ブラッククリスマス。(その12)
深い霧を抜けた先は、真っ黒いコンクリートの地面だった。
私達は、そのコンクリートに真っ逆さまになって落ちていた。
死ぬうううー!
地面に叩きつけられると思った時、女性はくるりと一回転して、地面に軽々と着地した。
へっうそ…
すんなりと痛みもなく着地した。
ビルから落ちて来た所は、よく整備された歩道だった。
いきなり降って来た私達を、不思議そうに見てくる人や普通に素通りする人たちがいた。
落ちて来たビルを見ると、私達が入った廃ビルがそこにあった。
…帰ってこれた?
街並みは、クリスマスの飾りつけで明るく、お店のクリスマスソングが聴こえて来た。
一気に、力が抜けた。
帰ってこれたんだ…
そのつかの間、パトカーのサイレンが鳴った。
「えっ!えっ!」
きょろきょろとしていたら、女性の焦った様子が見えた。
「ごらああー!美鈴!」
パトカーのマイクで女性の名前を呼ぶ男性がいた。
男性がパトカーから降りると、美鈴さんは私達を置いて走り去ってしまった。
微小髭を生やした男性は、パトカーから刀を取り出すとそれを勢いよく投げた。
「逃すか!」
美鈴さんの足元に当たり、女性にしては派手な転び方をした。
「…………。」
私は、ポカンと口が開いたまま固まってしまった。
真夜のうめいた声がして、はっとした。
真夜が危ない状態だったんだ!早く病院に…
それに…美鈴さんも病院に行った方がいいかも。
転んで戻って来た美鈴さんは、鼻から血がぽたぽたと流していた。
美鈴さん、涙目だった。
微小髭を生やした男性は、懐からタバコを取り出し咥えると美鈴さんに顎で指示を出した。
美鈴さんは懐から、ライターを取り出し男性のタバコに火を点けた。
美鈴さーん!
男性は、腰を下ろすと真夜の襟首を掴んだ。
「…ちょっと!何すんですか!」
乱暴に扱って怒りを覚えた。
「小娘。こいつのご主人様か?」
「違います!友達です!乱暴に触らないで!」
べしっと男性の手を叩いた。
「だったら、こいつの中にある蟲を放置してもいいのか?」
「それって…どういうこと?」
「聞いたまんま」
男は、真夜の制服を肩まで無理やり脱がせて、傷をさらけ出した。
ぎちぎちと肉を噛むような音がした。
「…っ!」
男は、胸ポケットからポケットナイフを取り出した。
「おい、美鈴。車からブルーシート持ってこい。あと布もだ」
美鈴さんは、言われた通りに行動した。
パトカーに乗っていた警察の人は、一般人の誘導をしていた。
公共のど真ん中で、こんなことしたら目立つに決まっていた。
警察の人と美鈴さんで、ブルーシートで私達を隠した。
真夜の傷は、以前、首無し男につけられた傷だ。
まさか、蟲がいたなんて…
真夜は、恨めしそうに男を睨んだ。
どうやら、意識ははっきりしているようだ。
「このような…こと!…屈辱ですわ…くっ!」
「はいはい」
男は、タバコを咥えながら、真夜の傷にナイフを刺しこむんだ。
「ぐうっ!」
真夜は、余りの痛みにうずくまってしまう。
「押さえとけ!」
怒鳴るように言った。
私は、真夜をしっかり押さえた。
「真夜!頑張って!」
真夜が痛みで叫び出し、暴れ出す真夜を押さえた。
そして、真夜から異常に肥大した黒毛虫が出て来た。
真夜は、余りの痛みで気を失ってしまった。
「真夜!」
男は、黒毛虫を引きずり出すと咥えていたタバコで焼き潰した。
「ギチギチィ」
肥大した黒毛虫はバタバタとのたうちまわったが、タバコの火が青い火へと変わり一瞬で黒毛虫を灰にした。
美鈴さんが持って来た布で、真夜をしっかりと手当をした。
