ブラッククリスマス。(その4)
私達は、無数の黒い毛虫たちの群れに囲まれながら、首が無い男と対峙していた。
長く編み込んだ髪を翻して、彼女はくすりと笑った。
目の前にいる彼女の事を私は知らない。
でも、彼女がまとっているオーラはどこか安心感があった。
だからこそ私は、ここまで彼女について来た。
「朝峰様、ここはわたしくしに」
「うん、気を付けて!」
「ええ、致しますとも」
彼女は、両手を自分のスカートの中に突っ込んだ。
スカートの中から、十手のような三又の武器を取り出した。
両手に三又の武器を構えて、目の前に襲っていた黒毛虫の群れを薙ぎ払った。
私は、青い炎の中で彼女を見守っていた。
「すっすごい…」
彼女は舞っているかのように、攻撃してくる黒毛虫たちをかわしては薙ぎ払っていた。
その間首無し男は、ずっと突っ立ってるままで何もして来なかった。
もしかしたら、今がチャンス?
首無し男の中に膿蟲がいるはず、それを倒せばみんな灰になって終わる。
彼女は、だんだんと首無し男に近づいていた。
「そこね!」
狙いを付けたように、首無し男の胸に三又の武器を刺した。
膿蟲を刺したと思った矢先、首無し男に異変が起きた。
「…っ!」
首無し男の首から突然、大量の黒い煙が噴き出してきた。
「しまっ!ごほっごほっ!」
彼女は強く咳き込んだ。
黒い煙が私の所まで来て、車から出る排気ガスと同じ臭いがした。
あまり吸っていいものではないとすぐにわかった。
彼女もすぐに口を押さえて、これ以上入らないようにしていた。
この空間は、閉じ込められた空間だ。
黒い煙がこの空間を埋め尽くすのはそう時間が掛からなかった。
だんだんと息苦しくなってきた。
これはやばい!
さすがの彼女も息ができなければ、戦うのにも苦戦する。
酸素を欲しさに、黒い煙を吸い込んでしまう。
何度も咳き込んで、めまいを覚えた。
「…くっぐう」
私よりも彼女の方がもろに煙を吸ってしまったようだ。
狼狽えた彼女に、衝撃が走った。
「ぐはっ!」
彼女は投げ飛ばされた。
その時に青い炎の威力も落ちてしまい、黒毛虫の侵入を許してしまう。
私は、彼女に駆け寄った。
血反吐を吐いてぐったりとしていた。
「…しっかりして!お願い!」
声もかすれてうまく喋れなかった。
「おねがい、しっかり、して」
後ろから、黒毛虫の群れが近づいてきていた。
絶体絶命の時に、いきなり白い扉が開いた。
「…っ!」
扉から現れたのは、川村君だった。
「あっ!」
川村君は、私達を見つけるとすぐに駆け寄ってくれた。
「おい!大丈夫か!」
「川村君なんで。」
「説明はいい!ここから出るぞ!」
川村君は、彼女を背負って入って来た扉からこの空間を出て、私もそれに続いた。
私達は、白い扉から出たあと、目に飛び込んだ光景に戸惑いを隠せなかった。
もう、どこにも崩れた廃ビルの姿は無く、電気が点く整った廊下を通る羽目になった。
社内の廊下とも言える、その長い道を私達は走っていた。
途中、息が苦しくて膝を付きそうになったが、川村君が私の手を引っ張って走ってくれた。
「どこか隠れる場所を探そうぜ!」
「でも、どこに?」
川村君は周りを見渡した。
「こっちだ!」
言われた通りに川村君について行った。
川村君は、ある部屋へと入った。
そこは、資料室のような所だった。
大量のファイルが収まれている棚が並べられていた。
川村君は資料室を見渡したあと外の様子を確認しつつ言った。
「一旦、ここでやり過ごそうぜ…」
あの、首無し男と黒毛虫は追ってきては来てはないみたいだ。
でも、あの蟲たちは突然現れたことがある、警戒を解くことはできない。
川村君は背負っている彼女を降ろそうとした。
「なんだ?こいつは…」
背負っている彼女は、オオカミの姿になっていた。
するすると制服が脱げて、オオカミの姿が露わになった。
耳が垂れている黒いオオカミは、始めて見た。
「俺、さっきまで女を担いでいたんだけど!」
「川村君、その子を降ろしてきっと怪我してる」
「おっおう…」
川村君は、ゆっくりとオオカミを降ろした。
怪我のせいか、彼女はぐったりとしていた。
とにかく、止血しないと!
