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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第ニ章 えっ?友達ですか!天狼さん。
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ホワイトクリスマス。(その20)

 天狼の目の前に透明な壁が張り巡り、急激な温度の低下によって辺りが白い息を吐いた。

この技ができるのは、あの子しかおらん。

美鈴みすず!」

氷鬼ひょうきを使う術者は、崩れた天井からするりと現れた。

「天狼様!」

一つに束ねた黒髪を振りながら現れた女性は、すらりとした四肢に黒スーツがよく栄える。

だが、肩から腕にかけて血の流れがあった。

美鈴、負傷したのか…

天狼が美鈴を気にすると、神楽夜かぐやは、じろりと美鈴を見た。

「へぇ、道綱みちづなの娘?」

神楽夜の言葉に美鈴は、冷たくにらんだ。

「なに?下痢男げりおとこ

神楽夜は、ニタニタと笑いながら言った。

「くっくくく、それね、困っているんだよね。どっかの誰かさんが、お腹弱くってっさあ」

天狼は、神楽夜の言葉に一瞬驚いたが、次第に微笑を漏らした。

「はて、何のことかな?」

神楽夜は、天狼のとぼけぶりに不敵な笑みが崩れた。

「ふっはははははっ面白い!実に面白いよ!天狼!」

腹を抱えながら笑い出す神楽夜に、天狼は大太刀を構え直し、ガラスを割るように、張り巡らされた氷結を叩き割った。

その隙に美鈴は、身動きできないでいたはえの親蟲をこぶしで殴り落とした。

蠅の親蟲は、悲鳴を上げる暇なくくだかれた。

天狼は、もう一体の足長蜘蛛の親蟲の足を一振りで三本斬り、二振りでまた三本斬った。

足を失った足長蜘蛛は、立つことも出来ずにジタバタと暴れた。

キィキィと鳴きながら、この世に呼び出した神楽夜にすがるが、笑っていた神楽夜の機嫌を損なったのか、神楽夜は扇を振り下ろした。

「邪魔」

凍てつくような冷たい言葉に、天狼は親蟲に哀れを向けた。

この世にあってはならない生き物だが、神楽夜の横暴はそれを凌駕りょうがした。

蜘蛛は、無残に斬られ、赤い液体を深い池のように広げるだけだった。

あまり見るものではない。

滅しない死蟲しがいは、共喰いにあう。

周りに這っていた黒蟲たちが、蜘蛛に群がり喰いつくす。

赤い液体が見る見るうちに、黒蟲たちよって吸いつくされ当た片もなく、無くなっていく。

天狼はその光景から目をそらし、神楽夜を睨む。

随分ずいぶんと手ひどいな」

神楽夜は、笑いをやめ、冷めた口調で答えた。

「別に、手ひどくはないんだけどなぁー負けたものに同情はしない主義なだけ」

扇で顔を隠しながら神楽夜は、どこか先ほどまでの覇気が見当たらなくなった。

「ふぅん…きょうが冷めたな。今日の遊びは、み子が少なくて天狼は、気が入らないみたいだし…」

神楽夜は、ぶつぶつと小言のように言い放った。

天狼は、獣の耳でそんな小言でもしかと聞いていた。

「私は、いつでも気が入らんぞ。いい加減、それを理解したらどうだ?」

風ない場所に天狼の銀色の髪がさらりと揺れた。

青い火種が天狼の周りを散らした。

神楽夜は、そんな天狼の容姿に神楽夜は目を細めた。

「相変わらず、綺麗きれいだねぇー天狼様は…」

月が無い世界にも関わらず、そのには月の輝きがある。

天狼の輝きは、月の光。

「天狼様、あなたには常闇とこやみが似合うよ」

神楽夜の急な言葉に、天狼は目を見張った。

「神楽夜?」

神楽夜は、扇を高く上げ、風を呼び込んだ。

いきなりの突風が病内に吹いた。

血臭がする風に天狼と美鈴は風にむせる。

「…っ!」

「…うっ!」

周りに湧いていた黒蟲たちは、風に踊りながら神楽夜の元へと向かって行き、一つに集結した。

神楽夜の足元には、大穴が開いていた。

その大穴からは、無数の黒い蝶が現れた。

まとまりの無い飛び方をするはずの蝶は、神楽夜の傍で舞うように踊り、輪を作った。

「今夜は、聖夜らしいね。それに相応しく、天狼あなたに贈ろう…地獄を」

大穴から、一匹の黒狼が現れた。

