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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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二匹の人狼。

 灯花は、部屋を出ると長い廊下が続いていた。

一度歩くと、床のきしむ音が廊下に響いた。

廊下の明るさに、目を細めた。

窓から漏れる日の光が眩しく感じた。

この明るさだと、朝は過ぎているだろう。

夕方ではないことに安堵した。

周りを見渡しながら、ここはどこかを思い出していた。

確か、水原の森だっけ?

ここは、山犬たちの住処であり、水神様が住まう場所でもある。

神様の土地に住んでいるんだっけ。

地獄蟲じごくちゅうから、この土地と家族を守るために身を寄せ合って暮らしている。


 広いお屋敷を見渡していると、ある場所に目が入った。

鮮やかな紅葉をしているお庭がそこにあった。

私は、季節外れの紅葉に、違和感を感じつつ廊下を渡った。

以前、私はここを通ったことがある。

その時もこのお庭は、変わらず紅葉していた。

枯れ葉が地面を駆ける音を聴きながら、肌寒さを感じていた。

真冬でのこの恰好は、まずかったな…

寝間着といえ、薄着だ。

月子さんに服のことを聞けばよかった。

後悔しつつ、とことこと歩いて行くと、縁側で寝そべっているオオカミを発見した。

亜麻色と白が混じっている毛並みのオオカミ。

日が当たる場所で、横になっていた。

毛の色といい、私が知っているオオカミではない。

ちょっと近寄りがたい。

普通の大型犬より一回り体格が大きい分、襲われたらひとたまりもない。

一頭、一頭、熊だと思っていい。

私は一度、群れを見たことがある。

その時は、車の中で様子を見ていたが、近くにいるだけで威圧された。

そのうちの一頭が、日向ぼっこしている所を見ると、拍子抜けと言うだろうか?

可愛らしくもあり、ちょっと怖いようでもある。

こういうのは、触らぬ神に祟りなしと言うし、そっとしたほうがいい。

私は、そのまま通り過ぎようとした時。

「くわあ~」

オオカミは、大きくあくびをした。

私は、そのまま固まった。

案の定、そのオオカミと目が合ってしまった。

天狼さんの紫の瞳と違って、こちらは深い緑色だった。

「あれ、嬢ちゃん。もう元気になったのか?」

「…………」

馴れ馴れしい口調に言葉がでなかった。

「うん?」

オオカミは、私の近くに来ては様子を伺って来た。

どうしょう、知らない人だし…

「ああ、そうか!ごめんごめん!この姿で会うのは初めてだね。俺は、正俊まさとし。りんの一件以来だね」

りん。

りんさんの?

