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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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幕間 陽炎のその後。

 灯花達が廃トンネルから出た直後のことだった。

廃トンネルの先は瓦礫で塞がれて通れなかったはずだが、その瓦礫の先から会話が聴こえて来た。

「ちょっと聞いてよ~~!」

「ウマし!」

「やあウサギさん、また随分と痩せたね。ダイエットはほどほどにしないとだめだよ」

「これがどこがダイエットよ~~!頭だけよ~!」

「ウマし!」

「それで、僕が大人しくお留守番をしていた間に、収穫はあったのかい?」

「あったと思うの~?」

「さあどうだろうねぇ、ウサギさんの事だから時間がさえあれば、成果はあったと思うんだけど?」

「わかっているじゃない」

一人はオカマ口調の人物、もう一人は一定の言葉しか使わないようだ。

そして、最後の一人は優雅な話し方をする人物。

陽炎は、彼らの会話に入ってみることにした。

「何だか楽しそうでござるな、拙者も仲間に入りたいでござる」

闇影からぬっと現れた陽炎に、彼らは臆することなく言葉を出した。

「あ~ら聞いていたの~趣味悪~い」

「ウマし!」

「これはこれは…」

ワゴン車の前には、ウマの着ぐるみと頭だけのウサギの着ぐるみ、そして、ヒツジの着ぐるみがいた。

「…主らは、ここを遊園地と間違えておらんか?」

陽炎の素朴な疑問に対して答えたのは、ヒツジの着ぐるみだった。

「いいや、間違ってはいないよ。僕たちにとってはここが仕事場(ゆうえんち)なんだ」

陽炎はその言葉を聞いて目を細めた。

彼らは、この廃トンネルことを言っているわけではない、あくまで、この土地で開いた幽世を遊園地(しごとば)として考えている。

「そうでござったか…これは失礼した。だが、子供達(こら)はもう帰ってしまったぞ?」

「おやおやもう帰ってしまったのかい?それは残念だ。一緒に遊びたかったのに……だけど、君はいただけないな。ここは遊園地の舞台裏、関係者以外立ち入り禁止だよ?…迷子かな?」

ヒツジの流暢(りゅうちょう)な口ぶりに、陽炎は鬼の仮面の下でニヤリと笑った。

「拙者はこう見えても警備員なのでな…盗人がいれば取り締まるが?」

陽炎は背に差している刀に腕を回した。

すると、ヒツジの着ぐるみは軽く笑い言葉を出した。

「ふふっ…盗人なんて人聞き悪いことを言わないでくれよ。僕たちはあくまで、ここに遊園地(かくりよ)があるから応援に来たまでだよ。ほら、キャストは多い方が楽しいだろう?……まあでも、僕らがもう少し早くここにたどり着いていれば、もっと楽しかったはずだけど…残念だったね」

「なにか仕掛けるつもりだったのか?」

「もちろんだよ!でも、いつだってアクシデントは付き物だよね。予定より早くに遊園地は閉店してしまった。僕としては、物足りない遊園地。ウサギさんは楽しんでいたみたいだけど、仕事熱心過ぎて、ほら見て…()せこけちゃって!」

