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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第ニ章 えっ?友達ですか!天狼さん。
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ホワイトクリスマス。(その19)

 天狼は、息を吐いて、鼻でゆっくりと空気を吸う。

不敵に笑う神楽夜かぐやに対して、鋭く見た。

地下に降りてから、ずっと血のにおいがしていた。

密度の高い、血肉のにおい。

神楽夜からではなく、食事をしている蟲の臭いだとすぐに理解した。

そして、その蟲が近くに来ていることも。

神楽夜は、扇で仰ぎながら言った。

「さあ、天狼。もっと遊ぼうよ…」

神楽夜がそう言うと、とたんに地響きが鳴った。

天狼は、幼い灯花をしっかりと抱き寄せて、衝撃に備えた。

地響きのせいで、天井に亀裂きれつが走り、そして崩れた。

崩れた所から、大量の黒蟲くろむしたちが流れ込んで来た。

ギチギチと歯ぎしりをしながら、湧き出していた。

崩れた瓦礫を押し出し、黒蟲たちの中から、ひと際大きい蟲が現れた。

血生臭いにおいの正体は、この蟲のようだ。

大人を丸のみする肥大したはえが、ゆっくりとこちらに這い出してきた。

先ほどまで、食事を終え血肉から這い出した蟲。

親蟲おやむしが現れたという事は、灯花とつがわせる気だ。

天狼は、腕の中の灯花をきつく抱き込む。

「させぬぞ」

神楽夜を睨み付けた。


 天狼は、黒蟲の川につかりながら、己の中の炎を練り出す。

親蟲が一匹と産み付けられた膿蟲うみむしに神楽夜。

これを一気に相手するのは、少しばかりなんだ。

灯花を抱えながらだと、不意打ちにあいやすい。

さて、どうするか…

いつまでも、睨み付けながら時間を稼ぐことはできない。

張りつめた緊張感の中で、蟲の声を聴きながら蟲の動きを読む。

親蟲は、灯花を狙っている。

じっとこちらを見ていては、どこか笑っているようだ。

膿蟲は、ただ茫然ぼうぜんとその場にいるようだ。

うみたては、飢える。

いずれは、こちらへと向かって来るだろう。

そして、神楽夜は当然、手出しはしないだろう。

この私にこのモノらを打たせたいだけで、けらけら笑うだけだ。

だが、妨害はするだろうな…

ならば…

天狼は大太刀を構えなおした。

片手での振りは、幾分威力は落ちる。

だけど、威力は落ちるが速さは数倍上がる。

一気に叩き落すならば、この構えで構わない。

いい加減、鼻が曲がりそうな臭い(におい)に腹が立って来た。

それに、私の愛し子を獲物えさように見られるのは、不快だ。

「よほどの餌にありつけたのだろう…」

すぐに産み付ける態勢に入っているということは、それだけ喰ったということだ。

「お前から、滅してやろう」

天狼は、銀色の長い髪はなびかせて、獣ような耳を尖らせる。

不敵な笑みを浮かべさせて、血のにおいを吸う。

甘い匂いが肺を膨らませ、胸の炎をたぎらせる。

風がない場でも、白い着物がゆっくりと翻る。

蟲の川に沿って、黒の袴が引っ張られるのを感じるが、蟲が這いあがることは無い。

なぜなら、足元の蟲は、すでに灰の砂となっていたからである。

天狼が一歩前へと出ると、灰の砂が舞った。

確かな足取りで、歩むと天狼は呟いた。

「血はすすれ、肉はかじれ、骨は絶て、御霊は死に帰れ」

天狼は、大太刀を瞬時に大太刀を構え、親蟲へと振り下ろした。

蠅の大きな目に一線が走った。

天狼の身のこなしに、蠅は飛ぶことも身を守ることもできなかった。

果実のように身から、赤い液体が溢れた。

蠅は片目を失い、その場で激しく暴れ出した。

ギイイイーーー!

耳障りな鳴き方をし出したが、天狼のもう一振りの一線で、もう片方も同じく斬れる。

これで、親蟲の両目は失くした。

そんな時。

天狼の背後から、気配を感じた。

花柄のパジャマの姿の女の子。

膿蟲が天狼に飛び込んできた。

はねをばたつかせて、うまく飛んでいるようだった。

天狼は、瞬時に大太刀をの構えを変えた。

大太刀の先を後方へと変え、一気に刺す。

「すまんな、私は蟲には容赦はせぬ」

膿蟲の胸にとそれは刺さった。

天狼は、一気に大太刀を引き抜き、今度は黒い閃光の前に刃を向いた。

神楽夜の扇による攻撃。

扇はただの扇ではなく、黒蝶翅こくちょうばねという悪器あっき

地獄蟲じごくちゅうの翅を何枚も折り重ねて作った品物。

素材は、鉄より切れ、銅より重い。

血を多く吸い込み、その度に強度が増して行く。

その一振りするだけで、鋭く斬れ、血臭をき散らし、蟲を呼び込むこともできる。

使用者の舞い方によって、地獄蟲の濃度を上げることも、また呼び出す時の蟲の級も選べること。

この世にあってはならない品物。

「その扇ごと斬ってやる!」

神楽夜は、不敵に笑いながら扇を振った。

「斬れるものならね」

黒蟲が舞ったが、天狼は黒蟲ごと大太刀を振るった。

扇と大太刀がぶつかり、小さく火花が散った。

扇が思ったより硬い。

天狼が持つ大太刀より硬いことは、それくらい血を浴びていること。

天狼は、歯噛みをした。

「神楽夜!」

青い炎を吐き出し、一気にこの場を焼きあがる。

灰が舞い上がるが、扇と大太刀の響き合いは止まることはなかった。

神楽夜は、獣のような鋭い瞳を天狼を向けながら、笑いかける。

「何だい?天狼」

「何がそんなに面白い?本当のお前はそんなんじゃないだろう!」

天狼は叫ぶが、神楽夜はケラケラと笑う。

「何のことかな?それに、こんなに面白いことなんてないだろう?」

「神楽夜!」

天狼は、大太刀を一気に押した。

扇が押し倒され、神楽夜は瞬時に天狼と距離を取った。

神楽夜は、扇を仰ぎ、舞うように身体をくるりと回った。

「っ!」

その時、地獄蟲が呼び出された。

神楽夜の足元に大量の黒蟲が湧き出し、その中から、黒く長い脚を持つ六本の蜘蛛が出て来た。

肥大した蜘蛛。

これも親蟲か…

天狼は、神楽夜から一気に下がる。

これ以上の戦いは、危険だった。

この戦いはあくまで、一時的な鎮圧。

逃げの一手を持ってくるためのもの。

やってくれたな…

灯花を抱えては、これ以上の戦いは避けなければならない。

「…っ!」

その時だった。

黒蟲たちの動きが止まった。

時が止まったようにその場が凍った。

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