いつも通りの学校。
今日は、学校を休むつもりだった。
溜まっていたアニメを解消しなければならなかったからだ。
アニメだけじゃない、ゲームだって攻略しなきゃいけなかった。
その関わらず、私は痛恨のミスを犯した。
更衣室のカギを返すのを忘れたからだ。
きっと、女子の間では犯人捜しに明け暮れているだろう。
犯人は自分って事を黙っておこう。
この、忌々しいカギを返しに学校へと行く羽目になった。
昨日は学校を休んだ。
天狼さんの家にいたから仕方ない。
せめて土日祝日だったらよかったのになと思った。
不思議なことに、親には学校休んだこともよその家に泊まったこともお咎めがなかった。
友達の家に泊まったから大丈夫だろ?
学校?いつもヅル休みしてるやろ。
そんな言葉が親の口から出た。
解せぬ!
一番解せなかったのは、村上みのりの家に泊まったことになっていたことだ。
もうあいつは友達ではないんじゃあ!
そんでもって、友達は一人もおらんよ!
娘が不幸な目にあったというのに、親はピコピコとゲームしていたからイラっとした。
いつかデーターを上書きしてやる。
恐る恐る学校に着くと、集会があった。
保健の先生が急きょ退職したことになっていた。
でも、生徒の間ではうわさされていた。
連続殺人事件の犯人だと。
私が保健の先生と対峙したあと、学校に警察が来たこと。
それから、保健の先生の前の学校で生徒の行方不明があったみたい。その犯人じゃないかって大きくうわさになっていた。
こっそり、職員室に更衣室のカギを返して、教室に戻る。
職員室でも、保健の先生の話題だった。
やっぱり、犯人だったのかな。
私の他にも…。
…考えるのはやめよう。
教室に戻るとチャイムが鳴った。
天狼さん、久遠先生が入って来た。
黒髪で黒スーツ姿だった。
このクラスはホントに元気だなー!
「久遠先生!」
「先生!おはよう!」
「久遠先生、おはようございます」
「ああ、おはよう。」
久遠先生は生徒たちに微笑んだ。
「先生ー!もう持病は治ったんですか!」
持病?あったかそんなの?
「ああ、もう大丈夫だ。心配かけたな」
「せんせ~い、しんぱいしました~!」
女子生徒の目がハートだわ。
すげぇー!
どうやら、昨日久遠先生も休んだみたいだ。
だが、クラスのみんなー!
この人が田中先生を引いた人です。
私の心の中で思っていても誰も聞いてはないだろう。
田中先生が哀れだわ。
ん?
今、一瞬。
久遠先生こっち見なかったか?
まあ、いいや。
「今日は、球技大会の選手決めしてもらおうか。このクラスは運動には自信があるようだ、お前たちで決めてほしい。では、実行委員後は頼む」
そう言って、久遠先生はパイプ椅子に座って生徒たちに任せた。
天狼さんは人の姿をしている時、雰囲気がガラッと変わる。
先生らしく振る舞っていると言っていいだろう。
人狼姿はどこか遠く神秘的な雰囲気があった。
天狼さんは本当に不思議な人だな。
そうこう考えていたら、名前を呼ばれた。
選手決めは早く決まりそうだった。
ほとんどが運動部で、皆得意種目で決めたそうだ。
あとは、帰宅部で運動オンチをどこにやるかが問題だった。
「おい、朝峰」
「…………。」
実行委員に名前を呼ばれても、どうしょうもできない。
だって、運動オンチだから!
足ぴっぱり組だもん。
どの種目もダメだ。
「…………。」
「朝峰、お前だけだぞ。早く決めろ」
実行委員に急かされるが口は重かった。
見かけた久遠先生が言った。
「急かすのは良くはないぞ。勝利を得たくば、まずは練ればなるまい」
久遠先生と目があった。
紫の瞳が柔らかくなった。
これって私を助けてくれたのかな?
「じゃあ、朝峰。今日までに考えてろよ!」
実行委員が言ってその場は終わった。
さて、どうしょう…
バスケ。
バレー。
サッカー。
野球。
全部、団体競技。
個人競技は無いんですかー
はああー。
どうしょう…今日までに決めないといけないのに。
そう考えていたら、もうお昼になっていた。
お弁当を持って廊下を歩いていた。
いつもは一人机で食っていたけど、今日は何故か机を使われていた。
トイレから帰ってきたら女子グループに机を使われていた。
何故ゆえ!
