ブラッククリスマス。(その3)
この人なんて言ったんだ?
昭和の風、おさげの女子高生は自分のことを何て言ったんだ?
「あら、聞こえなかったかしら?わたくし、あなたのストーカーなの」
とくすりと笑いかけて来た。
「……っ!」
おねーちゃーーん!!!
合コン中の姉に助けを求めたが、当然届くわけがない。
薄気味悪い笑い方をしてくる、ストーカーさんは、一体何者?
「とりあえず、ここから離れましょう。話はあとでじっくり聞きますので」
彼女は黒い毛虫の群れを青い炎で焼き払ったあと、私の手を取り走った。
「あ、あの!川村君は!」
「貴方が最優先事項ですの、急いでここから出ましょう!」
「だっ駄目だよ!川村君を置いて行けない!」
りんさんのように置いて行きたくない!
私は、彼女の手を振り払った。
「…っ!」
「ごめん!」
私は、彼女から離れた。
「聞き分けてくださいませ、朝峰様」
「駄目、聞き分けない。川村君が一緒じゃなきゃ駄目」
彼女はため息をついた。
「ここは、蟲の巣窟よ。彼が生きている可能性は低いわ」
「それでも、駄目!」
彼女はまたため息をついて、上を向いて呟いた。
「…そう来ましたか…いいでしょう」
「えっ?」
私も上を見上げると黒毛虫が天井を這っていた。
「…っ!」
「……彼を探しましょう。ただし、わたくしのそばを離れないでくださいまし」
「あっありがとう!」
私は、彼女のそばに寄った。
よかった、これで川村君を助けられる。
「お顔が見たくなりましたわ…このわたくしめの、逢瀬を邪魔をしたことを後悔させたくなりました」
彼女は不気味にくすりと笑った。
「…………っ!」
この人、大丈夫か?
彼女は、すうっと息を吸った。
「………あちらですね…。しっかりついて来てくださいまし」
彼女が向く方向は、暗闇に包まれた所だった。
彼女が走り出すと私も続いて走った。
黒毛虫の這えずる音があちこちに響いてきた。
青い炎で焼いたせいか、先ほどと違って黒毛虫たちの動きが遅くなった。
でも、追ってきているのは確かだ。
ぼとぼとと天井から落ちて来ていては、私達の道を妨げていたが、彼女が青い火で焼き払った。
黒毛虫たちは、次々と灰になっていった。
青い炎のおかげで周りが明るくなっているため、崩れた瓦礫や段ボールがはっきり見えた。
すると、奥の方で白い扉が見えて来た。
私達はその白い扉へと行き、扉を開けて中へと駆け込んだ。
私は飛び込んできた、眩しい光に目をつぶった。
「どうやら、わたしくしたちは誘導されたみたいね」
彼女の言葉で目をゆっくり開けるとそこは、事務所のような所だった。
電気が点いていて、まるで社員がたった今帰ったような社内風景だった。
私は、彼女に肩を叩かれるまで、この光景に呆然としていた。
「ここは、幽世です。油断なさいますように」
「…うん」
白い扉は、彼女が閉じたのだろう。
どうやら私達は、追ってきた黒い毛虫たちを退いたみたいだった。
「………。」
ここは、机の上のノートパソコンとか整った書類と色で区別されたファイルなどが現実味があり過ぎる。
胸の中で気持ち悪さが広がった。
そんな私の様子を見ていた彼女は、私の顔を覗き込むように言った。
「朝峰様、いずれここに山犬たちが参りますわ。それまで、もうしばらくのご辛抱を」
「…う、うん」
戸惑いながら返事をしたが、彼女なりに私のことを心配しているのかもしれない。
ここが、幽世の世界なのは理解している。
でも、あまりにも唐突過ぎてついて行けてなかった自分がいた。
私達は、この空間から出られる道を探した。
しばらく探したが、入って来た白い扉以外の道は見渡す限りどこにもなかった。
川村君を早く探さないと行けないのに、ここに閉じ込められたらどうしょうもない。
「今のところは、蟲の気配はないわ。ここは別れて探しましょう」
彼女はそう言って、机一つ一つ調べ始めた。
私も見習って、机を調べて見た。
机一つ一つに個人の私物らしき物が置いてあって、まるで私達が盗みをしているかのようだ。
幽世なのに、罪悪感が湧く。
それでも、空間から出られるきっかけを探さないといけなかった。
机を調べて行って、ある机だけが違和感を感じた。
周りの机と違って乱雑にファイルとか書類とか重ねていて、置いてあるノートパソコンは画面が割れていた。
私はその机に触れた。
やけに冷たく感じた。
すると、ノイズ音が響いて来た。
驚いていた私に、彼女はすぐに駆け寄って来てくれた。
周りを見渡すがどうやらこの机の引き出しに入っているみたいだった。
「取り出して、確かめましょう。」
彼女は、恐れもなく引き出しからノイズの正体を取り出した。
取り出したのは、ボイスレコーダーだった。
ノイズは、次第に言葉を発してきた。
「--ど、う、し、てぼくが、」
それは、男の人に声だった。
その声ははっきりと聞こえて来て、会話のような声が聞こえて来た。