前足の付け根から出血していた。
私は、羽織と制服の上着を脱ごうとすると、川村君が慌てた。
「おい!何してんだ!」
「なにって、止血しないといけないの。布がないから私のシャツを使おうと思って…」
「わかった、わかったから!やめてくれ!俺のを使ってくれ、頼むから」
「うん、わかった」
川村君は制服のシャツを脱いだ。
どうやら、下は黒シャツを着ていたらしい。
私は、止血のためシャツを破いた。
随分と破れやすかった。
彼もこの蟲たちに襲われたのだろう、破れた所がいくつもあった。
私は、すぐに彼女の止血を始めた。
「ああ、そんなんじゃ血は止まんないぞ。巻き方が緩いぞ」
彼はそう言って、私と代わって彼女の止血をした。
「川村君は、大丈夫なの?」
彼は、あちこちに血が付いている箇所がいくつもあった。
「ああ、大丈夫だ。少しばっかりあの虫にかじられただけだ」
至る所にかじられて出血している所があった。
「でも、やっとかないと…」
私は、彼の手を取り、出血していたところを余った布で巻いた。
「おっおう…わりぃな!ってお前もかじられてんじゃん!」
「あっ!」
「俺、こういうの慣れてんだよ」
今度は、私の手を取って布で巻いてくれた。
「…川村君、本当に無事でよかった」
りんさんみたいになるんじゃないかって思っていた。
元気そうで良かった。
「お、おう…」
少し照れたようだった。
「…しっかし大きい犬だな!」
「川村君、その子オオカミだよ」
「うそだあ!オオカミだったらもっと迫力があってさあーこんな弱っちいじゃないと思うけど!」
「悪かったわね…」
「……今、なんか言った?」
私は、横に振った。
「…朝峰様」
ゆくっりとオオカミは顔を上げた。
「大丈夫?気が付いてよかった!」
「おいおい!その犬喋ってないか!」
「川村君、ちょっと黙って」
「あっはい」
改めて、彼女に聞いた。
「大丈夫?」
「申し訳ありません。不覚を取りましたわ…」
「気にしないで…それよりも気が付いてよかった。」
一時はどうなるかと思った。
「朝峰様、早くここから逃げてくださいませ」
「何を言って…」
「国光お兄様から聞きましたわ。貴方はたった一人であの幽世から出られたと聞いております」
「あれは、運が良かっただけだよ…」
「それでも、自力でられた方は特別です」
「…だったら、一緒に出ようよ」
「…出来ません。わたくしめを置いて行ってくださいまし」
「そんなことしないよ!」
「元はと言うと、わたくしがあの膿蟲を侮っていたからですわ」
オオカミの口から血がぽたぽたと落ちた。
「駄目じっとして!」
「ああもう!うざってーよ!お前」
「川村君!」
会話を聞いていた彼がしびれを切らして言ってきた。
「犬のくせして、失敗したからって、だから何だって言うんだよ!」
いきなりの、怒鳴り声で彼女もむっとしたのだろう。
「貴方になにが分かるって言うの?ただの人である貴方に!」
「二人ともやめて!」
一気にシンとなって、私はゆっくり話した。
「二人とも落ち着いて聞いて、えっと、私はあなたを置いて行くのは絶対に無理」
何か言いたそうな彼女だったが、ここは絶対に聞いてあげない。
「だとしたら、三人で出られる方法を考えよう!私が出られたんなら、きっと出られる方法があるはず」
りんさんみたいに置いて行きたくない。
「私はもう、誰一人置いて行きたくない!」
「それ賛成!」
川村君が言って手を上げた。
視線は彼女に向いた。
「…わかりましたわ。わたくしも考えましょう…」
オオカミ姿の彼女は、怪我した前足の片方を上げた。
「決まりだね!三人でここから出よう!」