今日はしぶしぶ、別の所で食べる羽目になった。
最終手段は、便所飯になる。
嫌だなートイレ消臭剤臭いから。
はあぁ。
天狼さんとは昨日別れてそれっきりだ。
やっぱり、学校じゃ喋る期会は無いに等しい。
「!?っ」
一瞬、背筋が凍る視線を感じた。
日に日に天狼さんの人気が高まっている。
今、この学校にはある教団がある。
無事、終業式まで生き残りたかったら学校で天狼さんと喋るのおろか近くに行くこともやめたほうがいい。
女子恐るべし。
天狼さんせめて別のクラスの担任になればよかったのに。
またため息をついてしまう。
パックのイチゴミルクを買って、裏庭まで来た。
外は肌寒い風が吹いているから誰もいなかった。
よし、裏庭で食べよう。
丁度、ベンチが開いてる。
ベンチに座ってお弁当を広げようとした時。
「今から、ご飯?」
「えっ!」
誰もいなかったはず…
周りを見渡すと茂みから頭だけ出しているオオカミがいた。
大分、驚かなくなってきた。
「………そこでなにをしているんですか?」
茂みからするりと亜麻色のオオカミが出てきた。
普通の大型犬より一回り大きいが前に道司さんのオオカミ姿より少しばかり小さく感じた。
「えっと…。」
「りんだよ、柴田りん」
「りんって…りんさん!」
そうだ、会おうとして会えなかったんだ。
「おっおう」
あっでも、天狼さんに会えたからもういいんだけど…。
「……俺になんか用じゃないの?」
「特に何も」
「ないんかい!」
あっつっこみ!
「おいおい、道司さんがお前が俺を探してるって言うから来たのにーなんだよー!」
「それは、もういいんです」
昨日の事なんで。
「ええーー!なんでだよ!」
「天狼さんに会ったから」
「じいちゃんに!?」
亜麻色のオオカミは尻尾をピンと伸ばした。
「なんだよー!じいちゃんに会うためかよー!」
「うん」
「うんって!お前なー!」
りんさんは少しうなっていたが無視して自分は弁当を広げた。
「なになに手作り?ってちゃいろ!」
もちろん手作りではない、が中身を指摘するは失礼な!
「揚げ物ばっかじゃん!野菜を食え!野菜を!」
「人の弁当にケチつけないでください!」
「なんだよー!そんなんばっか食ってるから、まな板なんだよ!まっ食っても横に広がるだけだな!」
「ま、な、い、た…」
いじめっ子もさすがに、まな板は言わなかったな。
目の前のオオカミに、なんて言ったらいいのかわからない。
相手するのはやめよう、これ以上相手をしたらまた何を言われるか…
大人しく便所飯としよう。
お弁当を直して、ベンチから去ろうとした。
「おいおい!どこに行くんだよ!食べるんじゃないのかよ!おい待てって!」
オオカミの言葉を無視して、裏庭から出た。
裏庭からオオカミの鳴き声がしたが、これも無視した。
天狼が裏庭に行くと山犬の声がした。
「りん!どうしたんだ?」
「ああーじっちゃん!」
りんは、私を見つけると駆け寄ってきた。
「りん、山犬は常に冷静でなければならない」
りんは、すねたように鳴いたが私に頭を垂れた。
「申し訳ございません、天狼様。朝峰様と話を…そこで機嫌を損ねてしまいて」
「灯花と?」
…またりんが要らぬ口を聞いたのだろう。
りんの悪い癖だな…
「ご婦人とは、礼を払えと言ったはずだが…」
りんは、反省していると鳴いた。
「もうよい。それより、灯花の様子はどうだった?昨日の事もある」
こちらのことを聞かされた後だ、気を遣うこともあるだろう。
「………じいちゃんは、どうしてそこまで気にするんだよ?それに、いきなり教師になるって…」
「言ったはずだが?私が隆二殿を…」
「いやそっちじゃなくて!」
りんは少し焦ったように言った。
確かにあの時の事故は私が悪かったがそこまで恐ろしかったか?
りんは山犬としてはまだまだだな…
「それで、どうなんだ?」
「…大丈夫ぽい、だったけど…」
ぷいっとりんがそっぽを向いた。
「…本当か?」
疑いたくはないが、適当に答えてはないだろうな…
じぃーとりんを見下ろす。
「わあーたよ!確かめてくるから!待っててくれよ!」
りんはそう言って駆け出した。
頼むぞ、りん。
さて、私は…
「せんせーい!どこにいらっしゃいますかー!」
「先生ー!どこー!」
「久遠先生!!」
生徒に頼られるはいいが…こうもついてこられると…
教師というのは、大変な職業なのだな…
いやいかん、天狼たるもの一度引き受けたことは最後までやり通すのみ。
隆二殿、そなたの生徒たちは私が責任を持って守り通す。
「私は、ここだ」
女子生徒たちがこちらに気づき駆け寄って来た。
今、気に掛けねばならぬ生徒。
灯花のそばにいてやりたいがその時がない。
だからこそ、りん。
頼んだぞ。