ホワイトクリスマス。(その24)
天狼は、廊下に出ると名を呼ばれた。
「天狼様!」
振り返ると黒スーツの姿の男がこちらに向かって来ていた。
「国光か」
「あなたは、また無茶ばかりを!」
「説教はあとだ、美鈴を診てくれないか?」
国光は、立ち止って一呼吸置いてから返答をした。
「……美鈴が、負傷を?」
「ああ、そうだ」
「……わかりました。ですが、灯花様のご容態が…」
「わかっている。早い所、捕まえなければな…あのおてんば娘」
かれこれ、二度も逃げられている。
「国光、私は引き続き灯花を探す」
「わかりました」
国光に持っていた大太刀を渡して、天狼は、踵を返した。
天狼は、廊下を突き進むと開いている病室を見つけた。
そこをのぞき込むと、驚く光景があった。
見知らぬ女性が灯花を抱きしめていた。
「…………」
女性は、泣きながら灯花に言った。
「ありがとう、ありがとう…」
深い気持ちを込めた礼だった。
灯花は、身動きとれず固まっていた。
まさか、抱きしめられるなんて思ってはいなかったのだろう。
天狼は、病室の扉に背を向けて、その様子を静かに見守った。
女性は、ゆっくりと灯花を放した。
「ありがとう…あの子のクリスマスプレゼント確かに受け取りました」
女性の顔は赤く腫れていたけど、優しい微笑みがそこにあった。
灯花は、それを返すように返事をした。
「うん!じゃあね」
灯花は、女性にバイバイしてから、病室から出た。
よかった、よかったと思いながら、廊下に出ると、天狼に襟首を掴まれた。
「………あ」
腕一つで上げられて、天狼って力持ちだなと思った。
「さて、帰るか…」
天狼は、灯花を上げたまま廊下を歩き始めた。
「怒っている?」
天狼は、型にはまった笑い方をしている。
「ああ、心配させる子にはな」
「………ごめんなさい」
素直に言うと、天狼は少し困ったような顔をした。
「…………」
返事はなかったが、どうやら少しは許してくれそうだ。
天狼は、あの女性のことを思い出していた。
あの面影は、なみにそっくりだと思った。
天狼には、もしあの女性がなみに関わる者なら会ってもどうしょうもできなかった。
なみを人ではないモノに変えたのは、まぎれもなく天狼のせいなのだから。
膿蟲を滅しても、悔いだけは残る。
せめて、何かを残したいと思いつつも、幽世での出来事。
幽世のことを触れる者は、ただ人ではいられなくなる。
あの女性を想えば、これ以上の関りは自然と判断する。
灯花を叱らなかったのは、私達ができなかったことを灯花ができたからだ。
あの女性は灯花に出会って救われたのだろう。
前向きになれただろう。
だがそれは、褒められたことではない。
灯花は、迷い子だ。
人ではないモノがしたことに、ただ人が惹かれないわけがない。
察ししまえば、なみと同じことが起きるかもしれない。
そんな、危うい世界で我々は戦っている。
どうか、察ししないでくれ…
気づかないでくれ…
なみの為にも、何も知らないでくれ。
天狼は、あの女性にただ祈った。




