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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第ニ章 えっ?友達ですか!天狼さん。
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ブラッククリスマス。(その11)

 深い霧の中、黒スーツの女性は首無し男と対峙していた。

一つに束ねた長い黒髪をひるがえしながら、首無し男に蹴りを一撃食らわせていた。

首無し男は、何度も地面に体当たりしながら転がった。

この女性は、ずっと素手で蟲たちと対峙していて、傷一つ負わずに戦っていた。

黒毛虫の群れがあっても、腕を群れの中に突っ込んで、黒毛虫たちを掻っ切った。

女性のスーツに何か光る物を見つけた。

黒のネクタイに十字のプローチが付けられていた。

それが、時々反射して霧の中でもどこにいるのかすぐにわかった。

私は、しばらくその光景をずっと見ていたが、隣で横たわっている真夜がうめき声を発して気が付いた。

「真夜!大丈夫?」

「……うっ灯花ちゃん…」

真夜はさっきよりも血の気が失せていた。

「真夜!しっかりして!今、誰か変わらないけど女の人が助けに来たよ!」

「女性…もしかして…美鈴みすずお姉さま?」

「えっわかるの?」

「…微かに匂いがしますの…」

「真夜、もう無理しちゃ駄目!」

真夜の体調が良くない。

真夜の身体に触れると体温が下がっているのが分かった。

私は、真夜に羽織を掛けた。

「真夜…」

真夜の身体をさすって体温を上げる。

出口はもうすぐだ。

再び真夜を支えて、歩き出そうとした時。

黒毛虫の残党が私達を襲いかかって来た。

だけど、黒毛虫は時間が止まったようにピタリと動かなくなった。

凍ったように固まっていた。

ピキピキとガラスのひび割れる音が響いて来た。

すると、だんだんと砕けて地面に落ちた。

戦っていた女性を見ると、女性を囲って大きな氷の塊が出来ていた。

氷の中は、黒毛虫が大量に凍っていた。

どうやら、女性は私達を助けてくれたようだ。

「お姉さまの、お力ですわ…氷鬼ひょうきですの…鬼火おにびと違って一帯を氷つかせる術ですの」

氷鬼ひょうき…」

女性は、あたり一帯の黒毛虫を排除したようだった。

でも、地面からじわりじわりと湧いてくるようだった。

首無し男は、何度でも立ち上がった。

女性は、容赦なく首無し男の腕を引きちぎった。

「…っ!」

私は、背筋が凍った。

だんだん首無し男のほうが可哀そうになって来た。

さっきからタコ殴りだ。

すると、どこからかノイズの音が聞こえて来た。

探してみるとそれは、自分の制服の懐に入っていた。

「なんで、これが…」

懐から出て来たのは、ボイスレコーダーだった。

ジリジリとノイズ音が鳴り響いていた。

真夜から、受け取ったあと机に返したはずだった。

なのに、なぜこれが?

すると、ノイズ音が大きく鳴り響いて来た。

ノイズ音と共に子供の声と大人の声が聞こえて来た。

「ジッジジー、--、ハッピーバースデートゥルーハッピーバースデートゥルー!」

誕生日の歌?

「ハッピーバースデートゥルー!ジジッジハッピーバースデートゥルー!」

「ハッピーバースデー!ジッジジー、-、」

「ハッピーバースデー!パパ!おめでとう!ジジッジー、#$%&‘+*L>ジジッジ」

ノイズが激しくなってそこで途切れてしまった。

「…………。」

このボイスレコーダーには、ちゃんと大事な人の声が残っていた。

あんな社内の声ではなく、本当は幸せの声を録っていたんだね。

ふと、何かが這いずる音がした。

それは、あの女性がもぎ取った腕が地面を引きずって動いていた。

よいしょ、よいしょと少しずつこちらに向かっていた。

「…………。」

本来ならば、腕だけになっても警戒しなければならないけれど。

私は、その腕に近寄った。

「この、ボイスレコーダーは、貴方の大事な人の声が入っていました。…お返します」

腕の目の前に、ボイスレコーダーを置いた。

「勝手に持ち出してごめんさい。」

私は、静かにその場を離れた。

彼は、しっかりとボイスレコーダーを手にした。

力を込めて握りしめていた。

彼にとって、どんなに大事な物だったか知らされた。

すると突然、視界が灰色になった。

「えっ?」

目の前にあった腕は、色を失っていた。

「あっ!」

首無し男は、ぼろぼろと灰の砂へ変わっていった。

永遠に動き出す死体が崩れたとなると、その核が倒されたということ。

天狼さん…膿蟲うじを倒したのかな?

無限に湧き出す黒毛虫の群れはすっかりいなくなり、屋上には、大量の灰だけが残されていた。

終わったの?

