表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
81/310

黒鬼の手。

 鬼の面の男が去ったあと、灯花はその場で呆然としていた。

一体何だったのだろう…

鬼の人は、私を殺そうとしていた。

しかし、そうしなかった。

見逃す。

鬼の人は、そう言っていた。

なら…

「出口ぐらい教えてよぉ」

こんな状態で一人放置されて、どうしろと?

手足に鈍い痛みが走った。

先ほど、黒い糸で強く縛られていたため、肌を切ったようだ。

「なんでこんな目に…」

泣けてきた。

もちろん、こんな所で泣いていても誰も助けにはこないのはわかっている。

幽世に迷い込んだのなら、立ち止りは危険だろう。

鬼の人の気が変わって再び殺しにくるかもしれないし、その場から早く立ち去った方がいい。

辛くても、立ち上がらなければいけない。

ふらつきながら、立ち上がると足首に痛みが走った。

「なんの…これしき…蟲に喰われるより全然マシ!」

そう踏ん張った時、すぐ近くで透き通った声が聞こえた。

「灯花は、強いな…」

支えるように腕を回されていた。

腕の主は、申し訳なさそうに目を細めていた。

「天狼さん…」

月光の下で、銀色の長い髪をなびかせる天狼さんはいつ見てもきれいだった。

「だけど、怪我人は別だ」

「えっ?…あっひゃあ!」

私は、ひょいっと片腕で抱き上げられていた。

抱き上げられると自然と天狼さんの肩に腕を回していた。

「ここでは、手当ができん。もう少しの辛抱だ」

天狼さんは、そう言うと石畳みの道を歩き出した。

抱き上げられるのは、初めてはないがやはり気恥ずかしい。

慣れるものではないのだろう…これは。

それに、心の中の冷たい氷が、じんわりと解けるのを感じていた。

言葉に表せない気持ちが溢れ、天狼さんの黒の着物に罪悪感が残るしわができた。

天狼さんは、ぽつりとつぶやいた。

「無事でよかった」

私は、心の中で返事をした。

この静かな月の下で、天狼さんに寄り添うと自然と声が出なかったからだ。

心配かけちゃったな…

そう思った時、ふと天狼さんの雰囲気がどこか怒っているような感じがした。

むしろ不機嫌に近い。

「えっとぉ、天狼さん?」

だんだんと怖くなって、ようやく声が出せた。

天狼さんは真剣な表情で、石灯篭が並ぶ山道を歩いていた。

「全く、してやられたな…。灯花、ここは鬼門きもんだ」

「鬼門?」

「簡単に言うと鬼の道だ。うしとらとも言う」

「鬼?うしとら?」

「この道はあまりいい道ではないという事だ。鬼に会っただろう?」

あの鬼の面をした人のこと?

灯花は静かに頷いた。

「あれは鬼門の番人だ。一言、文句付けたい所だがな…」

天狼さんは、ふと私を見ては紫色の瞳を覗かせた。

「本来ならば、迷う込む事は無いはずなのだがな。お前がここを通れるという事は、何かあるのかもしれん、用心した方がよい」

天狼さんにそう言われて、私って運が悪いなーと思った。

「……マジですか?」

「まじだな」

ちょっと似合わない天狼さんの言葉に驚きつつ、肩を落とした。


 これまでの経緯を天狼さんに話すと、天狼さんは眉をひそめた。

「なるほど、いきなりか…」

いつまでたっても、厠から戻ってこない私に天狼さんは探したそうだ。

天狼さんから見たら神隠しにあったように、私は消えただろうな…

「まずは、ここから出なければな…怪我のこともある。灯花、それまで頑張れるか?」

「あっはい…」

天狼さんがいてくれるなら、私はいつでも頑張れるのだけど。

ここは、天狼さんに甘えていよう…

この鬼門のことは、天狼さんが詳しいことだし、任せておこう。

でも…

ふと思ったことを天狼さんに聞いた。

「でも、どうして私は、迷い込んだのですか?ここって、幽世ですよね?どうして、お屋敷に幽世があるんですか?」

天狼さんは、一度立ち止ったが、また歩き出した。

何かまずいことでも、聞いたのかな?

