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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第ニ章 えっ?友達ですか!天狼さん。
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ホワイトクリスマス。(その23)

 幽世かくりよとなっていた病院は、崩れつつあった。

地響きが鳴り、今でも崩れ落ちそうな廊下を、灯花はひたすら走っていた。

その後ろからは、灯花を保護しょうと天狼がゆっくりと追いかけていた。

灯花は、捕まる訳にはいかなかった。

あの子の願いを叶えるために、そして、ずっと泣いているあの人影のために、あの絵を見つけなければいけない。

でも、いくら病室を転々と探しても見つけることができなかった。

痺れを切らした天狼は、灯花に声をかけた。

「灯花、もういいだろう。お前が何を探しているのか知らぬが、ここのモノを手にしても、ろくなものではない。悪夢(いかい)のモノは不吉を呼ぶ。諦めよ」

灯花にとっては、天狼が言っていることは理解しづらいが、諦めて帰ろうと言われているのはわかった。

「でも!いやだ!」

灯花は、そう言われて意地になった。

このままにはしておけない気持ちがあった。

それに、頼まれているのに無視することになるし、きっと後味が悪い。

そう思った時、突然、目の前の床に亀裂きれつが走った。

「…っ!!」

ひび割れるように、それは広がって行った。

「わあ!」

天狼がとっさに引き寄せてくれたおかげで、割れ目の中に落ちるはなかったが、捕まってしまった。


 灯花は、バタバタと天狼の腕の中で暴れた。

「のうぁあー!」

「暴れるな、灯花」

天狼は、崩れる床をかわしながら廊下を進んだ。

「美鈴、帰り道はわかるか?」

「はい」

美鈴の返事に駆ける速さを早めた。

「ならば、ついて来い」

廊下を真っ直ぐ突き抜けて、ある場所へとたどり着く。

天狼は、閉まっている手術室の前に立つと、大太刀を振り下ろして、扉を斬った。

その衝撃に、灯花は驚いた。

「のうああ!いけないんだあぁー!ちゅちゅちつ、こわした!」

「何を言っているんだ?」

ちゅちゅちつ?

「まさか、灯花。手術室が言えないのか?」

なみより、ひどいぞ…

「ちゅちゅちつ!」

「しゅじゅつしつな」

「ちゅちゅちつ!」

さ行が壊滅的に言えてない。

「とにかく、今はここから出るぞ」

第3手術室と表示している部屋へと飛び込むように入った。


 天狼、灯花、美鈴は深い深い闇に入っていた。

手術室の空間は存在せず、何もなかった。

永遠に広がる常闇だけだった。

すると、天狼は灯花をしっかりと抱き寄せて言った。

「しっかりと口を閉じて掴まれ、舌を噛むぞ」

そう言うと、風を斬るように前へと飛び出し駆けて行く、道なき道を勢いよく走った。

灯花は、天狼に必死にしがみついていた。

そうじゃないと堕ちそうだったからだ。

天狼たちには、地面が見えているだろうか?

灯花には、底なしの闇が見えていた。

「…っ」

どこからか吹いてくる突風が、私達の行く手を阻む。

それに構わず、天狼たちの駆ける勢いは、止まらなかった。

天狼には、道が見えているようだった。

ただ真っ直ぐに、突っ切るように闇道を駆けていた。

「出口だな」

天狼はそう言うが、どこにも出口なんて見当たらなかった。

光の兆しも何もなくて、どこが出口なのだろう?

あるのは、何もない闇だけだが、天狼には見えていたのだろう。

そこに、出口があったことを。

天狼は、灯花をぐっと抱え込むようにして、背中から前へと飛び込んだ。

ガッシャーーン!!

