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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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禁忌の箱。

 灯花は、転ばないように箪笥たんすの床をゆっくり歩いた。

移り変わる世界に戸惑いつつも、それでも、目的を忘れずに天狼さんを想う。

禁忌の箱の中は、意外と神秘的な空間だった。

禁忌と言うからには、ここの入り口同様に、もっとお札とか鎖とかして厳重にされていると思った。

無数に広がる箪笥たんすの空間に目を回しそうだ。

「天狼さんどこー!」

ここまで来たら、大声で探すしかない。

「天狼さーん!」

「そんなに大声出さなくても、近所迷惑なるでござるよ」

「でも、誰もいませんよ?」

オタ面さんが、人差し指を真っ直ぐ上げた。

「えっ?」

上を見上げると、得体のしれない獣が天井にいた。

見た目は、猿。

大人一人分の大きさで、白い毛皮に二又の尾。

そして、なにより驚くのは、顔が鏡だったこと。

鏡は、白く濁っていて、何も映っていなかった。

「あれって…」

「我は、目録」

「しゃべった!」

顔が無いのに、猿から声が聞こえた。

複数の男女の声を合わせたような声だった。

「あの猿、一体なんなの?」

「あれが、白猿はくえんの実体化でござる」

「あれが…白猿」

なんだか、仙人ぽい猿だな…

天狼さんの姿になってまで、私を封じろうとしていたんだもの、もっと道化のような姿だと思っていた。

「実体化にした白猿は、コンシュルジュのようなものでござる。灯花たん、油断はなさぬが良いぞよ、ここの当代の管理者は、ちぃとばかり意地悪だからな…試しに何か聞くと良いぞよ。今に分かる」

