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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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追試に向けて。

 廊下を進んで行くに連れて、足の指先が感覚が無いことに気づく。

灯花は、腕を組んで寒さをこすった。

日差しが入っていない場所は、温度差が激しい。

さむ!

月子さんかゆず子さんに会いたかったけれど、部屋に戻ったほうがいいのかも…

部屋で誰か来る待っているか、天狼さんが起きるまでいた方が、寒い中広いお屋敷を彷徨うより、効率が良かったかもしれない。

そう思い、来た道を戻ろうとした時。

ふと、見知った人を見かけた。

あれって、国光さん?

黒髪の短髪にきっちりとした黒のスーツ姿。

後ろ姿だけでも、真面目なオーラーを出しているからすぐにわかった。

私は、国光さんに声をかけた。

「あっあの!国光さん!」

国光さんは少し遠い所にいたけれど、声はきちんと届いたようだ。

国光さんは、私を見るや早足でこちらへと向かって来た。

天狼さんと同じ瞳の色が、少し怒っているような気がした。

赤縁眼鏡に右目の下のほくろがある特徴の国光さんなのだが、怒っているなら別人であって欲しかった。

「あなた、その格好で何をしていたのですか!」

「えっとぉ…」

「はっきり言って、はしたない!」

ぐっほお!

国光さんに言葉のパンチを食らった。

確かに、寝間着恰好でうろうろしていたら、はしたないよね…

「す、すみませんでした…」

「はあ、まあいいでしょう。私も、あなたに用があって丁度良かったです」

そうですか…

「まずは、先日の件です。ご無事で何よりでした」

「えっと…廃ビルのことですか?」

「ええそうです。ご友人ともご生還されたようで何よりです」

あの廃ビルで私と川村君と真夜は一緒に彷徨った仲だ。

「えっと、川村君と真夜はどうなったのですか?」

廃ビルを出たあと二人ともそれっきりだ。

「川村様は、腕と脚に傷を受けていますが、軽傷で済んでいます。今はご実家にて帰しています。紫苑時しおんじ家のご息女、真夜様は、肩に蟲が寄生していましたし、重症でした。とても荒い方に手術してもらいましたので、命の別状はないです。ここより別のお屋敷にて療養中です」

荒い手術と聞いて、あの髭のおじさんのことを思い出す。

路上で芋蟲を取り除いたことで、真夜は助かったものの色々と問題ありそうだ。

ともあれ、二人とも本当に無事でよかった。

私は、白い息を吐きながら、安堵をした。

「良かったです…本当に…」

するするとその場に座ってしまった。

座るつもりはなかったのだけど、急に足に力が入らなくなった。

国光さんは、そんな私に上着を貸してくれた。

「ここで長話をすることではありませんでしたね。ここは、日が当たりにくい場所ですので、冷え込みやすいんです。さあ、部屋へと案内致します。立てますか?」

私は、差し出された手を取って、ゆっくりと立ち上がった。

「すみません」

「いいえ、ご配慮が足りなかった私が悪かったのです。それにしても、お顔によだれが付いている状態で、よく外を歩けますね」

「うお!」

ぺたぺたと顔を触って確かめた。

ずっと顔を洗ってないから、きっと汚い。

急に恥ずかしくなった。

「すみません!見ないでください!」

ああー!めっちゃ恥ずかしい!

「既に遅いと思われますが?」

「ほんと、すみません!」

「それくらい、うろつける元気があるなら、大丈夫そうですね。ちなみに、あなたが一番重症だったんですけどね」

「えっ?」

その言葉を聞いてその場で固まった。

蟲にかじられただけなんですけど?

「心肺停止しました」

「…………へっ?私、一回死にました?」

「生き返って良かったですね」

「えええー!」

一体、いつ死んだ?

「とにかく、様子見でこちらへと運ばせてもらいました。いつまでも、病院にいるわけにはいけませんし、幽世に関わるほど事態は深刻になるばかりですから…」

「幽世?」

「病院にて、幽世が発生しました。あなたは、その幽世に迷い込んだのですよ。もちろん、医療で治せるわけではありません」

「うそ…病院に幽世が出来るなんて…」

持っていた体温が、一気に冷めた。

「あなたが、ご存知ではないのは仕方ないでしょう。なぜなら、影響ひがいを受けた本人なのだから。それに、幽世はどこにでも現れますよ。あそこは、生と死の境です」

「…………それじゃあ、天狼さんは…」

「あの方は、無茶がお好きな方ですし、気にする必要はありません。まあ、あなたの部屋で休まれているのは、いささか仕方ないお人ですね、いえ、お人ではなく、オオカミと言うべきですね」

天狼さんは、疲れていた様子だった。

もしかして、病院で起きた幽世をどうにかしていた?

国光さんの言う通り、無茶が好きなオオカミだ。

「まあ、とにかく参りましょう。ああそうそう、あなたの制服の件なのですが、至る所に綻びがございましたので、また新しくご用意いたしますね」

「すみません、なにからなにまで色々してくだってありがとうございます!」

「はい、どういたしまして」

新しく制服を用意してくれることで、ほっとした。

あとは、追試のことだけだ。

「あ~の~」

「どうしましたか?」

「図々しいお願いと思いますが…私、明日追試があるんです…」

「…………」

うわっ!そんな冷たい目を見ないで!

そうです!私は、生粋のバカです!