「…っ!!」

黒オオカミは、大型犬より大きく、大熊がほどの大きさだった。

さすがの美鈴もこれには目を見張った。

「かぐやああ!」

同胞がやられた。

この地に呼び出したのは、山犬だった。

「…くっ!」

天狼は、苦虫を嚙み潰したようになり、神楽夜は上機嫌になった。

「天狼!その顔だよ!とても素敵だあ!」

神楽夜は、高揚とした言葉を述べ、深い笑みを浮かべて、深い深い大穴の中へと落ちて行った。


 天狼は、歯をきしみながら、黒オオカミを見た。

蟲にやられて、自我が無いことにまだ救いだった。

懐にいる幼い灯花は、先ほどの戦闘にて、すでに気絶している。

これもまた、まだ救いだ。

山犬わんわんが殺される所など、見たくないだろう…

傍にいる美鈴は、普段表情を崩さないが、これにはさすがに崩れていた。

私と同じ紫色の瞳に澄んだ雫が落ちていた。

…だが、ここで立ち止まってはならぬ。

「美鈴!」

私の呼びかけに、美鈴は我に返る。

「…………はい!」

苦渋の決断をさせてしまうが、これで、終わりにはさせん。

天狼は、胸に抱く灯花に誓うように、目の前にいるかつての同胞に向けてに言葉を贈った。

「今、悪夢を終わらせる」

それを聞いた美鈴は、拳を作り覚悟を決めた。


 黒オオカミは、蟲に浸食されていた。

膿蟲うじによって肉体を動かされ、思考しこうは、捕らわれる魂によって動かされる。

黒オオカミは、完全に意識が無いようだ。

己の本能に身を任せているからだろう…

そのほうが、同胞討ちには適している。

すまない…

また一人と同胞を亡くしてしまう。

だが、もう楽にしてやろう…

運命さだめからの解放を。

天狼は、眠る灯花を抱き寄せ、片手で大太刀を構えた。

生きてるように黒オオカミは、うなり出す。

目の前のいる我々を獲物と見ているようだ。

黒オオカミは、じりじりと間をうように横に動いた。

さて、膿蟲はどこにいる?

短期間で、ここまでの事をしてくれたんだ…

一撃で終わらせよう。

それには…

「美鈴」

「はっ」

「私が滅する。出せるか?」

「もちろんです」

美鈴の瞳には、純粋な殺意が込められていた。

美鈴は、私の前に出た。

「我は、久遠美鈴くおんみすず、久遠道綱(久遠みちづな)の娘にて、山犬の御前にてお相手致す」

美鈴の戦い方は、氷鬼と武術。

刀を持たず、滅せる者は少ない。

その中で、美鈴は随一だ。

黒オオカミは、美鈴に間を置かず跳びかかった。

美鈴は、一瞬にて、オオカミより低く態勢を取り、オオカミの腹に拳を入れた。

黒オオカミは、美鈴の一撃を真に受けた。

美鈴は、それでも終わらずオオカミの毛皮を掴み床に叩き落とし、もう一度、腹に追撃をする。

その容赦しない攻撃に、オオカミの身体から血が飛び散った。

一度、膿蟲に取りつかれた者は再生能力が高まる。

どんなに、斬りつけられてもたちまち再生をする。

膿蟲を斬らなければ、その身体は永遠と動き続けるだろう。

膿蟲を的確に倒さねば、泥沼の戦い方となるだろうが、膿蟲自体が身体を放棄すればの済む話。

先に根を上げるのは、膿蟲の方だという事だ。

さて、そろそろだな…

灯花を抱えては、動きが早いオオカミ相手では少し荷が重かったが、美鈴のおかげで、一振りで終わりそうだ。

これで、同胞の身体を取り戻せる。

オオカミとは違う鳴き声がオオカミから響いて来た。

美鈴は、オオカミを片手で上げて、回し蹴りした。

黒オオカミは、遠くに吹っ飛び、病内の壁にぶつかった。

天狼は、黒オオカミに近づいた。

オオカミの身体から、赤くて小さな触手が無数に生えて来ていた。

そして、黒い毛並みの中から、芋虫のような蟲が出て来た。

天狼は、すかさずそれを大太刀で斬った。

斬られた蟲は、すぐさま青い炎で掻き消えた。

黒オオカミは、死体へと戻った。

もう動くことはないだろう。

そして、その御霊も解放されるだろう。

「もう大丈夫だ…お前はよくやった。山犬として立派だった」

天狼は、黒い毛並みをゆっくりと撫でた。

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