ブラッククリスマス。(その9)
私は、友達にしてはいけないことをした。
川村君が無事でも、許されることではない。
「ごめんね…」
初めての男友達だったけど…
やっぱり私は、貴方の友達にふさわしくなかった。
霧で何も見えない下を見下ろして、その場を離れた。
この世界には、膿蟲はいない。
屋上は白い霧で覆われているし、もしかしたら探せばあるかもしれない。
でも私は、この世界には膿蟲はいないと思った。
前に襲われた時、膿蟲は幽世の外まで追ってきた。
だったら、今回も幽世の外にいるんじゃないかと思った。
可能性はあると思う。
この考えが正しくなかったら、私のただの妄想だ。
それに巻き込んだ、川村君と天狼さんにはとても悪いことをしたと思っている。
やっぱり、私はバカだな…
自分がやったことに後悔しつつあった。
私は、霧をかき分けて進んだ。
早く真夜の所に戻って、出口があったと伝えなければならなかった。
そして、一緒にここから脱出しよう。
霧の中を走っていると、青い炎が一瞬だがかすれるように目の前を走った。
首無しライダーと真夜が今でも戦っているのだろう。
首無しライダーのエンジン音が霧の中から響いてくる。
私は、出来る限り大声で真夜を呼んだ。
「真夜!」
返事が返ってこなかった。
私は、真夜を探した。
首無しライダーのエンジン音がだんだんと大きく響いて来ていた。
この霧の中では、位置や場所がわからない。
いつ襲われるかもわからなかった。
「真夜!」
再び名前を呼ぶが返事がない。
嫌な予感が脳裏によぎる。
真夜は既に傷を負っていた。
血の力で立っていられたが、果たしてどこまで持つのだろうか?
りんさんみたいに、大怪我を負っていないといいんだけど…
私は、とにかく真夜を探した。
「真夜!」
すると、霧の中から黒い影が近づいて来ていた。
まずい!轢かれる!
そう思った時、目の前で青い炎が竜巻のように立ち昇った。
強い熱気と風で首無しライダーは吹き飛んだ。
聞いたことがある声がした。
「貴方の相手はわたくしよ!」
真夜が私の目の前に立っていた。
「真夜!」
「ごめんなさい、駆けつけるのを少し遅れてしましましたわ」
真夜の様子は、首無しライダーに引っかけられた傷があちこちにあった。
息もだいぶ上がっているようだった。
「ううん、真夜。私のことより傷が…」
「お気になさらず…川村君のお姿がみあたらないのですが…」
「川村君はさきに帰したよ、きっと無事でいると思う」
「それでは、出口は見つかったのですね。それは良かったですわ」
真夜から、安堵の吐息が漏れた。
「真夜もここから!」
「そうしたいのですが…どうやら、わたくしたちをここから逃さない気でいらっしゃるご様子ですわ」
首無しライダーは、再びエンジン音を鳴らした。
そんな、真夜はこんなに怪我しているのに…
「わたくしたちがここから無事出ても、あれを放置すると後々面倒なことになりますの。ここで食い止めますわ」
真夜は、そう言って自分の傷口に血がにじむほど掴んだ。
「真夜…」
真夜は、血で濡れた手を掲げて言った。
「わたくしから、しばし離れてくださいまし!」
私は、言われた通りに離れた。
一体、真夜は何をするのだろう。
そこに、再び首無しライダーがこちらに向かって走って来た。
大量の黒毛虫を引き連れて、今度こそ私達を轢き殺すつもりだ。
真夜の血で濡れた手から青い炎が燃え上がった。
「ヒイラギ!わたくしの血肉で燃えなさい!」
青い炎が形となって、小さな狐の姿になった。
子狐は、青い炎をまき散らした。
火の粉がこちらまで来て、焦った。
私は、出来るだけ下がって真夜を見守った。
今出来ることはそれしかなかった。