「…あの、天狼さん?」

「幽世は、どこにでも開く。それに、確かにここは幽世だが、鬼門でもある。作り出す世界は、意味を持てば、変化する」

「えっと…?」

「ここの幽世は、意味があって開いている。意味があって鬼門としているんだ」

「それって、故意的に作った幽世ってことですか?」

「そうだ」

何の為にと思っていると天狼さんはすぐに答えてくれた。

「この先に、禁忌きんきの箱がある。要は、蔵だ」

「蔵って、お宝とか置いているんですか?」

「ただの宝なら良いが、生憎、いい物ではない。それこそ、不吉な物だ」

番人がいるほどだ、よほど悪い物に違いない。

「だからこそ、鬼門と称してこの地に幽世を開いた」

「そうなんですね…」

これって、本当に聞いて良かったのだろうか?

なかなか、ヤバそうなんだけど…

「…灯花、最初の問いだが…そもそもお前が迷い込んだのは…」

天狼さんがその先を言う前に、月の影から何かの気配を感じた。

何も無い影から、黒い煙が立ち上った。

「灯花、すまないがしっかり掴まってくれるか?あと、舌を噛まぬよう口は開かぬようにな」

天狼さんは、私を抱き直すと強く引き寄せた。

私も言われた通りに天狼さんにしがみついた。

嫌な予感がした。


 冷たい風が吹きあがり、私達を包んだ。

森のざわめきに混じって、枯れた老人の声が聞こえて来た。

「…チ、チ、チ、ノ、ニオイ」

聴きたくない声に抱えている灯花が震え出した。

「チノニオイガスル、チ、チガ、チガノビタイ…」

声の主は、月の影から現れた。

私達の前に巨大な黒い手が伸びた。

人一人握り潰せそうな大きな手で、墨のような黒い肌に鋭い紅い爪が伸びていた。

まるで、鬼の手だ。

硯鬼けんきか…何故、ここに?」

天狼は、目を細めた。

「封印が解けたのか?解けるはずはないのだがな…」

硯鬼けんきは溜め血に棲む鬼だ。

封じる時、枯らして封じる。

さぞ、渇いているだろうな…

「チガノビタイィイイー!」

紅い爪を立てて、こちらへと向かって来た。

天狼は、それを横に跳んでかわした。

硯鬼の紅い爪は、石畳に突き刺さり、身動き取れずにいた。

天狼はその隙に、硯鬼をすり抜け、先へと進んだ。

ここで、やりあうのは得策ではない。

今の所、硯鬼は右手しか出て来れてない…だとすると、封じはまだ続いている。

半端な開封。

封じの元へと行けば、原因がわかるのかもしれんな…

硯鬼は、指を動かし埋もれていた紅い爪を取り出し、影の池を泳ぐように天狼達を追いかけて来た。

それを見ていた灯花は、渋い顔した。

天狼は、上へと続く階段を見つけると何段も飛ばして駆け上がった。

灯花は、天狼の身のこなしに、振り落とされないように必死にしがみついていた。

 

