鬼の下は、アニオタ。
私は、天狼さんに手当を受けていた。
私に怪我を負わせたオタ面さんは、頭に大きなたんこぶをつけながら、シクシクやっていた。
天狼さんの容赦なしのげんこつに、泣くほど痛かったのだろうな。
「これで…よし。また、傷を残してしまったな…」
天狼さんの労わるまなざしに、どきりとした。
「だっ大丈夫です!怪我なんて、もうとっくにあっちこっちにできてますから!慣れっこです!」
「しかし、この傷は身内がやったことだ。いくら、務めと言えほど…」
「本当に大丈夫です。それより、あの鬼の事を言っていましたよね?あれはいったい?蟲ではないですよね?」
何とか、話をそらして天狼さんの気をそらした。
優しい天狼さんのことだ、ずっと気にするだろうし。
「あれは、硯鬼と言う鬼だ。聞いた通り、封じたはずの鬼が出て来たのは、小鬼たちが封を解いてしまったからであろうな」
「小鬼って…存在していたんですね」
地獄蟲の他にも、きちんと存在はしていた。
「妖怪や物の怪は、確かに存在はしている。だが、現世ではなく幽世で棲んでいることが多い。昔は、現世でも姿を見ることがあったが、今は人へと化けなければ、生きては行けなくなったな…」
「人狼も?」
「そうだ」
天狼さん達は、オオカミから人の姿へと変えて、人の世を生き抜いていた。
「……でも、天狼さんは現世でもその姿ですよね?ほら、耳出しているし…」
ぴょこぴょこと獣耳と尻尾を出していた。
国光さんや真夜は、きちんと人の姿になっていたのに、天狼さんはちょっと半端だ。
「私は、力を出すとすぐにこの姿になってしまうんだ…恥ずかしながらな…」
「漏れちゃうでごるよ~ぐっふふ!」
「お前は、少し黙っておれ」
口を挟んだオタ面さんも、黒の獣耳と尻尾を出していた。
真夜も言っていた。
人の姿をしていても、瞳の色は隠せない。
上手く人の姿になれる人狼は、日本人らしい黒の瞳になれると。
だとしたら、人の姿にも個体差があるのだろう。
「さて、そろそろ行かねばな。私が出向いた方がいいだろう、蔵の様子も把握しておきたい」
天狼さんは、その場を立ち上がった。
「蔵に行くんですか?」
「ああ、お前はここに居てくれ。事が済み次第すぐに迎えに行く」
「はい、わかりました…」
ついて行ったって、迷惑になるだろうし…
「陽炎、刀はあるか?一戦交えるかもしれん」
「でしたらこれを」
天狼さんはオタ面さんから刀を受け取った。
「…………」
天狼さんは、何か訝しげに鞘から刀身を出した。
刀身は、プラスチックのような刀身で七色に光った。
「…………」
天狼さんは、無言のまま、七色に光る刀を両手で折り、ほた投げた。
「戦国乙女戦士みさかちゃん専用、愛明刀を!」
あれって、ネットで一万円(中古)ぐらいしてなかったっけ?
「…刀を」
「あっはい…」
オタ面さんは、戸棚から埃まみれの刀を取り出した。
「…………」
天狼さんは、その刀を受け取って刀身を出した。
埃をかぶっていたくせに、鉄の刀身には、刃こぼれや錆一つしていなかった。
そして、刀をよく知らない私にも、その刀が寒気がする嫌なオーラを漂っているのを感じた。
口に出さなくても、本物の刀だとわかった。
「悪くない刀だが、妖刀に近いな…」
「鴉刃、鴉の如し刀身を黒く染め上げ、肉を突き上げるのが好きな刀でござる。妖刀として感じるのは、よく暗器として使われているからでござる」
「使ったことは?」
「拙者、ただ預かっただけでござるよ。天狼坊ちゃんには、些か扱いづらいかもしれんが、鬼を斬るには問題なかろう……たぶんで、ござるが…」
「まあ、よい。先に言っておくが、折れたらすまん」
天狼さんは、出していた刀身を鞘に納めて、腰に差した。
「では、行ってくる。陽炎は、娘を頼む」
「了解でござる!」
オタ面さんは、ビシッと敬礼をして天狼さんを送り出した。
妙に、返事だけ元気なのは気のせい?
「ああそうだ、これだけは言っておく、その娘に指一つ触れるなよ」
「チッ」
する気満々だったのか!
天狼さんはそう言い残して行ってしまった。
オタ面さんと一緒の空間は大丈夫だろうか?
天狼さんがいない今、だんだんと不安になってきた。
何せ、黒い糸で巻きつけられた挙句に、首を落とされそうになったんだし…
「…………」
じっと縮こまっていると声をかけられた。
「茶でも飲むか?」
「…………」
「そう警戒するな。あのお方の指示だ、もう何もしない」
いつもの語尾が抜けて、真剣な口調だった。
何だろうこの人…
オタクのような口調になったり、急に真面目な口調になったりしている。
お茶が入った湯飲みを渡され、それを受け取ることとなった。
自分の手がどれだけ、冷えていたか気づき、指をほぐすように湯飲みを握った。
「本当に、この地に足を運ぶ者がいたとはな…娘、名は何と言う?」
「えっ?あっ朝峰灯花です」
「…とうかというのは、灯の火か?」
「灯の花です」
「それで、灯花か。良い名だな、なら……」
オタ面さんは、再び戸棚を探り出した。
美少女フィギアが並ぶ棚の奥から、20cmぐらいの細長い小箱を取り出した。
埃が積もっていたが、中を開けると紫の絹で巻かれた物があった。
「これも、何かの縁。この陽炎、傷をつけた詫びとして、これをお主にやろう。その真名に似合う品だ、護身刀になる」
オタ面さんが紫の絹から取り出したのは、真っ黒な扇子だった。
「これを肌に放さず持つといい…」
「はぁ…ありがとうございます…」
天狼さんに渡した刀といい、扇子から何とも言えないオーラを感じつつ、それを受け取った。
「…っ!」
おもっ!
扇子は、妙に重かった。
竹や木で出来ているはずだけど、鉛のような重さが伝わってきた。
黒塗りされている骨は、よく磨かれていて花の模様が彫り込められていた。
要から流れる、紅い緒が結んでいた。
いざ、扇子を開こうとすると…
「あれ…なにこれ…開かない」
力を入れても、扇子が開かなかった。
のりでもくっつけているの?
「火種にするものがなければ、火は起こせぬ。風がなければ、火は立てぬ」
「えっと…どういう意味ですか?」
「お前の名だ。灯花、灯せよ火を、さすれば燃える」
「全然わからないです。からかっているんですか?」
「う~ん、持ってても損はないでござるよ。いずれ分かる時が来るぞよ~」
ござるぞよ~じゃないと思うぞよ!
扇子が開かないだけど!
とにかく、オタ面さんの言う通り持っててよう。
護身用として、何か役に立つのかわからないけど…
灯花は、着物の帯の中にしまった。




