ホワイトクリスマス。(その12) 夢の灯花(1)
幼い灯花が、天狼と出会う前。
灯花は、ある声に導かれた。
「おかあ、さん…」
小さな声に灯花は、目覚めた。
白い壁にもたれながら、灯花はゆっくりと体を起こした。
気づけば、そこは知らない場所だった。
電気が点いていて、明るかったが、どこか影がある空間だった。
ここは、どこかの廊下ようだ。
あっ
やばいかも…
また、おねえちゃんにおこられそう…
まいごになったと聞けば、ごつんとやられそう…
いますぐにでも家に帰らないと…
灯花は、その場から動いた。
灯花は、辺りを見渡した。
どこか見たことがある場所で、なんとなく、ここがどこなのかはわかった。
ママに連れられて来たことがある。
あの白い人がいる所だ。
「うう…」
思い出すだけで、嫌なる。
大丈夫、痛くないよーって笑いながら、注射を刺してきた。
にっこり笑いながら近づく大人は、危ない人だとここで教わった。
気をつけないと…
灯花は、廊下の白い壁を伝いながら歩いた。
「むう…」
病院特有の消毒液のにおいで、むせそうだ。
早く、ここから出よう…
そう思った時、目の前に黒い蝶が通りかかった。
「…っ!」
ぱたぱたと飛び回る蝶に、灯花は目を奪われた。
黒い蝶は、優雅に舞うように飛び、翅の黒模様が美しく飾っていた。
灯花は、その蝶を追った。
ママとおねえちゃんに捕まえて見せたら、びっくりすると思った。
「まてーまてー!」
黒い蝶を追いかけて行くと、何かにぶつかった。
「むぎゃあ!」
廊下の角で、見えなかった。
でこっぱちが地味に痛い。
おねえちゃんのぐーよりかは、まだ、ましのほうだが…
「ごめんなさい…」
どうやら、自分は同い年の女の子にぶつかったらしい。
「こっちこそ、ごめん」
パジャマ姿の女の子だった。
女の子は、ぶつかっても平気そうだった。
この子、強い…
灯花は、女の子が自分より強いことがわかった。
きっと、ケンカしても負けそうだ…
私達が茫然としているとまた、あの黒い蝶が舞った。
まるで、こっちに来てと言っているかのようだった。
私達は、黒い蝶に誘われるまま、あとを追った。
廊下を突き進むと、ガラスで出来た扉を見つけた。
扉から外の様子が窺えた。
どうやら、外は日が暮れているようだ。
外は、電灯が点いていて、花壇があるのが見えた。
お庭?
灯花がそう思うと、黒い蝶が扉の近く寄った。
自動的に扉が開き、そのまま外へと飛んでしまった。
「あっ!逃げちゃった!」
灯花がガックリと肩を落とすと女の子は、灯花を置いて外へと出て行ってしまった。
「あっ待ってよー!」
灯花は、女の子を追って外へと出た。
外は、扉越しで見た光景が広がっていた。
電灯の明かりだけで、周りを見渡した。
花壇には、小さな黄色い花が植えられており、花壇の奥には、松ぼっくりの木が植えられていた。
ここは、病院のお庭のようだ。
灯花は、女の子を探した。
思った以上に、周りが静かすぎて怖くなった。
「置いていかないでー!」
そう言いながら、辺りを見渡した。
パジャマの女の子は、すぐに見つかったが、女の子の近くに大人の人がいた。
大人の人は、ベンチに座っていた。
灯花は、ゆっくりと近づいた。
大人の人が近寄りがたく感じて、できるだけ女の子よりに近づいた。
ベンチに座る大人の人は、赤い着物を着ていた。
女の人ような長い黒髪に、雪のように真っ白な肌に花模様のあざがあった。
瞳の色がお魚の血のような色をしていて、その人にじろりと見られるとぞくりと背筋が痛くなった。
「…………。」