ヒツジの着ぐるみは頭だけのウサギを見ては、可哀そうだと言わんばかりの泣き真似をした。

それをツッコミを入れるウサギ。

「痩せてないわよ」

ヒツジの着ぐるみは、次はウマの着ぐるみを見ては、また泣き真似をした。

「おウマさんも可哀そうに…働き過ぎてこんなんだよ!」

ウマの着ぐるみは、己の筋肉…いや着ぐるみを見せつけて来た。言わばポージングって奴だろう。

「ウマし!」

陽炎は呆れ、刀から刀身を抜くと言葉を出した。

「わかったわかった…お主ら、話は地獄で聞こうぞ」

その言葉を聞いたヒツジの着ぐるみは、やれやれと言わんばかりにポーズをした。

「わからない鬼だねぇ」

陽炎は、黒糸を瞬時にこの空間に張り、鈴を鳴らした。

背に差している刀に腕を回す姿勢は、あくまで振りで本題は拘束。

布を絞めつけ破く音がトンネル内に響いた。

陽炎は着ぐるみ達から綿を溢れ出させるとそのにおいを嗅いだ。

間違いなく、地獄蟲のにおいだった。

「主ら、随分と臭いな」

すると、頭だけのウサギは騒ぎ出した。

「ま~~臭いだなんて!!失礼しちゃう!」

次にヒツジが言葉を出した。

「そうだよ、僕たちは汗をかく仕事なのに酷いな」

ウマもポーズを決めたままだった。

「ウマし!」

彼らは拘束されても余裕の言葉を述べ続けた。

この状況は陽炎の方が分が悪かったという証拠でもあった。

彼らの余裕は、確信があってのもの。

「…………」

夜闇より深い闇が、陽炎の頭上に広がっていた。

「……キャストが多すぎのも、暑苦しいものだな」

陽炎が吐露すると頭上から、ぶんぶんと蜂の瞬く音が響いた。

蜂蟲の中でも質が悪いのは、黒蜂(くろばち)と言う種。

一般的に言うと大型のスズメバチの何倍の攻撃性が強い蜂。

その蜂の巣を持ってこられるとはな…。

陽炎は鬼の仮面の下で、息を吐いた。


 

 山犬達が廃トンネルに入った時には、灯花達が入っていた状況とは全く違っていた。

瓦礫によって塞がれていたトンネルの先が、幽世によって開いていた。

この土地の幽世は崩壊したが、この場所に新しくできた幽世だった。

正俊達はその幽世に突入した。

そこには、驚くべき光景が広がっていた。

辺り中に黒蜂の死骸で埋め尽くすされていたのだ。

幽世から一匹も出なかったのがむしろ不思議なくらいな、悲惨な状態だった。

正俊はこの惨状に口の橋が吊り上がった。

「やべぇじゃん、ここ…」

「正俊、気を引き締めろ。並の状況じゃない…」

勝馬が警戒する中、黒スーツの女性は鼻を押さえた。

「においが酷いわ、鼻がもげそうよ…それに…」

彼らが警戒するのもその筈、トンネル中に黒糸が張り巡らさせていたからだ。

一度触れれば、バッサリと肌が切れる。

正俊達は、それを避けつつトンネルを通った。

だが、奥へと進むには黒糸を切らねばならなかった。

正俊は山犬の二人に合図しては、刀から刀身を抜いた。

黒糸に刀身が触れようとした時、辺りを張っていた黒糸が、突然、緩んでは影の中にしゅるりとに消えて行った。

「……っ!」

正俊達が警戒する中、あるにおいが漂って来た。

獣のにおいだ。

それも、人狼特有の。


 正俊達が陽炎と出会うのはその数分後だった。

陽炎は、黒蜂の死骸の山の上で正俊達を待っていた。

「遅いでござる!拙者は今、イライラモードマックスリューハートでござるぞ!」

「……………」

「………………」

「…………」

山犬達の間で沈黙が続いた。

そして、正俊が思い出したと言うようにポンと相槌(あいづち)を打った。

「ああ~わかった!モザイクハートの奴だよね!毎週日曜日にあるやつ!」

陽炎は、正俊の言葉に星を見つけたように目を輝かせた。

「よくわかったでござるな!さてはお主、キラキラハートが好みでござるな~!」

急に振られた言葉に正俊は戸惑った。

「へっ…?キラキラハート?」

「えっ!キラキラハート知らないの!?」

黒スーツの女性は正俊が知らなかったことに驚き、正俊も同僚が知っていたことに驚いた。

「えっ!?」

「え…」

正俊と女性は、互いに戸惑った。

その場の助け舟として、勝馬が前に出た。

「そろそろ本題に入ろうか、お前達。……あなたはいったい何者です?この状況があなたが?」

警戒しながらの勝馬の問いに陽炎は行動を起こした。

「ぐふふふっその前に、まずは…」

陽炎は正俊達に近づき、右手を差し出した。

「携帯貸して欲しいでござる」

「え」

今度は勝馬が戸惑った。

読んでくれてありがとうございます!(o*。_。)oペコッ

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