ブラッククリスマス。(その10)
廃ビルの屋上で、夜空を見上げる銀色の人狼が立っていた。
天狼は、白い息を吐きながら呟いた。
「今夜は、降りそうだな…」
傍に控えているオオカミが鼻を押し付けて来た。
「道は、未だに見つからないのか?」
「…はい、先行して、美鈴を筆頭に幽世を進行しております」
「美鈴が?」
「はい」
「こちらに来ているなら、一言ぐらい言えばよいものを」
「なにせ、あのじゃじゃ馬娘ですので…」
「わかった、後で詳しい話を聞くとしょう。私もそろそろ出向く。降りだす前に終わらせたい。」
学校で知らせを聞いてすぐに参ったが、既に幽世の道は閉ざされてしまった。
灯花たちは、幽世という空間に閉じ込められてしまったのだ。
この廃ビルをどんなに探し回っていても、幽世へと続く道はない。
美鈴のことだ、無茶をする。
美鈴は、無理やり幽世をこじ開けて入ったのだろう。
下手をすると、己自信も幽世に取り込まれるというのに…
全く、あの娘は…
しかし、踏ん切りがついた。
もう待っていられん。
廃ビルの中へ再び入ろうとすると、オオカミたちが騒ぎ出した。
「天狼様!」
「なにがあった?」
「急に人が落ちて来まして…」
「それで、その者は?」
「私どもが、保護いたしました。どうやら、幽世から出て来たようです」
オオカミたちが、その者を囲んでいた。
輪の中に入ると、見知った者がそこにいた。
「お前は…」
「なんだよ!また犬っころが!」
天狼は、その者に近づいた。
「川村、無事でよかった」
川村は、目を見開いて驚いていた。
「お、お前…久遠、先生?」
「ああ、その通りだ。よくわかったな」
「えっコスプレ?」
銀狼の長い髪に獣耳に尻尾を生やす者なんて、そんなに珍しいのだろうか。
「そんなことより、川村。灯花…いや、朝峰はどうした?一緒ではないのか?」
「ああー!そうだ!朝峰に俺、落とされたんだ。俺、死んだのか!ってここどこだよ!ここは、天国?」
川村は、動揺していた。
無理もない。
訳が分からない世界に迷いこんで、どちらが現実か分からなくなることだってある。
「落ち着け。お前は、生きているぞ。そして、ここは現実だ。それで、朝峰はどうした?」
「あっああ…俺は、朝峰に屋上から落とされたんだ。出口だからって…それっきりだ」
「そうか、灯花が…それで、もう一人いなかったか?お前たちと同じ生徒だ」
「生徒?ああ、まや子か。まや子は、あの蟲どもと戦って…えっ朝峰とまや子は?」
「どうやら、まだ、あちらの世界のようだ」
「…なんだよそれ!俺だけ戻って来たのかよ!…三人で脱出するんじゃないのかよ!ちきしょー!」
川村は、悔しそうに叫んでいた。
…川村と共に戻って来れられなかったのは、理由があるのかもしれない。
あちらとこちらでは、流れる時間が違う。
あまり、時間がないな。
「国光に、あの者の怪我の手当てをするように伝えてくれ」
「承知」
傍に控えていたオオカミは姿を消した。
その場を離れようとすると川村が何かを言ってきた。
「おい!天狼って言う奴、知っているか?」
この場にいたオオカミ達が唸り始めた。
「よせ」
オオカミ達をいさめて、改めて聞いた。
「天狼に何か用か?」
「朝峰に言われたんだよ!膿蟲は幽世にいないって!だから!天狼ってどこのどんな奴か知っているか?」
川村は、怪我をしているのを関わらず動こうとしていた。
「……川村、お前の言伝確かに受け取った」
「えっ?なんだよ、それ?」
「私は、天狼。このオオカミ達の神祖。天狼である。」
「…えっ?」
「お前たち、行くぞ。太刀を持て」
一斉にオオカミ達は、動き出した。
「我らの敵は、この現世にある。探せ!」
「「「「承知」」」」
オオカミ達は、散っていった。
川村は、その光景をただぼーぜんとしていた。




