ホワイトクリスマス。(その10)
天狼は、なみと共に手術室へと向かった。
道中、なみの発音の練習をしていた。
「さ、し、す、せ、そ」
「さぁ、しぃ、すぅ、せー、そぉ」
なみは、さ行が苦手みたいだ。
「しゅ、じゅつ、しつ」
「しゅ、じゅう、ちつ」
廊下の天井には、黒蟲たちが蠢いていた。
ぱらぱらと黒蟲が落ちて来ても、私達は気にせず、前へと進んだ。
なみが描いた、大きなてんとう虫と言うのは、親蟲のことだろう。
なみは、手術室にいたと言っていた。
連れて行かれた、灯花もそこにいる可能性が高い。
闇雲に病内を探すよりも、可能性がある所から探したほうがいい。
例え、親蟲がいても、関係ない。
親蟲は、必ず滅するし、灯花を救い出す。
天狼は、そう思いながら前を向いた。
私達は、廊下を歩いていると、掲示板を見つけた。
病内の地図が掲示されていた。
これは助かる…
手術室へと向かいたいが、病内のどこにあるのかはわからなかった。
手術室は、どうやら複数あるみたいだ。
第1手術室~第3手術室がある。
そのうちのどれかだろう。
天狼は、なみを抱き上げ、地図を見せた。
「なみ、どこの手術室なんだ?教えてくれ」
なみは、まだ地図の見方がわからなかったらしい。
なみは少しうなった。
「わかんない…」
「…そうか」
天狼は、なみに言った。
「てんとう虫がいた所は、たかい所?それとも、ひくい所?」
「う…ん、ひくい所?」
「なら、1階に向かうとしょう」
天狼は、なみを抱き上げたまま、階段へと向かい1階へと下った。
天狼は、なみのカンを頼りに進むことにした。
それに、幽世は、歪んでいる。
その通りにその場所があるとは、思えない。
天狼となみは、1階の手術室の前に来た。
「しゅじゅつしつ!」
なみがそう言うと、天狼は、なみを褒めた。
「言えるようになったな。えらいぞ」
天狼は、なみの頭をひと撫でした。
なみは、天狼に褒められて嬉しそうだった。
そんな会話のあと、なみは気づいた。
天狼は、手術室の前で止まり、入ろうとはしなかった。
「はいらないの?」
なみがそう言っても、天狼は動かなかった。
「なみ。ここは、はずれだ」
親蟲の気配がない。
それに、入った所で罠がある。
大量の黒蟲のにおいが手術室から漂っている。
「どうして、わかるの?」
なみが不思議そうに言って来た。
天狼は、なみを抱き直して言った。
「なみ。かくれんぼは、かくれるだけが遊びじゃないぞ」
「うん?」
「かくれるだけでは、すぐに見つかってしまうだろう?だから、おとりを使って時間を稼ぐんだ。鬼があきらめるまで、かくれ続けるのが勝ちだろう?」
「うーん…」
「なみには、ちょっと難しかったか?」
「なんとなく、わかったような…うーん、わかんない」
天狼は、ふと笑い、なみの頭を撫でた。
「なみは、かくれても見つけてほしいのだな?」
「うん!」
「そうか…なみは、それでいい」
天狼は、なみの温かさを感じた。
とても、良い子だ。
だけど…
天狼は、少し寂しく感じた。
その場を一時してから、天狼は手術室からゆっくり離れた。
天狼は、手術室の扉を凝視しながら、一歩ずつ離れた。
私達が罠に引っかからなかったのが気にくわなかったせいなのか、分からないが、黒蟲たちが激しく蠢いているのがわかった。
「来る…」
だとしたら、どこへ向かう?
1階の手術室は、はずれだ。
その他の手術室も、きっとはずれだ。
だとすると…
隠している場所がある。
例えば、普段行かない場所だ。
行かない所、行きたくない所。
……地下か。
病内の地図に載っていた。
B1階。
「とりあえず、地下へ向かうか…」
天狼は、道を決めた。
バァン!
大きな音を立てて、手術室の扉が一気に開いた。
大量の黒蟲たちがなだれ込んできた。
天狼は、なみを抱えながら、大太刀を構えた。
黒蟲の群れが天狼たちに襲いかかって来た。
天狼は、大太刀を大きく振り下ろし、断ち切った。
黒蟲の群れが真っ二つに割れて散った。
次が来る前に、向かうとしよう。