先ほどの炎と比べて火力が数段に違い、こちらまで焼き焦げになりそうだった。
私が焼き焦げにならないのは、真夜がそうならないように上手くコントロールしているのかもしれない。
襲いかかってきた首無しライダーが、青い炎で一気に燃え上がった。
炎を消そうと、のたうちまわっていたがその動きはだんだんと鈍くなっていった。
黒毛虫が燃え上がって、大量の灰が屋上に降った。
傍にいた、青い炎の子狐もゆっくりと消えて行った。
青い炎の勢いが衰えた時には、真夜は膝を付いていた。
「真夜!」
真夜は血の気を失せていて、今でも倒れそうだった。
「今のうちに…貴方だけでも…」
私は、真夜を支えた。
「一緒に出よう!」
「…………。」
首無しライダーは、無残な姿になっていた。
肉の塊と化していた。
それでも、波打つように動いていた。
やはり、膿蟲を倒さないとこれは終わらない。
そうこうしているうちに、再び黒毛虫が湧き出した。
霧で視界が悪いのに、黒だけははっきりと見えてくる。
どこまでも、地獄を作る世界だ。
急がないと、黒毛虫たちに追いつかれる。
私は、真夜を支えて出来るだけ早く歩いていた。
「申し訳ございません…」
「謝るのはあと!今はしっかり歩いて!」
私達は、霧の奥へと進んで行った。
「わたくしは、本当は…山犬ではないんです」
「えっ?」
「わたくしは、偉そうに言っているのですが…本当は神に仕える巫女でございます…」
「巫女だったの?えっストーカーは?」
「…ストーカーは、わたくしの仕事でございますわ」
職業にストーカーってあったか!
「わたくしは、貴方の監視と護衛を任命されておりました…」
「ええー!」
「不快でしたか?」
「不快って何も、ストーカー自体初めてで、よくわからないんだけど!それに、私にどうして?」
「天狼様から、伺っていませんか?」
天狼さん、何やってるんだ!
「聞いたことないけど…それに、私は守るものでもないと思うけど?」
「そんな、ご軽装を…」
「でも、守ってもらって良かったと思う。だって、この状況だよ!私きっと、とっくの昔に蟲に喰われていたよ。だから、その…守ってくれてありがとう」
なんだか、恥ずかしくなってくる。
「灯花ちゃん…ごっほごほっ!」
真夜は、急に咳き込んだ。
ぽたぽたと血が落ちているのがわかった。
「真夜!」
急がないと…
私は歩みを早めた。
後ろからも、蟲のうごめく音が聞こえる。
一分一秒早く、足を動かさないと。
さび付いた柵が見えて来た。
「真夜、もう少しだよ!がんばって!」
ギチギチギチギチギチ
ギチギチギチギチギチギチ
黒毛虫の群れが、私達の真後ろへと迫って来ていた。
もう少しで、出口だというのに…
私は捕まってしまった。
ぶつぶつぶつぶつ
ぶっつぶつぶつぶつぶつぶつ
首無し男の手が私の頭を掴んだ。
私の頭に蟲が這った。
「……っ!」
ここまでなんて!嫌!
すると、目の前のさび付いた柵に誰かいた。
黒スーツの女性が柵の上に座っていた。
「だれ?」
そう思った瞬間に、黒スーツの女性は私の真横を走った。
長い黒髪を一つに束ねた美しい女性だった。
女性は、私の真後ろの首無し男を素手で掴んで投げ倒した。
「…っ!」
首無し男の縛りが一気に解けて、私は真夜もろともその場に崩れた。
黒毛虫の群れに構うことなく、腕を突っ込んで壁を引き裂くように、黒毛虫たちを切り裂いた。
黒毛虫の群れがパラパラと崩れて落ちて行く。
なんなのこの人…
やっかいな、黒毛虫の群れを素手で引き裂くなんて…
私は、この光景をただ見ていることしかできなかった。
そろそろ、読者を銀なんと一緒に蒸そうかな…|д゜)ちら。