「あの!どうして僕なんですか?」
「いいか!お前はろくに成績が悪いんだ。こんな仕事出来なきゃお前はゴミ箱行きだよ!」
「…っ!」
「営業部長も困っていたよ、お前みたいなろくに仕事ができないゴミをどうして雇わないといけないのかって!」
「…僕がのろまなのはわかります、でもこの件に関しては先輩が…。」
「だからさあーわかるだろ?俺、営業部長に期待されてんの!君と違って!」
「…うっ!」
「ほら、前にお前がミスしたときかばってやっただろ!恩返しだとおもってさあー!」
「#%;:*‘#2--」
この先の会話は、ノイズが強まって聞き取れなかった。
どうやら、このボイスレコーダーには二人の男性のやり取りが録音されているらしい。
そして、またノイズ音が小さくなって、会話のような声が聞こえて来た。
「--か、え、し、---むーー、」
この声、さっきも聞いて男の人の声だ。
「返してください!それは娘からもらったものです!」
「なに!これで俺を訴えんの!」
「違いますってば!これは、娘からのバースデーソングが入っているんです!」
「はっそんな見え透いたウソがつけると思ってんの!お前がそんな奴とは思わなかったー!俺こんなにお前のこと可愛がっているのにー!」
「だから、違いますってば!本当に!」
「お前まじで、クズな!」
「ちがっ!」
「---、---だ---れ、----、」
「--、------ほ---、--え---!」
ノイズの音が小さくなったり大きくなったりしてよく聞き取りにくい。
ようやく、聞けたと思ったら今度はちょっと渋い男の人の声が聞こえて来た。
「--、には、本当にがっかりだよ。こんなことをしてただで済むと思っているのかね」
「本当に違いますって!」
「---から、聞いたよ。君にはーーーから随分----、していたそうだね」
「何を言って!このボイスレコーダーは、ほんとに!」
「#&%*@3#$#--、--、」
「------、---、どう、して、変わって、」
「君は、本当にーーーー、---、」
ノイズが酷くて聞き取れない。
耳が痛いほどの音量になって、突然プツンと切れた。
そのまま、ボイスレコーダーはノイズを発しなくなった。
何て言うか、生々しい会話だった。
「……いったい、何なの?」
「さあ?」
彼女は、平然とボイスレコーダーを調べていた。
「その、もっと感想を…。」
「しいて言えば、いじめね。」
「……大人でもあるんですか、その…」
「あるわ、普通に。」
淡々と言うなーこの人。
「はあ…」
「どうやら、このボイスレコーダーは壊れているようね」
ぽいっと私に渡して来た。
「えっ!」
「よくあることよ。」
「…よくあるんだ…」
電話線切れてるのに電話が鳴っているー的なアレかな?
まさしく、ホラー。
「まさかこの廃ビルで、こんなことがいつも起きてるなんて…」
この街でこんな廃ビルがあったなんて知らなかった。
「いつもじゃないわ、いつもはただの廃ビルよ」
「えっ?」
「例えばそう、ここにBLの本があります」
なんか始まった。
「あなたは白昼堂々と男子生徒の前で読みますか?」
「読みませんよ、恥ずかしい。それに、読むとしたらブックカバーを付けますよ」
「では、そのブックカバーが無かったら?」
「…BLのカバーを外すけど」
「そう、外して読む。でも、もし別のカバーをつけられるとしたら?」
「付けますよ、普通に。恥ずかしいから」
「そう、仮にBLの本にミステリーの本のカバーをつけると、あたかもその本がミステリーの本に早変わりー」
「う、うん」
「でも、そのBL本と知らずに読もうする男子生徒がいたとしたら?」
「その、男子生徒を殴ります」
「その通り!」
ビシッと言われた。
「そう、BLの本がこの幽世としたら、わかるかしら?」
「全く」
「あらん、残念。でも、この本は移動していることがわかるわ」
「移動?するんですか、家ごと」
「空間よ、空間が動いているのよ。本来の場所とは切り離されていて、別の場所へと繋がっているの。まさしく、恥ずかしいから、BLのカバーを外して別のカバーを付けるようにね」
「わかったような、分からないような…」
「男子生徒は今の私達ね、ミステリー本を読みたくて手を出したって所かしら。それで今、BLの本と知っている蟲は今躍起になって私達を襲おうとしているわ」
彼女がそう言った途端に、電気が消えた。
「…っ!」
あたりが真っ暗になった。
なんにも見えない。
「ようやく、お出ましですの?随分淑女を待たせる殿方ですこと!」
ギチギチギチギチ。
ギチギチギチギチギチギチ!!
火が灯るように青い明かりがついた。
息を飲むような、目の前の光景だった。
彼女が対峙していたのは、首無しの男だった。
体格的に大きくそして、着ている服がスーツ姿だったことから目の前の化け物は男性だと思った。
ありったけの黒毛虫の群れを引き連れて、私達の前に現れた。




