鬼面の人狼。
鬼の面をした男は、背にある刀に手にしながら、こちらへと向かっていた。
灯花は、黒い糸で拘束されているため、身動きが取れなかった。
少しでも動くと、鋭い糸が肉を食い込んで、痛みで身体がしびれた。
そんな無抵抗のまま、男と対面することなった。
鬼の面をした男から、背筋が凍るほどの鋭い視線を感じた。
威圧と言うべきだろうか?
肺が圧迫するほどの空気の重さに、意識して息をするのが精一杯だった。
男は、ゆっくりと鈴の音ともに刀から刀身を抜き出した。
いよいよ、死ぬ時が来た。
死神。
きっと、こういう人のことを言うのだろう。
鬼の刃が高く上がった時、私はとっさに目をつぶった。
死にたくない。
愉快な曲メロと共に、死を想った時だった。
耳を疑いたくなる言葉が飛び込んできた。
「はい、もしもしでござる~」
その着メロが、アニメの着メロだったとしても、私はきちんと死を覚悟した。
「司氏、お主も悪よの~」
鬼の面をした男が、秋葉に居そうなオタクだったとしても…
「して、対価の方は…、なに!魔女っ娘マジカルのフィギアが手に入らなかっただと!お主、裁判の用意は出来ているだろうなあ!えっJK?拘束プレイ、ナウござる!」
前言撤回。
こんな所で思いたくなかった!
つか、鬼の人!オタクだったの!
まさかの同類に、私は目を見開いた。
こんな所で死ぬなんざ、馬鹿らしくなってきた。
「……っ!」
あとちょっと首を動かしていたら、首は斬れていた。
鬼の刃は、きちんと首を捉えていた。
オタクのくせに、やることはしっかりとやっていた。
鬼の面をした男は、片手で携帯を持って、誰かと電話をしていた。
「司氏~、天誅でござるぞ!」
一体、誰と電話しているの?
てか、幽世って電話繋がるんだ…
「だがしかし!生JKの匂い、甘美でござる。次は、セーラー服と機関銃のコスをご所望いたす!ぐっふふ、想像しただけで、古の生傷が疼いて、拙者、血がたぎるでござる~!」
震える刀に、首に刃が当たりそうだ。
さっきまでの威厳はどうした!
「ふむふむ……ならばわかった。お主の言う通りにしょう」
声音が変わった?
鬼の面をした男は、そう言って電話を切った。
「…………」
私は、そのまま様子を伺っていた。
面をしていて表情はわからないけど、さっきよりだいぶこの人のこと怖くなくなった。
じいっと睨んで、その場を耐えていた。
「JKよ、見逃してやる」
「えっ?」
首に構えていた刃が離れ、手首と足に絡み付いていた黒い糸がするりと解かれた。
「アニメの時間だ。さらば」
鬼の面をした男は、刀身を鞘に納めると鈴の音を鳴らした。
蜘蛛の巣のように張り巡らされていた黒い糸が一瞬で切れた。
男は、踵を返して影の中に潜り、闇へと帰って行った。
私は、呆然としていた。
一体何だったの?
さっきまで強烈な出来事だったために、静けさが戻り肌寒く感じた。
手首と足に黒い糸による切り傷が残っていて、鈍い痛みだけが残った。
「何なのよ…」
ぽつりと言った言葉は、かすれた声だった。