「あーれ、思い出せない?何回か会っているんだけどなー?ほら、最初会った時、ゆず子さんに怒られていただろう?」

「…………」

確かにゆず子さんには、怒られたことがある。

だけど、あの時は、泣いていたし、周りを見る暇なんてなかったし…

「…………」

「うそ!俺そんなに影薄い!女子高生に影薄いって言われた!」

「言ってません!」

つい声を出してしまった。

「じゃあ、今覚えてね!嬢ちゃん!」

「…はあ」

「ってことは、あいつも覚えられてないなー!ドンマイ勝馬かつま!」

なんだか、勝ち誇った言葉だった。

「え、えっと、…正俊さん?」

「いいねー!いい響き!」

「…………」

「そんな困った顔しないでくれる!」

どうしょう、この人のテンションについていけない。

「まあまあ、そう緊張しないでーさ!ほーれほーれ、撫でていいからさあ!」

私の目の前で、撫でろと言わんばかりに腹を出した。

私は、おずおずと亜麻色と白の毛並みに触れた。

肌触りは、悪くない。

毛並みは、少し硬いが滑らかで撫でやすい。

指の隙間に毛を入れると柔らかな毛があり、掻いたほうが気持ちいい。

「おほほー!いいねー!」

「なにが、いいんだ?」

「……っ!!」

私達の背後に人が立っていた。

恐る恐る後ろの振り向くと、スーツ姿の男が立っていた。

「なるほど、お前はここでさぼっていたのだな…正俊」

じろりと黒髪の青年が正俊さんを睨んでいた。

勝馬かつまくん、勝馬くん!そんな怖い顔して、女の子の前に出たら駄目だよ!ほら、嬢ちゃんが怖がっているじゃないか!」

「すまんな、俺の顔はいつもこうだ」

黒髪の青年は、がっしりと正俊さんの首の皮を片手で掴み上げた。

あのオオカミを軽々と上げたことに驚いた。

その勝馬という人は正俊さんにご立腹のようだ。

「仕事ほっぽりだして、お、ま、え、は、いい御身分だな」

オオカミ姿の正俊さんは、オオカミの威厳と言うのものが一気に失くして子犬ようだった。

「い、いやーその…ねぇ」

こちらをちらりと見て来たので焦った。

いや、こっちに振らないで!

勝馬と言う人は、見た目は優男だが、スーツの下はしっかりと鍛えられているのだろう。短髪の黒髪がさらりとなびいた時、額に薄く傷跡があった。正俊さんと同じようにじろりと睨まれて、背筋が立った。

灰色の瞳が鋭く私を見ていた。

「あなたは、この馬鹿に付き合う必要はない」

放たれた言葉は、一見きつそうな言葉だが、どこか柔らかく言っているような気がした。

「えっ?」

「それに、むやみに山犬の身体に触れるものではない。気を付けられよ、山犬とて、狼。雌の匂いには、敏感だ。御身には、天狼様のお香があるが、切れれば雄が寄ってくる」

「えっと…」

それってどういう意味?

「大丈夫だって、たかられるだけだから!」

正俊さんは、そう言うけれど…

「断じて否だ。山犬の奥方でなければ、生娘は山犬のえさだ。厳しいことを言うが、この時期の山犬は、ストレスを抱えているし何が起こるか分からん。皆、しつけは心得ているが、それこそ万が一だ」

「…………」

息がつまりそうな、忠告だった。

山犬の状況が少しだけ垣間見た気がした。

「女の子に飢えてるだけだって!JK最高!」

「これでわかっただろう?この馬鹿に近づくなよ、スカートめくりの常習犯だ」

その言葉を聞いて、びしっと答えた。

「わかりました!」

「わからないでー!」

正俊さんの嘆きが廊下の奥まで響いた。

そのまま、正俊さんは勝馬さんに荷物のように担ぎ上げられた。

「やだあぁー!たわら担ぎなんて!女の子が見てるのにー!せめて、お姫様抱っこだろ?」

好きだろ?こういうの☆

正俊さんにウィンクをかまされたので、私は言いました。

「非常に不愉快です。早く連れて行ってください」

「承知」

「ええーー!」

勝馬さんは、正俊さんを連れて行こうとした時。

「りんの件。世話になった」

「えっ?」

勝馬さんは、そう言い残してどこかに行ってしまった。

りんさんことを言っていた。

勝馬さんもりんさんの最後を知っていた人だった。

今思えば、りんさんが残してくれた言葉が、今の私がいる。

また、助けてもらったな…

りんさんは、ちょっとヤンキーぽいものの、根は正直者で山犬であることに誇りを持っていた。

私は、山犬のことはよくは知らない。

生半可に山犬を語ってはいけないし、彼らに深く関われば、それこそ首を斬られる。

私は、首を触れた。

傷は少しづつ癒えて来ているが、あの時の光景は今でもしっかりと焼き付いている。

問答無用の殺意と重くかかる疑念。

天狼と言う言葉に、山犬達は敏感になっていた。

彼らにとって、天狼さんは神様のような存在だということ思い知らされた。

それだと、今私がここにいるのはなぜなのだろう?

目覚めたらここだった。

「天狼さんにきちんと聞けばよかった…」

友達なら、友達らしく、接しするべきだろう。

距離が近いようで、遠く感じる。

この曖昧あいまいな感じが、じれったい。

「はっきりしてほしいな…」

私は、ため息をつきながら、再び廊下を歩き始めた。

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