 天狼さんは、上にあがると鳥居をくぐった。

鳥居をくぐると、そこはやしろがあった。

だが、そこは何も祀られておらず、封じの札と錆びついた鎖が張り巡らされていた蔵があった。

重々しく佇む蔵は、陰気な雰囲気が漂っていた。

天狼は、蔵を一瞥してから、横へと通り過ぎた。

蔵のすぐ近くにお屋敷がそこにあった。

天狼は土汚れた足袋のまま、お屋敷の中に入り、古くなった床を鳴らせた。

「灯花、ここならば安全だ。傷は痛むか?」

天狼は、灯花の様子を伺った。

「へっあっ大丈夫です。それにしても、ここはどこですか?あのおっきな鬼の手は?」

「ここは、監視宿かんしやどだ。鬼は、この屋敷の中までは入って来れまい。結界を張っているからな。それよりも、休めるところに案内しょう」

お屋敷の中へと突き進むと、明かりがついている部屋を見つけた。

部屋からテレビの騒がしい音が漏れて来ていていた。

天狼は、静かに足を上げて、襖を蹴り倒した。

その行動に、灯花も中にいた人も驚いた。

「な、な、なっ何事でござるー!」

鬼の面をした男が、テレビを見ていたのだろう、そのまま腰を抜かしていた。

冷たくそして鋭く、鬼門の番人に言い放った。

「何事ではなかろう、己の務めを忘れたか。陽炎かげろう

怒る時でさえ冷静さを失わない天狼さんだった。

天狼は、その部屋に灯花をゆっくり降ろし、座布団の上に座らせた。

「なーんのことでござるか?拙者は、九時五時の勤務であるぞお!当に過ぎてぐっへぇえ!」

天狼さんは、問答無用に鬼門の番人を踏みつけた。

「五時九時の間違いだ…硯鬼の封はお前が解いたのか?」

「硯鬼?あっ!」

鬼門の番人は、しまったというような声を出した。

「何か知っておるようだな、この件はお前の差し金か?随分なことをしたな、なあ陽炎?」

陽炎は、慌てて弁解した。

「違うでござる~!何かの手違いでござんすよ~!天狼坊ちゃん勘弁してくださいよ~!」

「白々しい」

「ぐっはあ!」

暴れたせいか、パタンと鬼の仮面が取れた。

すると、天狼さん似の顔が現れた。

違うとしたら、黒髪と顔に花模様のあざ、瞳の色が緋色だったこと。

しばらく、ポカンとその人を見つめていたら、目が合ってしまった。

「おやおや、先ほどの拘束プレイのJKではないか!まだ、帰ってはいなかったのか!見逃してやったものを…」

「…………」

天狼さんの前で何を言っているんだ。

「天狼さん、すいませんが…この人、ちょっと殴ってください」

「あいわかった」

天狼さんは、二つ返事で了解し、指を鳴らしながら大変無礼な人に近づいた。

「ちょっとちょっとちょおおっと!待って待っててええー!ぶっほぉっ!」

清々しいほどの、天狼さんの殴りぷりに感心した。

私が受けた心の傷に比べたら、この程度の暴力は安いものだろう。

「ぐっふふっこの頬のスティグマが疼くでござるな~ふっふふ」

ご褒美のほうだったか…

天狼さんの人の姿に似ていて、天狼さんがデレデレになっているかのように見える。

酔っ払い?

「それで、どうなんだ?」

天狼さんが問うが…

「天狼坊ちゃん、セーラー服って興味ない?昔、水兵が着ていた軍服なんだけど…」

話聞いてねえぇー!

痺れを切らした天狼さんは、陽炎の胸倉を掴んで言った。

「お前の後生大事にしている雛人形を壊されたくなかったら、白状しろ」

天狼さんのこの上ない睨み方に、陽炎は降参した。

「吐く吐く!わかったでござるからあ!それだけは後生でござる~!」

涙目で懇願する陽炎さんだった。

灯花は部屋を見渡した。

雛人形らしきものは、確かに置いてあった。

だが、本来飾るべき雛人形は、セーラー服が似合う月の女戦士たちでいっぱいだった。

あの段って、ひな壇のをそのまま使っているよね…

その他にも、いろいろとポスターやらなんやらとある。

あっあのポスター、円盤を予約しないと手に入らないやつだ…

予約特典の物もしっかりとある。

「わかったでござるから、はなしてくれたまへ!」

風を斬るような放し方だった。

「ぶぇごお!」

「…………」

天狼さんがいつもの笑顔の圧力をかけて来た。

早く言えとオーラで言っていた。

陽炎は、取れた鬼のお面を顔に付けながら、さっきと違う口調で答えた。

「……私は、硯鬼を解いた覚えはない。だが、心当たりはある」

「ほう、して?」

ぬしの小鬼たちが、この土地に遊びに来ている。その子らが、いたずらで解いたのだろうな。遊べと言って来たものだから、面倒だったから適当に放り込んだのだ」

「…して、どこに?」

「蔵の中に」

あれ、蔵って不吉な物を置いているんじゃなかったっけ?

「もしかしたら、中で封を解いたのかもしれんな」

「…………」

「…………」

この沈黙で、このあとの展開がわかった。

天狼さんに似て、イケメンなのに、とてもとても残念な人だ。

次からは、オタ面と呼ぼうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