「あの…真夜は大丈夫なんですか?」
「さあな?あとはこいつ次第だろ」
「…………。」
「にしても、たいした女だよ。デカかったしな、相当我慢してたんじゃないか?」
俯いていると、頭をガシガシと撫でられた。
「…っ!」
「美鈴!っていつまで鼻血出してんだ。さっさと拭け!」
男は、真夜を抱き上げて、パトカーに乗せた。
「俺は、先にこいつを連れて行く。美鈴とお前は後でな」
男はそう言い残して、パトカーに乗って行ってしまった。
美鈴さんは、ポケットティッシュで鼻に詰めながらその場に立っていた。
私もどうしたらいいのか分からず、突っ立ったままその場を過ごしていた。
しばらくして、空気が白いことを気づいた。
「あっ…雪?」
どおりで息が白いわけだ。
「ってことは…」
「ぼばいとぐりずまず」
美鈴さんが初めて喋った。
残念なことに鼻にティッシュを詰めたまま喋ってしまい、上手く聞き取れなかった。
「えっと…」
「ぼばいとぐりずまず!」
「…すみません、上手く聞き取れないです」
「ぼばいとぐりずまず!」
「…取ってもらえますか?それ…そう、それ!」
美鈴さんは鼻ティッシュを取った。
「ホワイトクリスマス!」
「はい、そうですね!」
……なんだこの会話。
取り合えず、お礼言った方がいいよね。
「あの…」
「なに?」
「その、助けてくれて、ありがとうございました」
「別にいい」
「そう、そうですか…」
淡泊な人だな…
すると、再びパトカーのサイレンが響き、私達の前で何台もパトカーが通り去って行った。
どこかで、事件があったのかな…
誰かが居なくなる事件とか…
「あっそういえば!私の友達が先に幽世から戻っているはずなんです!知りませんか?」
「知らない」
「あっ…」
「でも、連絡ぐらい取れる…待ってて」
美鈴さんは携帯を取り出して電話を掛けた。
しばらくして、私に携帯を渡して来た。
携帯を受け取り、耳に当てた。
「もしもし?」
「朝峰!大丈夫か!」
「この声、川村君!無事なの?」
「ああ、俺は大丈夫だ!それでお前は?」
よかった…川村君は生きていた。
正直とても不安だった。
本当に良かった。
「私は大丈夫、無事幽世から出られたよ!」
電話越しに川村君の安堵の息が聴こえた。
「そうか、まや子は?」
「真夜は、身体の中に蟲がいたの…それでさっき取ってもらって、パトカーに連れていかれちゃった。もう大丈夫だと思うけど…」
「まや子が…くそまや子!」
「怒らないで、真夜すごく頑張ったよ!一人で私達を守ってくれた」
「そうだな…」
真夜の頑張りが私達を救ってくれた。
感謝しても仕切れないぐらいに。
「それでなんだけど…」
「なんだよ、朝峰?」
「ごめんね…突き落として…」
「……ああ、許さない」
「…っ!」
やっぱり…
「でも、今度ジュースおごってくれたら許す。あと、まや子もな!」
「…いいの?それで…」
「じゃあ、飯だ飯!飯を三人で食いに行くってことで!」
「本当にいいの?」
「それ以外思いつかないしな!お前が気にするって言うなら、三人で飯を食うそれでいい!」
「わかった、そうするね!」
良かった…まだ友達でいられるんだね。
そう思った時、歩道の向かい側に黒スーツの人狼が立っていた。
銀色の人狼がこちらに向かって来ていた。
私は、その姿を見た時。
耳から携帯を外してしまった。
せっかく、川村君が喋ってくれているのに、私はその人狼に見とれてしまった。
静かに降る雪が人狼を美しく飾っていた。
「……天狼さん?」
私が好きな人がそこにいた。
雨すご!風すご!ただいま大雨中ー!(;'∀')やべえ!




