ホワイトクリスマス。(その22)
幼い灯花は、階段をゆっくりと上がった。
うる覚えだが、確かにあの画用紙は、この病院内にあった。
その画用紙をあの人影に渡そうと思った。
それが、一緒に遊んだあの子の願いだ。
階段を登って行くと、とたんに地響きが鳴った。
地震?
バランスを崩して、段から転げ落ちそうになった。
でも、覚悟する痛みはなかった。
小さな衝撃は受けたのの、温かなぬくもりを感じた。
「灯花、大丈夫か?」
自分を抱きとめているのは、天狼だった。
「もうじき、ここは崩れる。あまり長いはできん」
天狼は、そう言うが灯花にはやらなければならないことがある。
灯花は、天狼の腕の中でもがきながら言った。
「いーや!放して!とーかは、やるの!」
「何をするのだ?もうここから、出なくてはならん。悪夢は終わったのだぞ。共に帰ろう」
天狼は、そんな灯花を何も聞かずに連れて行こうとしていた。
「いやだってば!」
バタバタと足をばたつかせて、抵抗をする。
天狼は、暴れる灯花を無視をしつつ、美鈴の様子を聞いた。
「美鈴、無理をするな。お前は怪我をしているのだぞ?やはり、我が同胞は、私が受け持つ。なに、一人二人も変わらん」
天狼は、灯花を片腕で抱えて、美鈴が背負っている黒いオオカミも抱えようとしていた。
「いえ、わたしが持ちます。持たせてください天狼様」
「…………」
天狼は、無言を返したが美鈴の強い気持ちに折れた。
「わかった。ただし無理だけはするな」
美鈴は、主の許しに肩を落として安堵した。
美鈴は肩から腕にかけて傷を負っていた。
蟲との戦闘で受けてしまった傷だ。
処置をしているが、無理だけはしてほしくなかった。
「急いで、ここから出るぞ」
崩れる音が、だんだん近くに来ていた。
天狼が、段を登ろうっとした所を。
「…っ!」
灯花は、腕を噛んだ。
天狼が驚いているうちに、するりと腕から抜け出した。
「灯花!」
天狼の呼びかけに応じず、ぱたぱたと階段を登り、廊下へと駆け出してしまった。
灯花は、病室内を急いで探し回った。
確かこの階だと思ったんだけど…
画用紙を探すが、見当たらない。
また、別の病室かと転々と探し回った。
前は、黒い蝶に案内されて、見つけたんだけど。
今は、どこにもいない。
「どうしょう…」
焦る気持ちが高鳴っていた。
天狼に掴まったら、探すどころではない。
強制的に連れて行かれてしまう。
灯花は、急いで廊下を駆け抜けた。
もちろんのこと、天狼はその後ろを追っていた。
型にはまった笑みを浮かべて、走らずゆっくりと歩き出していた。
鬼ってこういう人のことを言うんじゃないの?
背中が冷たくなるような視線を浴びつつ、灯花は走った。




