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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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誰もいない箱。

 灯花と陽炎は、夕陽の街並みを歩いていた。

普通の街なら、ちょっとしたデート気分で楽しめるのだけど、この街は不気味で人がいない街だった。

道路の上を走る車は、動かす人がいなければ止まっている。

信号や横断歩道、店内の電気は通っているが、意味がない明かりだった。

鳥の鳴き声一つあげない夕陽の空は、とても虚しく感じた。

先ほどのバーガー屋さんを出た後に、この世界にすぐに気づいた。

私のトラウマ全開の世界の後だった為、しんどい思いはしたが、これが幽世だと理解すれば、なんとか乗り越えられた。

正直のところ、自分の立っている所が何なのか分らなくなってくる。

学校に向かっているはずなのに、なかなかたどり着かないのは、ここが幽世だからだろうか?

この道が本当に学校への道なのか、正しいのか、間違っているのか、わからなくなってきた。

そんな私の様子に、オタ面さんは言った。

「少し、休むでござる」

「いえ、大丈夫です。進みましょう…」

「灯花たん、具合悪そうでござるよ。幽世に酔ったでござるな~」

「なんですかそれ?人を船酔いみたいに言って…」

実際、なんだかむかむかするし、頭がくらくらする。

「ほれほれ、酔っているでござるぞ。少し休むでござる。」

オタ面さんは、ふらふらになっている私を支えて、学校の道とは違う道を歩き出した。

そっちの道は、公園があるほうだった。

少し歩くと、公園が見えて来た。

私達は公園のベンチで休むことになった。

「う~」

本当に何だか気持ち悪い…

「少し、横になるでござるよ。そう、遠慮するではないぞよ」

「えっあっうげっ!」

引っ張られて、オタ面さんの膝の上に頭を置く形となった。

なんだこれ…

男の人に膝枕してもらうなんて、父親しかない経験だ。

ぬっと鬼の面がこちらを向いていて、よけい、悪くなりそう。

「その~」

「どうしたでござるか?寝心地悪いでござるか?」

はい、そうです。

「出来れば、お面を外して頂けたら、いいな~なんて…図々しかもしれないですけど…」

「…ふむ」

オタ面さんは、お面を外した。

「これで、良いでござるか?」

「…………」

長い黒髪と緋色の瞳、顔に花ようなあざ。

それ以外は、天狼さんによく似ていた。

だけど、私を見下ろすオタ面さんは、仮面と同様に無表情だった。

「よく、白猿はくえんを乗り越えられたな…」

「えっ?もしかして、さっきのことですか?」

あのバーガー屋さんでのこと?

「そうだ。一時は、どうなることかと思ったが…本当によく乗り越えられた」

「…………」

そう言われても、あんまり自覚は無い。

ただ、今やるべき事を優先しただけのこと。

「褒めているのだ、嫌か?」

「嫌ではありません。ただ、私の事だったので…何と言うか…わかりません。あれでよかったのか、わからないんです」

「そうか…だが、大抵の者は、ここで迷い道を失う」

「迷う?」

「心のとがに囚われ、己の道を迷うことだ。咎は、己が罪だと思う記憶だ。心残りがある記憶、後悔。または、己が望んだ夢、欲望。白猿はくえんは、それらの記憶を反映して迷わせる。そして、奥へと記憶を進むにつれて、迷う。記憶を辿るという事は、白猿に知られるという事だ。もし万が一、肉体が幽世ここから出られたとしても、心だけは永遠に幽世に迷い続けるだろう」

「それじゃあ、私も…」

「迷っていただろうな…」

「…………」

オタ面さんは、無表情だった顔が崩れた。

「そっそんな!人でなしみたいな目をしないで!灯花たん!」

一応は、忠告はされたけれども、ここまでひどい所なんてわかるはずがない。

「あっでも、そんな目でもご褒美と分かればっごっほぅ!」

膝枕をしてもらっていたが、そのまま起き上がり、オタ面さんの顎に頭を食らわせた。

「あっごめんなさい。真上に変態がいたもので…」

とは言っても、具合の悪さはなかなか治らないものだ。

「…………」

頭を押さえて、視界が歪むのをやめさせる。

「……無理をせず、横になった方が…いえ、すみませんでした」

「…………」

なんで、こんなに眩暈めまいがするのだろう…

「歪む世界に酔うのは、当たり前でござる」

「歪む世界?」

「幽世は、不安定の世界でござる。いつ壊れてもおかしくはないし、現れてもおかしくないぞよ。その不安定な世界の行き来に酔ってしまうでござる。己が今立っている所が、偽物の世界だと自覚するたびにぞよ」

オタ面さんの言う通りだった。

「己の向かうべき場所を強く想え。そうすれば、酔いは落ち着くでござる」

「はい…ありがとうございます」

目を閉じて、気持ちを落ち着ける。

そして、学校のことを考えた。

自分の教室のことを思い出していた。

そうして、しばらくの間、静かに過ごした。


 冬の風が止んだ。

私は、違和感にゆっくりと目を開けた。

「…っ!!」

声をあげなかったのは、肩に手を添えられて落ち着かせられたからだ。

目の前に広がっている世界は、変わっていた。

教室。

私達は、教室にいた。

私は机に顔を伏せて、冷静ならせる。

「…………」

「…気を強く持つでござる」

「…はい……ここに、天狼さんが?」

「わからぬ。だが、残り香がある、近くにいるかもしれんぞよ」

「…わかりました。進みましょう…」

私は、顔を上げ、席を立った。

夕陽だけが、変わらず日を射していた。

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