私は、オタ面さんの言う通りに白猿に聞いてみた。

「白猿、天狼さんはどこにいるの?」

「…………」

しばらくの沈黙の後、答えは出た。

「黒の巣にて、じ」

「はい?」

突然、白猿の真下の箪笥たんすの引き出しが勢いよく開いた。

引き出しの中身は、闇に包まれていて、わからなかった。

白猿は、言葉を続けた。

「九九の章、邪心の文字録もじろく卑見ひけんさやにて、黒き巣を開けん」

「へっ?」

「灯花たん、かがんでじっとするでござる」

「えっ?あっはい…」

言われた通り、頭を押さえてかがむと。

白猿が引き出した、引き出しから、ノコギリのような刃を持つ二つの大鎌が現れた。

箪笥の引き出しより、次第に刃が大きく広がるその大鎌の構え方は、何かの生き物を連想された。

引き出し中は、大鎌と繋がっている本体が潜んでいるのを伺えた。

突然、私達に向かって大鎌が振り下ろした。

じっとしているようにと言われた私は、反射的に避けることも出来ずに、ただうずくまることしかできなかった。

身を縮めて構えると、血臭混じりの風だけが肌をなぶった。

鈴の音が鳴り響いた。

灯花は、目の前の光景に呆然とした。

オタ面さんは、私の前に立ち、あの大鎌と対峙していた。

無数の黒い糸を張り巡らせて、大鎌の攻撃を防ぎ、拘束していた。

九弦くげん

黒い糸を弾いて、琴のような高い音を鳴らした。

オタ面さんが前に蟲を対峙した時と状況が違った。

大鎌の動きが強く、拘束していても、黒い糸が切れ始めていた。

「オタ面さん!」

灯花は、つい声を荒げてしまった。

「案ずるな…」

オタ面さんは、片手で、黒い糸を操作し、もう片方で背にある刀を掴んだ。

鈴の音を鳴らしながらの刀身を抜く姿は、まるで棍棒こんぼうを持った鬼ようだ。

大鎌は、糸を切りながら、距離を詰めていた。

そして、最後の一本が切れた。

始点抜刀してんばっとう…」

その抜刀は、私の目には見えない速さだった。

二つとあった大鎌は、見事に両方とも刃を斬られていた。

大鎌が大きすぎて、見えなかったが、引き出しの中で確かに蟲の本体がいた。

斬られた蟲は、声も上げずに引き出しの奥へと逃げ出そうとした時。

六弦ろくげん

琴の音が鳴った。

引き出しの奥へと無数の糸が入り、蟲が引きずり出された。

蟷螂かまきりか…」

「…………」

カマキリにしては、頭部が無かった。

それでも、無い状態で、ボタボタと黒い血を撒き散らしながら、のたうち回っていた。

黒の糸が再び、カマキリを拘束をした。

だが、暴れる蟲に変化があった。

斬られた傷の中から、新たに大鎌が現れた。

「……っ!!」

再生と言うより、生えたと言った方がいい。

生えたと言ことは、増えると言う事だ。

一つの大鎌が斬られれば、二つに大鎌が生え変わる。

その無限に湧き出す蟲に、違和感あった。

今までの蟲は、斬られれば灰となった。

だが、この蟲は失った部位は、生え変われる。

そんな、私の思考よりオタ面さんは、おくすることなく、蟲と対峙していた。

大鎌にられるというのに、もろともせずにそれを避け、頭部が無い蟲に近づいた。

オタ面さんは、己の刀を鞘に納め、蟲の首の中に腕を突っ込んだ。

「オタ面さん!」

彼の行動について行けず、不安が立ち込めた。

首の中に腕を突っ込まれた蟲は、途端に大人しくなった。

「どうゆうこと…」

オタ面さんは、ゆっくりと首から腕を引き戻すと。

蟲の肉体が、突然、風船のように破裂した。

「わあ!!」

辺りが大量の黒血が散った。

蟲の脅威は、去ったがこれはひどい有様だ。

殺人現場より、なお酷い殺戮現場だ。

せっかくの柿色の着物が黒血で、台無しとなった。

「これは、ひどいな…」

「…………」

そんな、オタ面さんの言葉に、反応できずに唖然としていた。

オタ面さんの手元には、鉄の鎖が付いている鎌があった。

オタ面さんは、上を見上げて白猿に言った。

「白猿、卑見の鞘にて閉じろ」

そう言うと、手元にあった鉄の鎖が付いている鎌を白猿へと投げた。

白猿は、それを受け取った。

にん

きっと、承諾の意味だろう。

白猿は、出したままの引き出しを箪笥に戻して、受け取った鎌を己の鏡の前へと持ち上げると、吸い寄せられるように、鉄の鎖が付いている鎌は鏡の中へと消えた。

「やれやれ、骨が折れるでござる。大丈夫でござるか?」

「……何とか、オタ面さんは?」

オタ面さんの着物は、黒血で汚れていた。

「無傷でござるよ」

「そう、ですか…」

見てれば、わかる。

あんな、無茶ぶりな戦い方をして、けろりとして目の前に立っているから、ああきっと、この人はお気入りのフィギアが壊れるまで、大丈夫な人だと思った。

「あれは、一体何ですか?ただの蟲ではないですよね?」

「あれこそ、ここに封じる意味でござるよ。灯花たん、地獄蟲を利用する者は、多い。だからこそ、あのような物が溢れかえっているでござるよ」

「物?そういえば、あれは…」

悪器あっきでござる。地獄蟲の死骸しがいを幾度も重ねて作った武器」

「えっでも、生きてましたよね!?」

「武器として生まれ変われば、それは生きているぞよ。それも、生き血をすすればすするほど、強化する武器でござる。今見たのは、悪器が具現化しただけでござるよ」

「じゃあ、天狼さんが言っていた不吉な物って、その悪器ってことですか?」

「そうでござるよ。それも、一つ二つとはいかない数でござる」

私は、周りを見渡した。

箪笥の数が、無数にあることにぞっとした。

「まあ、ここにあるのは、悪器だけじゃないでござるがな…」

オタ面さんの視線の先が、私の手元にあった。

瓶詰になった硯鬼。

これも、封じるためにここある。

「…そうですね」

私は、もう一度、白猿を見上げた。

「もう一度言います。天狼さんはどこですか!返してください!」

白猿の反応に身構えた。

「我は、目録」

「それ、さっきも聞いた」

「我は、目録」

「うん」

「我は、目録」

「知ってる」

「我は、目録。我は、目録。我は、目録。我は、目録。我は、目録」

「今度は、バスったあ!」

「我は、目録。我は、目録。我は、目録。我は、目録。我は、目録」

同じ音声で、繰り返す白猿に、堪忍袋かんにんぶくろが切れた。

「いい加減にしなさあーい!天狼さんどこかって聞いてんのー!このばぁかあああー!!」

すると、白猿は、途端に黙り込んだ。

「あっ止まった…」

白猿は、己の鏡から何かを取り出して、投げつけて来た。

「えっ?ちょおおー!!いでぇっ!」

地味に頭に当たった。

「いだい…いだい!何よおぉ…」

硬い石のようなものに当たり、しばらく、頭を押さえていた。

オタ面さんは、投げつけられた物を手に取ると私に言った。

「やれやれ、随分と遊ばれているでござるな。灯花たんのこと、客人とは思っていないようでござる。ほれっ」

オタ面さんに手渡された物を見ると、それは、まだ青い柿だった。

「私はカニですか!」

猿かに合戦でもしょうか!白猿ー!

「でも、これじゃあ…いつに立っても、天狼さんには…」

諦めそうな言葉を遮るように、オタ面さんが言葉を出した。

「地道に辿るしかあるまい?そもそも、白猿は、主しか言う事は聞かないでござる」

いや、聞けって言ったのオタ面さんじゃん!

もしかして、私が白猿に聞かなかったら、悪器と言う蟲に襲われなかったんじゃあ…

オタ面さん、結構えぐいわ。

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