「なるほど、いいでしょう。制服の件は、明日の朝には届くようにしましょう。そして、お勉強の為の教科書もすぐにご用意致します。他のご入りの物はありますか?聞くところ、幽世にてお荷物を失くされたご様子ですし、ご遠慮はいりませんよ」

「本当に助かります!ありがとうございます!」

ぺこぺこと頭を下げた。

国光さんがいてくれて、本当に助かった。

地獄蟲のせいで、カバンごと失くした時には、心底泣きたくなったほどだ。

もう二度と失くしたくないな…

それには、もう幽世に迷い込みたくない。

そう思いながら、国光さんに必要な物を言った。


 国光さんに案内されて行くと月子さんに会うことが出来た。

月子さんに会うと、ひとまず、お風呂に入らせてもらった。

お風呂は、豪華な大浴場だった。

本当に旅館に泊まったような感覚だった。

お風呂のお湯は、地獄蟲によってかじられた傷に良く効く薬湯を使っているらしい。

傷はかなりしみたけど、じんわりと和らいで気持ちよかった。

お風呂を出た後、温かな食事を頂いた。

そして、私の今の格好は、柿色の着物を着ていた。

和室の部屋で、月子さんに着物を着させてもらっていた。

「すみません、月子さん。前の着物、まだ返せてないのに…」

「いいのよ、私のお古だったし、灯花ちゃんにあげる。それに若い子が着た方が、栄えるわ」

本当に月子さんにはお世話になりっぱなしだ。

「本当にありがとうございます」

きちんと正座をして、頭を下げた。

「そんな、かしこまらないで。困った時はお互い様よ」

「月子さーん」

私は、月子さんに抱き着いた。

「あらあら」

私の第二のお母さんだ。

「ところで、天狼様とはどうなったの?灯花ちゃん」

「えっ?」

言っている意味がわからなかった。

「一緒のお布団で過ごした仲でしょう。やだ、この子ったら!花嫁衣装は任せてね!」

「ふぇ!」

私と天狼さんの仲があられもない関係になってる!

「あの!月子さん、わた、私!天狼さんとは…」

友達関係です!

そう言うつもりだったが、突然の来訪者のよって折られた。

元プロレスラー千鶴さんが現れた。

深紅の着物を着ていて、相変わらず着物の上からでも体つきがいい人だった。

「あんた、いつうちに来るの」

千鶴さんもですか!

「うちは、人でが足らないんだ。来るなら早く来い」

「いや、あ、あの!私!」

「今、年末の準備してるから、早いとこ、こっちに来てくれないと困るんだよ」

人の話聞いてくれない!

どんだけ、人で不足なんだここは!

二人とも乗り気で、口を挟みにくかった。

「そこまでにしてやってくれ」

透き通った声が響いた。

部屋の襖から現れたのは、上下黒の袴姿の天狼さんだった。

腰まである長い銀色の髪に人ではない証である獣耳と尻尾があった。

「灯花は、まだ学生だ。学びの時間を大事にしてやってくれまいか」

勘弁してやってくれとはにかむように言った。

「天狼様がそこまでおっしゃるなら、そのように致しますわ。ですが、気が変われたならすぐにでも、花嫁修業を始めますわ」

月子さんがそう言うと千鶴さんは頷きながら言った。

「いつでも、言ってください。こちらは、絞る準備は出来ていますので」

血の気が引きそうな言葉だった。

私は、何を絞られるのだろう…

月子さんと千鶴さんは、そう言い残してそのまま部屋を後にした。

その間、天狼さんはにっこり微笑んだままだった。

何か思う所があるのだろうか?

二人の足音が聴こえなくなった後、天狼さんはため息をついた。

「こうも、気が早いとはな…すまんな、灯花」

いきなり振られて、肩が跳ね上がった。

「ふぇ!」

「なに、いつものことだ。若い娘を連れて来ると奥方がすぐに勘違いをするんだ」

「…………」

それって、私の他に連れて来た子がいるってこと?

じっと怪しむように天狼さんを見た。

「お前も勘違いをするな、ここに来るものは何かと事情がある者しかおるまい。それこそ、地獄蟲によって家族を亡くした者や人ではない者ばかりだと言うのに、これでわかっただろう?」

私ったら、すぐに勘違いを…

「すみません…私みたいに連れて来た子が他にいるんじゃないかと思って…」

天狼さんを勘ぐるようなことを考えて、私って性格悪いな…

天狼さんは、そんな私に手を伸ばしてきた。

「お前しかおるまいよ」

優しく微笑みながら、私の頭をそっと撫でた。

「……天狼さん」

天狼さんの手のひらが温かく感じて、自然とほころんだ。

「天狼さんは、もう大丈夫なんですか?」

「うん?ああ、すまんな、お前の部屋で休んでしまって、面目ない」

本当に申し訳なさそうに言って来たので、内心、ちょっと可笑しかった。

ちょっと可愛いなと思った。

「いいですよ、休めって言ったのは私だし、むしろしっかり休んでもらわないと駄目です」

天狼さんは本当に無茶好きなオオカミだとわかりましたよ。

「ところで、灯花」

「はい?」

天狼さんの手元に教科書と何枚かのプリントが用意されていた。

「明日、追試だろう?その代わりなんだ、少しでも勉強を見てやろうと思ってな。色々あって、気が落ち着かんのはわかる。だが、ほんの少しでも力になりたくてな。嫌か?」

「まさか!すごく助かります!」

これを断る人なんているだろうか?

うちのクラスメイトだったら、発狂ものだ。

贅沢者ぜいたくものだな、私は…

「なら、よかった。灯花、早速取り掛かろう」

そうして、私と天狼さんは座布団に座って勉強を始めた。

しばらくして、部屋に国光さんが来て、私が失くした教科書類を届けてくれた。

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