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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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トラウマの箱。

 灯花と陽炎は、蔵の前に来ていた。

少しすれ違う程度しか見ていなかったが、いざ蔵を見ると重い雰囲気が漂っていた。

「大丈夫よね…」

この中に入った、天狼さんが気になった。

天狼さんは、硯鬼という鬼の封じが解けたことで、蔵に入って行った。

灯花は、辺りを見渡した。

「あのでっかい鬼の手は…いないよね」

鬼の面をさすりながら、オタ面さんは言った。

「硯鬼のことでござるか?」

「そう、ストーカーみたいな鬼こと」

「硯鬼は、中の方へと行ったようでござるな。封じを完全に解かないと、こちらへ出られぬことを分かったようだぞよ」

「確か、右手しか出て来れなかったよね…うん?待って、右手大きかったよね…身体はもっと大きい?」

「5階建てのビルぐらいあるかもしれないぞよ」

「うわあ、マジか」

「マジっすよ」

「天狼さん、大丈夫かな…」

「天狼坊ちゃんなら、鬼ぐらい平気でござるよ。問題は、白猿はくえんでござる」

…結局、説明されてもよくわからなかったな。

「灯花たん、中に入るなら覚悟したほうがいいでござる~。灯花たんの身は保証するでござるが、心のほうは保証出来かねるぞよ」

「心?」

「気をしっかり持つでごさる。途中で泣いても、誰も助けてはくれないでござるよ」

鬼の面の奥で、緋色の瞳がじっと私を見ていた。

「…………」

「自信が無いなら、ここで大人しくするでござる」

「…………」

「中途半端の気持ちなら、心をじられるでござる。そして、それはとても迷惑なことでござる」

「…………」

迷惑と言う言葉を聞いて、引き下がってしまう。

……でも、でも、でも。

天狼さんは、そんな迷惑な私を何度も助けてくれた。

それに迷惑なのは、最初からだ。

迷惑な私をほっとけばいいのに、ほおっておいてくれない天狼さんがいた。

私は、嫌な気配を放っている蔵を見上げた。

天狼さんは、この中に…

怪我が治ってばっかりなのに、こうもどうして無茶をするのだろう。

天狼さん。

「…オタ面さん、私、きっと泣く」

「…………」

「たくさん泣いて、わめいて、後悔して、みっともないと思う…だけど、私は頑張る」

これが、私だから。

弱い心を持っている私が私。

でも、頑張っている天狼さんがいるから、頑張れる。

すると、急に陰った。

「…っ!」

オタ面さんは、私の頭をひと撫でした。

そして、一言だけ真剣な声を聞いた。

「わかった」

それは、澄んだ声だった。

オタ面さんは、蔵の前にし、錆ついた鎖できた鈴緒に触れた。

すると、蔵全体に鈴の音が響き、蔵の扉が内側から開いた。

「いざ、出陣!」

「あっはい!」

こうして、灯花と陽炎は蔵の中へと入って行った。


 蔵の中は、埃ぽく一歩足を踏み入れると床がきしんだ。

オタ面さんは、それを気にせず蔵の奥へとスタスタ歩いて行った。

いくら青い火を灯すろうそくがあっても、蔵の中は暗い。

入り口もすでに勝手に閉まっているし、不気味だ。

オタ面さんに置いて行かれそうになりながらも、軋む廊下を早足で進んだ。

すると、オタ面さんは奥にある扉を開け、入って行った。

「ちょっと待って!オタ面さん」

そう声かけるが、止まらず行ってしまった。

灯花は、開いた扉の前で足を止めた。

扉の奥は、何も見えず暗闇だったからだ。

「ここを通ったのよね…」

でも、行かないと!

