天狼さんと再会。(その10)
灯花は畳み上で女の子座りをしていた。
ずっと座り続けて、着物が着崩れが起こしているのにそれを直そうともせず、ぽかんと口が開いた状態でいた。
私が天狼さんの花嫁…。
未だ信じられず、心の整理がつかないでいた。
「……………」
しばらくそのままでいると、ある視線を感じた。
それは、真後ろから来ていて…。
「……っ!?」
「…僕は認めない。お前が天狼様の奥方になるなんて、道司様が認めても、僕は認めない」
その言葉を聞いた私は、目の前が一瞬で暗くなった後で気づく。
天狼さんが狙われているなら、その花嫁候補もまた狙われることを…。
あっやっべ…。
気づけば、目と口を塞がれ、手足を縛られた状態で人の手によって担ぎ上げられていた。
走る音と振動で、どうやら私は、どこかに運ばれている最中のようだ。
我ながら、こういった状況に慣れているのか、慣れていないのか。自分でも驚くほど冷静だった。
地獄蟲によって、鍛えられたからだろうか…心臓に毛が生え始めているらしい。
私は落ち着いて、攫った人の足音を聞いていた。
落ち葉を上を歩いているようなザクザク音や、枝木を踏むパキパキ音が耳に入った。
山の中に入っているのだろうか…?
風によって、葉と葉がこすれる音が聴こえた。
次に耳に入ったのは、コツンと高い音だった。
しばらく、コツコツと足音を聞いていると、突然、攫った人は私を降ろした。
冷たくて固い地面だった。
攫った人は、私に言葉を出した。
「しばらく、ここにいてもらう……ってきり、泣くのかと思ったんだが、泣かないんだなお前」
「…………」
「ま、泣き叫んだ所で誰も助けには来ないよ。その前に僕はお前を傷をつける。そうなれば、天狼様の花嫁の資格はなくなるよね」
「…………」
なんて人…私を傷つける気だ。
それに、天狼さんとの婚約を破棄にしたいらしい。
道司さんに返事する前に、まさか、こうなるとは思ってはいなかった。
攫った人は私に触れた。
「………っ」
頬に首、そして、手首に触れた。
冷たい手だった。
触れられている間、さすがの毛が生えた心臓でも鼓動を高く鳴らしていた。
口を塞がれていてよかった。
いつ叫んでもおかしくなかった。
攫った人は手首に触れていては、疑問の言葉を出していた。
「何この傷…噛み跡?もしかして、隼人の?」
攫った人は、しばらく手首を掴んだままだった。
そして、言葉を出していた時には、私の手首は離されていた。
「天狼様の花嫁が、他の男の噛み跡を残しているなんて…とんだ花嫁だよね。僕が噛む必要なくてよかったよ。お前の血はまずそうだから」
「…………っ」
じわりと目頭が熱くなった。
本当に泣き出しそうで、悔しくなった。
私は泣かないように着物の袖を掴んでは、気持ちを落ち着かせようとした。
攫った人は、そんな私の様子に気づいたのか、くすくすと笑い言葉を続けた。
「くすっくすくす……ずっとそのままで居ればいいよ。ちなみに、お前がいる場所は山犬達が滅多にこない場所だよ。ほら、聞こえてくるだろう?死者の声が…」
「……っ」
風と一緒に聴こえていたのは、女性が高い声音で叫んでいるような音だった。
「…んぅっ!」
「僕は行くよ。そこで、天狼様と道司様をたぶらかしたことを反省するんだよ。…じゃあね」
攫った人は、再びコツコツと鳴らして、どこかに行ってしまった。
残された私は、ただそこで耐えることしか出来なかった。
あの子が出て行った後、どれくらい時間が経ったのだろう…?
軽い眠りから目を覚ますと、最初に思ったのはそれだった。
部屋の中は、微かな光だけを入れているだけで薄暗い。
床に就いたままの状態で、天井に向かって手を掲げる。
どんなに眠っても、あざは消えないし、起きたことがなかったことにはならない。
時ばかりが過ぎて行って、暗い気持ちばかりが置き去りになっていた。
その時だった。
ある気配を感じては、そっと様子を伺った。
「天狼様…」
「国光か、なんだ…?」
国光の姿は簾の向こうだが、その様子からは焦っている様子が伺えた。
「どうした…?く…」
「朝峰様が行方不明になりました」
「…っ!?それは、本当か?」
天狼は起き上がり布団を剥がしては、国光の言葉を待った。
「はい…屋敷のどこにもいらっしゃらないのです」
「灯花………」
ぐっと自分の過ちを悔いた。
灯花に対する私の対応が要らぬ行動を招いた。
私のことが嫌になって、この屋敷からも飛び出したのだ。
「すまぬことをした…灯花、すまぬ…」
くっきりとあざが深くなった腕を額に当てては、悔いた。
そして、国光に状況を聞いた。
「国光、捜索はどうなっている?」
国光はすぐに答えた。
「はい、既に何人のも山犬が捜索に当たっています。屋敷の中は、奥方が加勢をしてくださいましたので、数人の山犬と当たっています。屋敷の外は、後の山犬が続いてます。女性の足です。そう遠くは行っていないはずですが…」
「いなかったか、だとすると…」
嫌な予感がした。
「攫われた可能性があります」
国光の言葉によって天狼は、その場から立ち上がった。
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