灯花が怯えているとその大人の人は、にっこりと笑った。
女の人なのか男の人なのか分らなかった。
「あなた…どっちの人?」
灯花は、ぼそっと言ったつもりだった。
「初めてだな、小さきものからそう言われたのは…私は男だよ…」
灯花は、ビクっと肩が上がった。
男の人だ…
男は、にっこりと灯花に笑いかけた。
「…………。」
「さて、集まったのは、君たちだけかな?意外と少ないねぇ…」
男は、優雅に扇子を広げて、じろりと私達を見た。
灯花は、パジャマ姿の女の子の後ろに隠れた。
にっこりと笑う人は、危ない人だと思ったからだ。
「せっかく、久々に天狼と遊べるのにね…」
「わんわん?」
灯花は、口に出していた。
「ふぅん…君は、迷い子だね」
「…………。」
血のような色をした瞳が灯花を見ていた。
灯花は、パジャマ姿の女の子の後ろに、縮こまった。
「いいよ…君も仲間に入れてやろう」
男は、ニタリと笑った。
「さあ、二人とも願いは何だい?この神楽夜と遊んでくれたら、願いを一つかなえてやろう」
灯花は、女の子に隠れつつ、様子を伺った。
パジャマ姿の女の子は、そんな灯花をよそに願いを言った。
「お母さんに、渡す物があるの…クリスマスプレゼントなの…」
「へぇ…それで、そっちの迷い子は?」
灯花は、自分のことだとすぐに分かった。
なんだか、自分の願いが女の子と比べて随分、安いものだと思った。
「…言いたくない」
灯花が、そう言うと男は、じろりと灯花を睨み付けた。
「…っ!」
睨み付けてたのは、一瞬で、すぐににっこりと笑った。
「ふぅん…じゃあいいさ。君には、この地獄蝶をあげよう」
「あっ!」
男の肩に黒い蝶が舞い降りた。
「ただし、私に勝ったらの話ね」
「…………。」
灯花は、なんだか負ける予感がしていた。
自分は、そんなに頭がよくないし…
「だめだよ…そんな気だと楽しくない…」
「大人相手だと、負けるに決まっているから…」
「さて、それはどうかな?それに、君だって、人のこと言えないんじゃない?」
「…?」
それって、どういうこと?
「でも、いいさ…やっていれば、楽しくなる。さあ、遊ぼう」
男は、ベンチから立ち上がって、赤い着物の裾を翻した。
風が強く吹き、パラパラと落ち葉が舞った。
どこからか、クスクスと笑い声が聴こえた。
私達の他に子供がたくさんいるのかと周りを見渡したが、私達だけしかいなかった。
男は、右手を上げて言った。
「遊びは、かくれんぼにしょう…さあ、この指止まれ」
男の手には、無数の黒い蝶が舞っていた。
静かに立っていたパジャマ姿の女の子は、手をあげて男に近寄った。
灯花は、置いて行かれるのが嫌で、女の子のあとをついて行った。
男に近寄ると、また、子供の声が聴こえて来た。
数える声がした。
「「「ひとーつ…」」」
「「「ふたーつ…」」」
「「みっつ…」」」
「誰が鬼にするのか、決めてごらん…」
そう言い残して、男は、黒い蝶に包まれて闇へと消えた。
数える声を残して。
「「「ここのつ」」」
「「「とう」」」
十まで数えたら、その声は、静かに消えた。
残された私達は、ただ茫然と立ち尽くしていた。
パジャマ姿の女の子は、灯花に振り返り言った。
「鬼…どうする?」
「とりあえず、じゃんけん?」
公平なじゃんけんで、鬼を決めた。
パジャマ姿の女の子が鬼となった。
「……かくれるね…」
女の子が目をつぶっている間に灯花は、隠れることにした。
二人しかいないのに、かくれんぼとか、ちょっと呆れた。
でも、すぐに見つけられたらつまらない。
わざと病院内に戻り、隠れる場所を探した。




