ホワイトクリスマス。(その11)
天狼となみは、急いで階段を下った。
すぐにB1階と到着した。
途中、黒蟲が天井から降って来たが、気にせず突き進んだ。
「なるほど…これは当たりかな」
地下は、明かり一つ点いていなかった。
物の形すら見えない闇が広がっていた。
闇深さに少し嫌悪感が出てくる。
抱きかかえてるなみが、震え出した。
「まっくら…う…」
天狼は、なみをしっかりと抱き直して言った。
「怖いか、なみ。私がお前の傍にいる、私の呼吸を聞いていれば怖くはない」
なみは、天狼にしがみついて小さくうなずいた。
天狼は、それを合図に奥へと進んだ。
奥へと進みにつれて、赤い明かりが見えて来た。
赤い明かりの近くに向かうと、私達が今どこにいるかがすぐに分かった。
赤い明かりは、手術中と表示していた。
真に入るべき扉は、ここだ…
天狼は、大太刀を構えて扉の前へと進んだ。
扉は、自動に開いた。
中は、手術台の上のだけが明かりが点いていた。
「…っ!」
手術台の上には、幼い灯花が眠っていた。
すぐに駆け寄ったが、手術台の下にいた黒いモノが阻んだ。
蜘蛛のような長い脚が、灯花を包むように遮った。
親蟲か!
天狼は、大きく一歩下がった。
「なみ、少し耐えてくれ…」
そう願いつつ、己の炎を練り出す。
すると、なみは灯花の存在に気づいて、声を出した。
「あっ!みーつけた!」
「…っ!」
その言葉が引き金となった。
手術台の上に眠っていた灯花は、突然、なみへと入れ替わった。
実際のなみは、天狼の腕の中にいる。
「しまった!なみ!見てはならん!」
天狼は、なみの視界を遮るが遅かった。
「わ、た、し、は…」
なみの様子がみるみると変わっていく。
なみは、大きく動揺していた。
何も映らぬ虚ろの瞳が見開く。
天狼が、なみを落ち着かせようとするが、もう遅かった。
手術台に眠っているパジャマ姿のなみは、ゆっくりと起き上がり、ニタリと笑った。
「み、つ、け、た」
肉体と魂が繋がってしまう!
なみの肉体は、膿蟲が存在していた。
膿蟲が魂を呼んだ。
魂だけのなみは、するりと天狼から離れた。
「なみ!行ってはならん!」
天狼が呼ぶが、もはや肉体の呼び声には、逆らえられない。
「させぬぞ!」
天狼は、床に手をついて、鬼火を放った。
一気に空間に青い炎が燃え上がったが、天井に大量の黒蟲によって遮られた。
舌打ちしたくなった。
黒蟲に、こんな知恵がつくとはな!
天狼の上に大量の黒蟲が降って来た。
天狼は、一瞬で黒蟲を焼き払ったが、その一瞬が、隙をついてしまった。
なみの肉体が魂の手を取ってしまった。
黄泉帰りにて、死者の復活。
なみは、死人となってしまった。
死体に戻った魂は、業によって地獄へと堕ちる。
「なみ!」
もはや、なみではなく。
地獄蟲の子。
膿蟲
膿蟲は、小さな背中から、身体には大きすぎる翅を生やした。
ケタケタと笑いながら、天狼を見ていた。
天狼は、覚悟を決めた。
「すぐに楽にさせてやろう…」
大太刀を構えて、膿蟲に刃を向いた。
剣先を向いた途端に、声が聴こえた。
「やめて!」
いきなり膿蟲と天狼の間に割って入ってきたのは、幼い灯花だった。
「…っ!」
白いワンピースを赤く染めながら、灯花は両手を広げて立ちふさがった。
愚かな!
「灯花!そこをどけ!」
強く怒鳴ったが灯花は、どかなかった。
「だめ!」
今にも泣き抱きそうな顔をしながら、必死に前に立ちふさがる。
「いくらお前でも、蟲に擁護するならば、ただではすまんぞ…」
天狼は、鋭く灯花に言い放った。
「うっ!」
一瞬だ、一瞬で片がつく。
こんな、愚かな蟲の遊びに付き合ってられん。
天狼は、己の中が鋭く冷たくなるのを感じた。
本来の天狼は、人の業に付き合う存在ではない。
そんな天狼の前でも、灯花は震えながら立っていた。
「だめ!」
「なるほど…灯花。それが、お前の答えか」
天狼が灯花を脅しても、どかないのは、そう言う事なのだろう。
天狼は、大太刀を大きく振り下ろした。




