ホワイトクリスマス。(その14) 夢の灯花(3)
ちょっと不快描写があるかもです。
ご注意ください。
幼い灯花は、ベットの下に隠れると、とても優しくて柔らかい声が聞こえて来た。
「怖がらなくてもよい、どうか姿を見せてくれまいか?」
その声に、警戒心が解けた。
あの赤い着物の男じゃないことがわかり、ほっとした。
灯花は、ゆっくりとベットの下から、手を伸ばした。
大きな手がその手を取った。
ごつごつとした感触だったが、それでも優しく包んでくれる手はあたたかった。
灯花は、ベットの下からゆっくりと出ると柔らかい声の主を見た。
真っ白い髪に犬ような耳を持った白い着物の人がいた。
「わんわん?」
つい、そう口走ってしまった。
へんな人だけど、この人はとても優しい人だと直感でわかった。
わたしを見る視線が、どこか柔らかい。
犬のような男は、わたしに視線を合わせて言って来た。
「こんな所で何をしていたのだ?」
そう言われて、かくれんぼをしていたことを思い出した。
犬のような男に、かくれんぼをしていたことを伝えると、男の後ろにパジャマ姿の女の子が立っていた。
鬼役だった、あの女の子だ。
「かくれんぼ?誰とだ?」
「うんとね、えっとね、あの子とね、かくれていたの」
「あの子?」
わたしは、その子を指で指した。
あの子が廊下を走ってしまってから気づいた。
「あっ!見つかっちゃったあ!」
灯花は、むっとした。
「もう!わんわんのせいだよ!むうぅ」
わんわんは、少し困った顔をして謝って来た。
「すまんすまん、まさか、かくれんぼをしているとは思わなかったんだ。どうか、許しておくれ」
ほっぺたを触れながら言われれて、灯花はぐずった。
ここで許したら、かまってくれないんじゃないかと。
聞き分けのいい子は、大人にとってはいいかもしれない。
でも、その分かまってくれないことを灯花は知っていた。
「うん?」
「ぶううーー!」
灯花が不満そうにすると、わんわんはますます困った顔をした。
灯花の狙い通りに、わんわんは自分にかまってくれるようになった。
「では、どうしたら許してくれるか?」
灯花は、ぱっと思いついた。
渾身のわがままを言った。
「じゃあ!かくれんぼ手伝って!とーかが鬼なの!」
すると、わんわんはまぶしそうに目を細めて微笑みながら言った。
「わかった。灯花、私が手伝おう」
一緒に遊んでくれることになって、灯花は上機嫌になった。
それから、女子トイレで天狼と別れた後。
灯花は、目を細めた。
さっきまで、わんわんとパジャマ姿の女の子と一緒にいたはずだったのに、突然、自分は一人になってしまった。
いきなりのことで、最初は驚いたが次第に、むっとしてきた。
「くさい…」
この、うんこ臭さに不快感が増したのだ。
怖いどこではない。
「くさい!」
灯花は、周りを見渡した。
一瞬だけ真っ黒くなったが、今は蛍光灯はきちんと点いている。
電気が通うジーンと音が嫌に響いた。
自分は確かに女子トイレに入ったつもりだったが、いつの間にか男子トイレにいるようだった。
「うげ!」
まさかの男子トイレ。
たちしょんする所があったから、すぐに見分けがついたが自分がここいることに嫌気がさした。
すぐさま、男子トイレから出ようとすると、男の人のうめき声が聴こえて来た。
「…っ!」
おばけ!
急に怖くなって出ようとした時。
無数の黒い蝶が灯花にまとわりついた。
「うわあ!」
バタバタと耳にまとわりついて不快になった。
払い落そうとするが普通の虫より力強く、強く払っても、なかなか落ちなかった。
「いやあ!」
黒い蝶が欲しかったけど、ここまでくると嫌悪しかない。
もう、ほしくない!
いらない!
そう思いつつ払い続けるが一向に取れる気がしなかった。
ようやく勢いが弱まったと思いきや、自分は再び男子トイレに戻ってしまった。
今度は、くさい思いをしなければならなかった。
この臭さに耐え切れず、黒い蝶はどこかに行ってしまった。
「うぅーくさい!」
男子トイレからは、再びうめき声が聴こえた。
それが、個室から聴こえることに灯花は気づいた。
間違いなく、誰かが踏ん張る音だった。
これ、聴いてていいのと思ってしまうぐらいの、お腹の音に灯花はため息をついた。
灯花は、少し警戒しながら個室に近寄った。
「誰かいるの?」
灯花は、訊いてみた。
苦し紛れに男の人の声が返ってきた。
「ぐっやあ…その声、迷い子だね…」
「…………。」
どこかで、聴いたことがある声だった。
灯花は、半目になった。
「ぐぅう…腹が!」
お腹の音がトイレ中に響いて来た。
「おじさん、だいじょうぶ?」
「ぐぅ、おじさんとは、なんだ…口の利き方に気を付けた方がいい…私の名は、神楽夜」
「ふーん」
覚える気は、さらさら無い。
「随分、しつけがなってない子だね…うっ!」
「…………。」
どうやらこの人は、お腹を壊しているようだ。
あの赤い着物の男は、このトイレで腹を抱えながら苦しんでいるのか…
なんて、あわれなひと…
灯花は、呆れまぎれにその場に立って聞いていた。




