長い帰り路(その6)
銀色の人狼は、森を駆けていた。
行く先々で仲間たちの声が聞こえた。
既に仲間たちが先導していた。
仕事が早いな…
連絡が入って、すぐにりんの匂いを辿って来た。
りんとは昼間に会ってそのままだった。
天狼は、後悔した。
まさかこんなことにあろうとはな…
森の中を駆けて行くと月が道を照らした。
今宵の月は怪しく照らすものだな…こんな夜は大抵が良くないことだ。
白地の着物の袖と黒地の袴を翻して、月を斬るように太刀を振るった。
月の影に潜んでいた、黒蟲達が舞う。
舞い上がった黒蟲は灰となり散った。
森の奥を駆け進んで行くと、仲間たちの声が聞こえた。
「そうか、灯花は無事か」
ひとまず、安堵する。
また、嫌な思いをさせてしまったな…
きっと今頃は泣いているだろう…
もう少し、もう少しの辛抱だ、灯花。
森の奥は幽世と繋がっている。
そこを突き進むと、金属網が張り巡らせている道を見つけた。
「ここだな…」
控えていたオオカミが言った。
「間違いないでしょう」
「状況はわかるか?」
「はい、報告によれば対象である親蟲が一体。膿蟲は二体うち一体は、滅しています。もう一体は、未だに。正俊、勝馬、両名が先行して柴田りんの捜索にあたっております」
「そうか」
りんがやられるほどの地獄蟲か。
「いかがなさいますか?」
「無論、私が参ろう。りんの仇を討つ」
りんは私と組んでいたのだ、私がやるべきだ。
「承知いたしました。」
控えていた、オオカミはスッと気配を消した。
「さて、夜の仕事と参ろうか」
天狼は、金属網の道を歩く。
網の下は、空洞となっていた。
地下か…
だとすると、下水道と幽世が同化しているみだいだな。
持っている太刀で円を描くように、金属網を斬った。
網は崩れて、下に落ちた。
天狼は、斬った円の中に入り地下へと落ちた。
静かに着地し、周りを見渡す。
コンクリートで作られた空洞。
金属網の天井から、月の明かりが漏れて来ていた。
地下での戦いはこの太刀では不利かな…
太刀を片手で持ち、逆手で構える。
懐に右手を差し入れ、すぐに小太刀で対応できるようにする。
コンクリート道を歩んで行く。
ギチギチギチギチ。
蟲がうごめている音がした。
ここは、地獄蟲の巣だ。
ここにいる以上、いつ現れてもおかしくない。
足元に黒蟲の一匹がいた。
普通の毛虫と変わらない大きさだが、人肉を好んで喰う蟲。
一匹いることは、近くに群れがいるのだろう。
それと、運が良ければ親もいるのかもしれんな。
親が知恵を持っていれば、これは誘導かおとりかどちらかになる。
「さて、どうするか…」
あまり時を掛けたくはないのだがな…
「ならば…」
黒蟲を踏み潰した。
足裏に黒液が散る。
ギチギチギチギチ。
ギチギチギチギチギチギチ。
ぼとぼとと上から落ちだした黒蟲を小太刀で絶ち。
真っ直ぐに突き進んだ。
こちらが仰げば、親元の所へ導くだろう。
後ろから続々と黒蟲の群れが追ってくる。
襲いかかる黒蟲の群れをかわして突き進むと、行く道に黒蟲が先回りした。
「面倒だ」
そのまま、黒蟲の群れに突っ込んだ。
黒蟲は人狼を捕らえたが、すぐに崩れた。
青い光が黒蟲を灰にしたからだ。
青い光の正体は、人狼が放った鬼火。
鬼火は青い炎となって、周囲の黒蟲を燃やし尽くした。
散った灰が人狼の白地の着物を汚そうとするが、灰すらかき消すような風が吹き、跡形も残さず消えた。
月が照らす人狼は、白銀。
蟲たちが喉から手が出るほどの極上。
親蟲は、我が子が潰えたことを感じ、動き出した。
狙うのは極上の獲物。
天狼は、この先に親蟲が待ち構えているのがすぐにわかった。
「ようやく動き出したか…」
あちらもこちらも狙いは同じ。
匂いでわかる。
親蟲の匂いと親蟲が産み付けた膿蟲が匂いが、この先から漂っていることを。
今回の蟲は、親蟲と膿蟲が一緒になっていた。
基本、親蟲は死体に膿蟲を産み付けたあとその場を離れ、次の死体に産み付けるのだが、今回は膿蟲に固着しているようだ。
もう一体、膿蟲がいたようだけれども、それと関係あるだろうか?
「どのみち、お前たちは終わりだ」
大人しく地獄の炎に焼かれるがいい。