ガラスが割れる音が響いた。

眩しい光が目に入った。

天狼は、瞬時に状況を確認した。

建物の3階の窓から割って落ちているようだ。

天狼は、くるりと空中で体制を変えて着地した。

パラパラとガラスの破片が地面に落ちてひび割れるのを聴いた。

美鈴は、天狼の後から落ちて来ていた。

猫のように軽々と着地していた。

天狼は、腕の中の幼い灯花の様子を見た。

灯花は、口を開けてポカンとしていた。

その様子に傷一つしていないことがわかって安堵する。

灯花を見ていると、冷たい粒がほほに当たった。

「……そうだったな、通りで…」

天狼は上を見上げて、それを迎えた。

粉雪が静かに降っていた。

藍色の夜に白く薄まるのを眺めながら、夜が明ける時を感じていた。

東の向こうに日が昇るのがわかる。

この雪は、朝日を迎えたら消えてしまうだろう…

その時には、天狼の夜も一緒に終わるだろう。

そう思った時、またバタバタと暴れる娘がいた。

「もう!さいてー!」

「…!!」

聴き捨てならぬ言葉が、灯花の口から零れた。

「はなして!」

「…っ!」

天狼の腕の中で暴れていた灯花が、透けるようにするりと抜けた。

灯花は、天狼から離れてぱたぱたと走って行ってしまった。

「灯花!」

灯花は、迷い子だ。

己に戻さないと迷ったままだ。

「灯花!」

天狼は、灯花を追いかけた。


 幼い灯花は、中庭を駆けていた。

黄色い花を植えてある花壇を抜けて、病院内へと続く道を走って行った。

途中、水たまりが凍っていて滑りそうになり、慌てた。

雪が降っていたなんて、気づかなかった。

松ぼっくりの木に雪が積もっていて、せっかく重ねた雪が今でも崩れそうだった。

灯花の後ろからは、天狼わんわんが再び追いかけていた。

天狼の銀色の長い髪が風に揺れる。

雪が天狼を栄えるが、鬼の形相はいたたけない。

振り返るのは、やめておこう。

灯花は、真っ直ぐ病内へ入った。

中の様子は、薄暗さあり、いくつか電気が点いていた。

緑の非常口の明かりがやたらと目立った。

その中で、数人の看護師さんがうろうろとしていた。

まだ、日が昇っていないうちに慌ただしく働いていた。

灯花は、看護師さんに見つからないように、静かに廊下を渡った。

階段を登ろうとした時。

丁度降りて来た、看護師さんに出くわしてしまった。

「あっ」

まずい…どうしょう…

その場に固まっていると目の前の看護師さんは、声を上げた。

「ああ!!久遠さん!」

「……へ?」

看護師さんは、私を素通りして、後ろをついて来ていた天狼わんわんに向かって言った。

「病室にいないと思ったら!どこにいたのですか!」

天狼は、看護師に面食らった。

「あ、そ、そうだな…」

思い出した。

そう言えば、腹に傷があったんだった…

塞がっているはず傷がキリキリと痛み出した。

「…………」

「久遠さん!」

こんどは、看護師さんの顔が鬼だ。

その隙に、灯花は階段を駆け上がった。

二階へ登ると、女の人の鳴き声が聴こえて来た。

廊下に出ると、明かりが一つだけ点いている病室を見つけた。

そこだけ、看護師さんの出入りが何度もしているが見て取れた。

何があったのだろうかと、近寄って見れば、女の人がベットに向かって泣いていた。

「…………」

どこかで似たような光景を見た覚えがあった。

あの人影の様子と同じだった。

灯花は、ベットに近づいた。

ベットの上には、何も乗っていはいなかった。

空のベットに女の人がシーツを強く握って、苦しそうに泣いていた。

灯花は、結局何もできなかった。

どうしょうもできなかったと言い訳を考えてしまう。

灯花は、ぺたんと床に着いた。

しばらく、呆然としていたが、ベットの下に白いものを見つけた。

「……?」

ベットの下に潜って、それを確かめると目を見張った。


 天狼は、看護師の小言を聴きつつ、灯花を探した。

「久遠さん!」

「わかったわかった、事が終わったらすぐに戻る」

「今すぐです!」

看護師の勤勉さに頭を下がるが、少しぐらい見逃してくれないか。

「久遠さん!」

「…………」

天狼は、看護師に向き直った。

「……く、久遠さん?」

「疲れは取れたかな?勤勉なのは良いことだが、身体を壊したらそれこそ身にならん」

「…っ!」

看護師の耳元にささやいた。

「肩に力が入っている…」

「~~~!!」

看護師の顔が見る見るうちに赤くなり、すぐさま私から離れた。

「す、す、すぐに戻ってくださいね!つつ、次、本当に戻っていなかったら、怒りますからね!」

「ああ、わかった」

看護師は、そう言って早足でどこかに行ってしまった。

「…………」

あの看護師、仕事熱心でなによりだな…

異界に迷い込んだ時と何も変わらんな、それぐらい、仕事に誇りを持っているのだろう。

さて、灯花を探すか…

天狼は、階段を登った。

急がねば…

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