久遠先生。
屋上の風って、いい匂いなんだな…。
久遠先生の匂いをかいで、そう思った。
久遠先生は、ゆくっり私を放した。
「すまない、教師としてあるまじき行為をしてしまったな」
「…………」
何も言えなかった。
でも、天狼さんには何度も助けてもらったし、力になれることがあるなら言ってほしい。
「そろそろ戻ろう…外は冷える」
戻ろうとする、久遠先生の腕を掴んだ。
「待って!待ってください!久遠先生!」
「どうしたのだ?急に…」
「えっと、やめる必要はないと思います。久遠先生はちゃんと先生していました」
「言ったはずだろう、私は人ではない狼だ」
「それでも、先生です!」
「やめてくれ、私は…」
「元担任が帰ってくるまで先生するべきです!」
「案ずるな、隆二殿はすぐに帰ってくる」
何だこの人!だんだんめんどくさくなってきたぞ!
引っ張ってもずるずる引きずられた。
「あああー!」
そして、ぴたりと止まった。
「……………灯花は、私に先生してほしいか?」
「もっもちろんです!」
「そうか……」
「先生?」
「なおさら、駄目だ」
「先生ー!」
再び戻ろうとする先生に、力入れて止めるがまたしても、ずるずる引きずられる。
「じゃあ、勝負しましょう!私と!」
「勝負?」
「勝負です!私に勝ったらすきにしていいです!でも、負けたらこのまま先生してもらいます!」
とっさに思いついたことだった。
「勝負ごとで、決める事ではないんだぞ?」
「それでも!するべきです!逃げるんですか!」
「逃げる?この天狼たる私が?」
ずいっと振り向いて、私に向いた。
「勝負は一度きりだ。それで納得できるのなら受けて立つ」
「そう来なくちゃ!です!」
勝負の内容は、少し考えた。
私一人なら不利だけど、先生好きの私のクラスなら…
「勝負内容は、バスケ、バレー、サッカー、野球。この競技のうち、一つでも私のクラスが負けたら先生の勝ちです!」
「それは、そちらが不利ではないか?」
「いいんです!」
この競技は学年ごとで、一年生は一年生同志しか戦わない。
それぞれ競技には、男子と女子と分けられる、もちろん競技の人数が足りない。
けれど、男子は男子の女子は女子の競技にいくらでも参加できることになっている。
サッカーのエースが他の競技にも出られるという技ができる。
だけど、競技の時間に間に合えば参加できるけど、間に合えなければ、少ない人数で戦わないと行けなくなる。
「知っていますよね?うちのクラスは、運動部が多いんですよ」
運動部が多いほど勝機はあるってことだ。
「…良かろう。お前がそう言うのならこの勝負は受けよう」
「決まりですね!」
そうとなれば、いろいろと手回しがある。
「ちなみに、サッカーは勝ちましたよ!」
「ほう、それはよかったな」
私は、久遠先生の腕を放して、先に前に出た。
「楽しみにしててください!では!」
さて、頑張ろうっと!
私は久遠先生を置いてささっと階段を下った。
その後ろ姿を見送った天狼は、天を仰いだ。
今日はいい天気だ。
すんだ快晴だった。
「面白い生徒でしたね…天狼様」
「なんだ見ていたのか…盗み見とはいい趣味をしている」
「すみません、これが仕事でして…」
日の影に隠れている黒いオオカミはくすりっと笑った。
「全く、困ったものだな」
「不快になられましたか?」
「いや、灯花のことだ」
「さようでしたか。ずいぶんお気に召していましたね」
「ふっ」
「どうされましたか?」
「いや、なんでもない」
「さようで?」
「お前に接触を許そう、そばにいてやってくれ」
「…承知いたしました。」
黒のオオカミは、赤いジャージ姿の人となって影に消えて行った。
天狼は屋上から出て、階段を下がった。
さて、見物でもしてこようかな…
あれだけ、啖呵きって言ったのだ余程自身があるのだろう。
結果が楽しみだ。