勇気を出して、暗闇に飛び込んだ。

だけど、続くだろう道はなかった。

「あだあ!」

何かの壁に顔からぶつかったのだ。

「うぐぅう…」

思いっきり顔をぶつけて、うずくまった。

しばらく、顔を伏せていると違和感を感じた。

さっきの埃ぽい蔵の中ではなく、カルキのにおいがした。

なんか、臭い。

ふと、顔を上げると目の前には、洋式の便所があった。

「……はっ?トイレ?なんで?」

どうも、私はトイレと縁があるようだ。

電気が点いていて、ここが個室の中だと把握できた。

私は、自分の姿を確認した。

柿色の着物を着ていて、帯に挟まっているオタ面さんからもらった扇子があった。

何かあったら、この扇子で殴るしかないけど…

丈夫に出来てそうだから、壊れることは無いだろう…たぶん。

灯花は、警戒しながら個室から出た。

何度も、色んな世界を渡って来た。

だからだろう、自然と慌てることなく冷静に物事を捉えていた。

でも、このトイレは、どこかで見たことがあるトイレだった。

トイレから出ると、呼吸を忘れた。

灯花の視線の先には、見たことがある光景が広がっていた。

いつも通りのガヤガヤとした空間に、学生や一般お客さんに、そこに勤める店員がそこにいた。

「……うそ」

体温が一気に冷めるのを感じた。

「な、んで…ここなの…」

よりによって、トラウマがある場所にたどり着くなんて!

そこは、駅前のファーストフード店。

バーガー屋さんだった。

そして、賑わう店内には学生の集団が必ずある。

耳の奥で激しく鼓動が聴こえた。

身体が上手く動かなかった。

一つのテーブルを囲って、談笑している学生の集団に見覚えがあった。

そう、私はこの場所を知っている。

この時間帯を知っている。

この人の流れを知っている。

そして、この会話を知っている。

「みのりちゃーん!ほんと先輩の彼氏になれるなんてうらまーしいいー」

「よ!バスケの王子!」

「ねえねえ!みのりちゃん可愛くなったね!よかったらその使ってるリップどこのー!教えてよー!」

「なあなあーこんな可愛い女子どこで捕まえたんだよ!むしろこっちが恨ましい!憎いぞこの野郎!」

「ところでさーさっきさー朝峰いなかったか?」

「朝峰って?」

「ほらっ中学の!噂の珍獣!」

「ああー思い出した!そうそういつも村上にくっついていたヤツ」

「思い出した思い出した!あの寄生虫!」

「あの時の村上可哀そうだったなー、いつもあの寄生虫が付きまとっていたしー、ああー気持ち悪い!」

「村上が優しすぎるんだよ!あのほっとかない精神!どうな奴だって優しく手を、差し伸べることができる心!」

「それに引き換え…あいつは、ほんとうに気持ち悪い寄生虫!!」

「村上の優しさに、甘えてる!」

「高校から、別れて本当に正解だよ!みのりちゃん!」

みんなの前で笑顔で答える、かつての友の姿があった。

「えぇーそんなことないよー、別れてなんだか寂しいなーって思うよ!それに私がいなきゃダメかなーって思うの、だって高校生活、出来てなさそうだったしー!」

他の高校生がその話に乗ってきた。

「みのりちゃん、それって中学も面倒見てたのに、高校も面倒見るのー?しかも他校だよー」

「そうしてあげようかっなー!ほらいじめられていたら大変だしねー!先生たちもそこんところ気にしてたみたいだし、先生にこれ以上ー、気を使わせないないようにしないとだめだよー!」

かつて友だった者の彼氏が親友へ悪口を気に留めてなかった。

「みーちゃんがそんなことしなくていいってば!気にしてばっかりだと体壊すよー、最近ほらかなり冷え込んできたしさー、心配なの俺は!」

かつて友だった者の甘い声に嫌気が差す。

「もうー大丈夫ってばー!!」

「甘ーい!」

「あまあまですなーお二人さん!」

「でっ朝峰は?」

「あっ寄生虫?」

学生の視線が私に集まる。

「…っ!!」

そして、このあと…

「あっ!みーつけた!灯花」

化粧と巻き毛。

赤のブレザーにピンクのチェックのスカート、進学校の制服。

かつての親友、村上みのりの姿がそこにあった。

「…………」

言葉が出ず、その場に突っ立ったままでいると、村上みのりから近づいて来た。

「どうしたのー?いじめられた?」

くすくすと笑いながら問いてくる、村上みのりに怒りがこみ上げてくる。

着物の裾を握りしめる私がいた。

「灯花って、いつも私の後ろについて来ては、隠れてばかりいたよね?また、隠れていいのよ?私が守ってあげるから~」

「…………」

中学の時、確かに私は男子にからかわれるのが怖くて、村上みのりの後ろをついて行っては隠れていた。

「可哀そうな、灯花。高校生になっても、友達がいないなんて本当に可哀そう。そうだなぁ~灯花がよかったら、また親友になってあげる。だって、学校の先生や灯花のお父さんお母さんが心配するでしょう?そうしたほうがいいと思わない?ほら、みんなだって~ねぇ?」

