ホワイトクリスマス。(その9)
天狼は、怒気を押さえた。
この場で、怒りを出すのは冷静さを失うからだ。
灯花を神楽夜に連れて行かれた。
もう一人の私に…
天狼は、顔をしかめた。
パジャマ姿の少女は、天狼の着物の袖を引っ張った。
「みつけにいこう…」
少女の言う通りだと天狼は思った。
この場にいても、何も解決しない…
まずは、行動しなければ。
「わかった…」
天狼は、少女の目線に合わせて屈み、名前を聞いた。
「お前の名は?」
「わたし、なみ…」
「そうか…では、なみ。一緒に灯花を見つけよう」
天狼は、少女を抱き上げた。
幼い灯花と同い年ぐらいの子供だ。
何かを探すなら、子供の目線にならないと見つけられないことがある。
「何か見つけたら、教えてくれ…」
灯花、無事でいてくれ…
必ず、見つける。
天狼は、廊下へと出た。
黒蟲したちが蠢く音が廊下に響いた。
天井には、びっしりと黒蟲が湧いていた。
天狼は、そっと少女の頭を撫でて言った。
「出来るだけ、上を見ないでくれ…」
なみは、黒蟲に驚かず、大人しく天狼に掴まっていた。
本来ならば、私のような存在は、障りがある。
子供や感がいい者には、恐れられる。
今のこの子に、障りがないのは、普通の子供ではないからだろう。
天狼は、廊下を歩いた。
神経を研ぎらせながら、いずれ襲ってくる黒蟲たちに、大太刀を構えた。
なみは、そんな天狼に気にもしなかった。
むしろ、天狼に気を許しているようだ。
「あっ!」
なみが、何かを見つけたようだ。
「どうした?」
天狼が聞くと、なみはバタバタともがいた。
天狼は、なみをそっと降ろした。
なみは、廊下を駆け出し、ある病室の中へと入って行ってしまった。
天狼は急いで、なみのあとを追った。
病室の中へと入ると、ベットの上に座るなみがいた。
なみは、画用紙を持っていた。
「みてみて!なみが描いたの!」
天狼は、なみが描いた画用紙を見て、既知を感じた。
この絵は、幽世に入る前に、国光と一緒に見た絵だった。
あの絵は、なみが描いた絵だったのだな…
「よく描けているな…この花柄の服を着ている人は、なみか?」
「うん!」
「そうか…実に可愛らしい。では、この黒いものは何かな?」
「これはねーでっかいてんとう虫なの!」
「ほう…では、このてんとう虫は見たことがあるのか?」
念のために聞いておこうと天狼は思った。
少女が描いた、てんとう虫は異常なほど、黒く塗りつぶすように描かれていた。
「うん!」
「………では、どこで見たのだ?」
「うんとね…えーと…どこかな?」
「よく、思い出してくれぬか?お前は、いい絵を描いているからな…どこか知りたい。」
天狼は、なみの頭を撫でた。
なみは、嬉しそうに笑った。
「うんとね…どこかな?うーん?」
やはり、思い出すのは難しいか…
天狼が、諦めようとした時。
「あっ!」
「…何か思い出したのか?」
「しゅじゅじゅつ!」
「しゅじゅじゅつ?」
「しゅじゅじゅつにいたよ!」
もしかして、手術室のことかな?
「なみ、しゅじゅつしつだ」
「しゅじゅじゅちつ!」
「しゅじゅつしつ」
「しゅうじゅつちつ!」
どうやら、なみは、さ行が言いにくいらしい…
「しゅ、じゅつ、しつ」
「「しゅ、じゅつ、しつ」」
もう少しで、言えるはず…
「しゅじゅつしつ」
「しゅじゅうちつ」
「練習しながら、手術室に向かうとするか…」
天狼は、なみの手を取った。
「さて、灯花を探す続きをしよう」
天狼となみは、発音の練習しながら、手術室へと向かった。




