久々の学校。
久々に袖を通す制服は、なんだか肌触りが悪い。
無地の制服は己の地味さを引きだてる。
ため息交じりに身支度をする。
世界滅んでくれないかなー
隕石学校に降ってくれないかなー
そんなことを考えながら、ありったけの教科書をカバンに詰めて部屋を出る。
教科書を持って行ったって結果は変わらないだろうけど、ちょっとした意地。
あきらめろ!空白は埋まらないぞ!
教科書からそう言われているような重みが肩にかかる。
私のそんな姿に母は、少し心配そうな顔だった。
「いってきます」
ぼそりと小さく言うと母は聞こえていたらしい。
「いってらっしゃい!」
力強い返事が帰ってきた。
地獄耳か。
今日は、期末テストの日だ。
学校はさぼってもテストは受けないといけない。
ため息をつきながらの登校となった。
学校に着くと、重い空気を吸う。
同じ制服を着ても、こんなに違うのだろうか。
周りの女子は、なんだかキラキラしていて明るい。
制服を崩して着ていているのに軽やかで爽やかだ。
それに比べて私は本当に地味だ。
制服を崩す度胸も、なければ明るく振り舞うこともできない。
こんな姿を天狼さんに見られたくないな。
彼は、こんな姿をきっと幻滅するだろう。
天狼さんにもう一度会いたいけれど、会っても気づいてもらえないんじゃないのか?
それどころか、もし気づいても無視するんじゃないのか?
そうだったら、まるで灰かぶりのようだ。
あの合コンは、お城の舞踏会で魔法使いは姉で王子さまは天狼さん。
シンデレラでの物語は、王子様はガラスを靴を手掛かりにシンデレラを探し再会を果たすが、このシンデレラの物語はバットエンドである。
まず、王子様は灰かぶりを探しません。
そして、王子様は魔法使いを使ってあの夜の事をなかったことにしたのです。
分岐はどこで間違った。
天狼さんと仲良くできたと思っている。
彼氏になれなくても、友達として親しくなりたかった。
まさかあの形でお別れになってしまって悲しい。
せめて、私の告白を聞いてからさよならしてほしい。
一目ぼれしました。
好きです。
あの化け物から助けてくれてありがとう!
そう言いたかったな…
教室に入ると、楽しく会話をしていた場が一瞬凍った。
冷たい視線を感じる。
逃げ出したい思いを隠して、一歩ずつ席に向かう。
久々の自分の席は、プリントが何枚も入っていた。
私は、そのプリントをそのままカバンに突っ込んだ。
そして、そのまま机に突っ伏す。
プリントがぐしゃぐしゃになってもかまわない。
早く顔を隠したかった。
泣きそうな顔を見られたくなかった。
少し時間が経つとチャイムが鳴った。
教室に担任が入る音がした。
「皆、席についてくれ」
随分と先生は美声で…
顔を上げると、なんて美形な人が教卓に立っているのだろうか。
てんろうさん…?
顔の作りは天狼さんそっくりだった。
銀色の獣耳つきの長い髪ではなく、漆黒の短髪で獣耳がついていない。
獣ような眼で夜明けの色をした紫色の瞳は、凛とした人の眼をしていて色は黒だった。
体つきは、天狼さんと変わらないと思う。
線が細くて筋肉がしっかりしているとなんとなくわかった。
白の袴姿だったが黒のスーツ姿。
すらりとした脚の線が見えた。
銀色の尻尾はついていなかった。
天狼さんは人狼のコスプレをしていた。
素の姿がこちらなら話がわかる。
天狼さんだよね。
声を出そうとしたら、その声を遮るように黄色い声が上がった。
「せんせーい!今日もめっちゃかっこいい!」
「きゃあー!おはようございます!」
「せんせい!おはよ!きゃあー!」
「先生はよ!」
きゃあきゃあと叫ぶ女子。
はしゃぐ男子。
クラスが一気に盛り上がる。
この賑わいに、ついて行けず縮こまる自分がいた。
「ああ、おはよう。ホームルームを始める」
天狼さんと一緒の声で出席を取り始めた。
これはどうこと?
いつから担任変わった?
あれ天狼さんだよね。
夢?
願望が出てきたのか?
寝ぼけているのわたし!
てか、天狼さん素の姿めっっちゃーかっこいいぃー!
「朝峰…朝峰、朝峰灯花!」
天狼さんと目が合った。
いつの間にか天狼さんは私の目の前に来ていた。
「大丈夫か、朝峰」
様子を伺うようにのぞき込まれた。
間近の天狼さんに驚いて、おかしな声が出た。
「ぴぃあぁ」
同時に身体ものけぞってしまった。
そんなまぬけな姿をみんなに見られてしまい、クラスの笑いを取る形となった。
「すまない、驚かせてしまったな」
天狼さんは優しく言ってくれるが私はそれどころではない。
やばい特急でお家帰りたい。
うわ泣きそう…
帰りたい。
顔を隠すように俯く。
先生は、その様子を見て少しばつが悪そうに次の名前を呼んだ。
天狼さんに変なとこ見られた!
ううぅ帰りたい。
お家帰りたい。
ピンポンダッシュ並みに帰りたい。
そうこう悩んでいるうちにホームルームが終わってしまった。
天狼さんに話しかけようと思ったが、やめた。
天狼さんに囲む防御壁は触れると危険なので近づけなかった。
このクラスの女子って、結構キラキラしているね。
輝いているね!
生き生きしてるね!
天狼さんは、そんな生徒たちに一人一人きちんと話をしていた。
私が知っている天狼さんのまんまだ。
穏やかで優しくて誰にでも真剣に話を聞いてくれて、さっきだって私の事笑わなかったし、極めつけにイケメンだし。
すると、一瞬だけ目があった。
ビクっと肩が上がった。
天狼さんは、チャイムがなると女子たちに一言言って出て行ってしまった。
テストの出来は、空白すげぇと自分でも関心するほどだった。
これがほんとの実力テストってやつかな!
全力で開き直るしかない。