村上みのりの呼びかけに皆は賛同する。

「そうだよ、朝峰」

「そうしたほうがいいよ、朝峰さん」

「せっかく、みのりちゃんが言っているからさー!」

その言葉の裏腹にくすくすと笑い声が聴こえた。

「…………」

「ねぇ~灯花、ちゃんとお金払った?」

「…っ!」

私は、反射的に村上みのりに手を上げそうになった。

寸での所で、理性が止めた。

頬を叩くだけなのに、簡単なことができなかった。

悔しくて、息が苦しかった。

「なにそれ!みのりを叩くの?やって見なさいよ!暴力女!」

みんなが見てるから!

村上みのりには、味方がいる。

私に味方がいない。

その差は、圧倒的で敗北の印。

「もう脅しだったの~やだあぁ~うざぁ~!みんな今の見たぁ?灯花ってほんとうざい!」

たった一人の私には、何もできなかった。

私への笑い声と批判の声が上がった。

上げていた手に力が入らなくなって、だらりと落とし、逃げ出したい衝動にかられた。

悔しい、悔しい、弱い自分が悔しい!

こんな人に負けるなんて!

でも、そんなことを強く思っていても、その差は埋まらないし、相手の思いのままだ。

灯花は、どうしょうもできなくなり、うずくまるように下を向いた。

逃げようにも、カバンが無いと帰れない…

とっさに思ったことだった。

カバンは、あのテーブルの座席にある。

だけど、あの座席には他校の学生が座っていて、取り返せない。

無論あの学生は、村上みのりの知り合いだ。

そう簡単には、返してはくれないだろう。

じわりと目頭に淡い雫が湧いて来た。

私は、逃げ出したい一心で、一歩ずつテーブルへと近づいた。

デジャブを抱えながら、涙をこぼしながら、敗北を感じながら、孤独を刻みながら、歩いた。

すると、カシャンと何かを落とした。

「……?」

進んでいた足を止め、足元を見ると黒の扇子があった。

「…あっ」

扇子を拾うと思い出した。

そうだ、私…

天狼さん!

私は、着物の裾で涙を拭いた。

「私、こんなことしてる場合じゃなかった!行かないと!」

そんな私の様子に村上みのりは、訝しげに言った。

「何を言ってるの?ほら、カバンあるでしょう?それ取って帰ったら?」

カバンを取らせようとする村上みのり、その行動の先を期待する周りの学生。

私は、息をゆっくりと吸って、吐いた。

一呼吸してから、村上みのりに振り返った。

「村上みのりさん、中学の時、私はあなたにすごく迷惑かけました。ごめんなさい」

頭を下げて、謝罪をした。

これは本当のことだから、謝罪をする。

「えっちょっと…」

急に戸惑る村上みのりがいた。

「だけど、もう迷惑かけません。好きなだけ、私の事を愚痴ったり、笑いの種にしてください。今までお世話になりました。さようなら」

「ちょっと待ってよ!」

慌てる村上みのりの制しを振り切り、真っ直ぐ店の出口へと向かった。

みんなの視線を感じたが、もう…どうでもいいのだ。

お店の自動ドアが開く。

私の歩みは、止まることはなかった。


 店から出ると、いつもの街並みに夕陽が射す路上へと出た。

店の前には、オタ面さんが居た。

「あっ!」

慌てて、近づき謝罪をした。

「すみません!遅れました!」

「…………」

オタ面さんは、何も言わずに私の頭を撫でた。

ちょっとだけ、照れてしまった。

オタ面さんには、私が泣いていたことをきっとすでにバレていると思う。

何も言わずに、そうしてくれていることが何より証拠だった。

なんだか、くすぐったくて、少しだけ笑った。

オタ面さんは、頭から手を離すとまたスタスタと歩いた。

「では、参るでござるよ~」

「はい!」

オタ面さんのあとを追いかけると…。

「お主の学校は、どこでござるか?」

「学校?天狼さんは、学校にいるのですか?」

「何となくでござる~」

「何となくって…でも、わかりました。行きましょう!学校へ案内します!」

今度は、私がオタ面さんを追い越して、先導した。

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