そう思った矢先に、屋上の地面が割れた。

地震があったように、派手に揺れた。

「きゃあ!なっなっ!」

バランスを崩して、尻餅をついた。

地面がどんどん割れていく。

これって!どいうこと!

いきなり、ここが崩れるなんて!

わあああ!

地面が目の前で割れて、その衝撃で社内にあった大量の書類が上へと舞った。

パラパラとまき上がって、雪のように降って来た。

私は、割れた地面に落ちそうになった。

「やばい!やばい!」

すると、急に後ろから担ぎ上げられた。

黒スーツの女性だった。

「わあ!」

女性は、ひょいひょいと地面を蹴って行った。

そして、倒れている真夜を抱き上げた。

この人すごい!

細い腕なのに、すごい力持ちだった。

そう思った瞬間。

舌をむぐらいの勢いで走り、さび付いた柵から、私達は落ちた。

私は、崩れていくビルを見ながら深い霧の中へ落ちて行った。


 

 天狼は、膿蟲うじを見つけた。

あらゆるビルの屋上を駆けて行って、ようやく見つけた。

膿蟲は、少女が持っていた。

少女は、まだ十代の娘だった。

「何よ!あんたら!パパは渡さないんだから!」

少女は、屋上の隅でずっと隠れていた。

大きめの黒いフードを被って、人の目を忍んでここに来たのだろう。

少女を囲んでオオカミ達はうなり出した。

少女が持っている首は、間違いなく膿蟲が入っている死体だ。

私は、オオカミ達に指示を出した。

「お前たち、ここは下がれ」

「ですが!」

「良い、相手は子供だ」

「…幼い子供だとしても、相手は親蟲おやむしと契った人間です。お気を付けを…」

「わかった…」

オオカミ達は警戒しながらさがって行った。

この少女は、普通の人間だ。

むしに寄生されていない人ただの少女だ。

私は、少女に近づいた。

「こないで!知ってるから!お前は、人食い狼だって!」

「…そうだ、私は人食い狼だ」

「だったら!こないで!」

「だが、今の私は人を救う狼だ」

「うそだ!」

少女は震えながら、ナイフを取り出して威嚇いかくしてきた。

「うそではない」

「うそよ!」

「なぜなら、私はお前を救いたい」

「…っ!」

「うそだうそだうそだ!じゃあ何で!パパは死んだの!」

少女は泣きじゃくりながら訴えて来た。

「パパはどうして死んだの!どうしてパパが死ななきゃいけないの!みんなが殺したからだよ!」

「…………。」

「パパは、首を吊って死んだの!会社で!遺書まで残して!」

「…………。」

「何で!パパが死ななきゃいけなかったの!教えてよ!人食い狼!」

「……それは、私にも知らぬことだ」

「ほらね、やっぱりお前は何もできない。パパは渡さないから!絶対に!」

私は、少女に目の前まで近づいた。

「近づくな!この化け物!これで刺すから!殺すから!」

少女は、勢いよく私を刺した。

「……っ!」

私は、そっと少女を抱き寄せた。

「お前の父がどうして死んだのかは、私には分からぬ。でも、お前が父を大事に思っている事は分かる」

「っくう!」

「父が好きか?」

「…っうん!」

「なら、その父がお前を人殺しにさせたのか?」

「ちがうちがう!これは!ひながっやったの!ひなだけがやったの!ママは何も知らない!だから!」

「わかった。わかった…」

少女を落ち着くように背中を撫でて、ゆっくり放した。

「ならば、ひな。父を真に思うのならこれは、いらんな?」

私は、胸に刺さっているナイフを取り出して伺った。

ナイフには、血がべったりとついていた。

「…うん」

「いい子だ」

私は、ナイフをぽいっと投げ捨てた。

すると、少女の手にしていた首が動き出した。

「パパ?」

虚ろの首が突然、涙を流した。

それを見た、少女は首を抱きしめて泣いた。

「パパっ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

こちらが焦ってしまった。

まさか、死人が涙を流すなど…

向こうで何かかあったのかもしれない。

「……ひな、父を眠らせよう…もうこれ以上ここにとどまっては、お前を愛する父が父ではなくなる。その涙を見たのなら、それがお前の父の痛みであり、嘆きだ。もう、楽にさせてやってくれまいか?」

私は、さとすように伺った。

「………うん。パパ、ごめんね…こんな娘でごめんなさい!」

少女は、泣きじゃくりながら、ゆっくりと首を差し出してきた。

私は、懐にある小太刀を取り出した。

首の左耳の中に寄生している膿蟲を斬った。

すると、首はゆっくりと灰へと変わって行った。

崩れて、少女の手から落ちた。

「…………あ、り、が、とう…」

それは、父親の魂からの言葉だった。

最後の形が崩れる時、薄っすらと口元が笑った。

それは、少女の目にも入ったようだった。

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