託ごたくはいい」

「ならば、わかるだろう?」

女中達が各々楽器を持ち始めた。

お琴に笛、小太鼓。

そして、手持ちに黒の扇子。

舞えということか…

「いいだろう…」

天狼は、黒の扇子を構えた。

音が鳴りだすと、蒼い着物をひるがえして、黒い扇子を広げた。

黒い扇子を開くと、紅い蛍が飛んだ。

ともしびが宿る扇子。

舞うごとに、灯りが飛び散った。

楽器の音と舞いが同調した時、天狼は詠った。


私が奏でる詩は、ある物語。

うたうのは、彼岸の詩」

流転るてんが流るる川に老婆おうながいた」

老婆おうな、盗人の番ににて、亡者の皮を剥ぐ者」

「皮の重み、罪と言う」

流転るてんが流るる川に老婆おうながいた」

老婆おうな、盗人の番にて、鬼に語った」

「皮の重み、罰と言う」

流転るてんが流るる川に老婆おうながいた」

老婆おうな、盗人の番ににて、己に語った」

「皮の重みは、痛みと言う」

うたうのは、彼岸の詩」


ある彼岸の物語。

流転が流れる川に老婆ろうばがいた。

老婆は、盗人の番人で亡者の衣を剥いでいた。

亡者の衣は、罪の重みだと言っていた。

流転が流れる川に老婆がいた。

老婆は、盗人の番人で亡者の衣を剥いでいた。

老婆は、鬼に語っていた。

亡者の衣は、罰の重みだと言っていた。

流転が流れる川に老婆がいた。

老婆は、盗人の番人で亡者の衣を剥いでいた。

老婆は、自分に語っていた。

私の衣は、重くて痛いのだと言っていた。

ある彼岸の物語。


天狼は、蒼い着物の袖を大きく広げ、閉じた扇子で水をくみ上げる仕草で老婆をかたった。

最後の舞は、閉じた扇子で己に飲み干す仕草をし、蒼い着物を大きく袖を広げて終わった。


 男は、満足そうに天狼を傍に呼んだ。

「良いぞ良いぞ、さぁ飲め」

男から酒を渡され、天狼はそれを飲み干す。

「いい飲みっぷりだ、ほれもう一献」

差し出される酒をまた飲み干す。

天狼は、酔いがまわる前に事を伝えた。

「道を示せ」

男は、黄金の瞳を細めて天狼をじっと見た。

此度こたびは、女としていれば良かったのにな…」

「ふざけるな」

「そう怒るな、道は既に示した」

「…………」

天狼は、最初は訝しげに男を見ていたが、先ほどの紅い蛍が視界の端を飛んだことで、意味を理解した。

天狼は目を閉じた。

「わかった」

男は、そんな天狼にお酌を求めた。

天狼は、男にお酌をした。

「天狼、これだけは言っておく、逃げても無駄だ。どれだけ、道を開いても行く先は、原点だ」

「……私は繰り返さない」

「いいや、お前は繰り返す、何度でも」

「…………」

飲んだ酒が苦く感じた。

「もういいだろう、私は行く」

天狼は、その場を立ち上がると黄金の瞳が天狼を捉える。

「私は、いつでもここにいる。また、落ちてこい司狼しろう

「知らん」

誘惑をあっさりとあしらう天狼に、男はくすり笑い、黄金の瞳を閉じた。

天狼は、男に背を向けて、言葉を伝えた。

「……世話になった」

もうここには来ないと、何度も願うよ。

お前は、私が喰い殺した男なのだから。


 天狼は、蒼い着物を脱ぎ捨てて、身なりを整えた。

かんざしを取り、おしろいを拭った。

刀を腰の差し、手持ちに黒い扇子を握った。

天狼は、行くべき場所を定めた。

このお座敷から出る方法は、ただ一つ。

天狼は、黒い扇子を広げ、火花を散らした。

火花は発火し、お座敷を焼き始めた。

燃えるお座敷に、ひび割れる音が響き渡った。

天狼は、その音に追い打ちをかけるように、刀に手を取り、お座敷せかいを斬った。

すると、黄金の瞳を持つ男の顔が割れた。

鏡が割れると、世界が闇へと堕ちて行った。

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