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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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指切りトンネル。(その33)最終。

 登った先は、見知った場所だった。

筒状の空間にコンクリートの表面が削れた壁、後ろには瓦礫の山が積み重なっていた。

瓦礫の周りには、立ち入り禁止の黄色の柵や機材やなど、業者が入った跡があった。

つまりここは、廃トンネル内で、幽世に堕ちる前の場所に戻ったということだ。

「……戻ってこれた?」

灯花がそう問うと川村が答えた。

「そうじゃねーの?じゃなきゃ困る」

「そうだね…」

灯花は周りを見た。

持ち上げすぎてへとへとになっている川村君。

そんな川村君を案じているオオカミさん。

今でもぶっ倒れそうな隼人さんに、先に登ったオタ面さん…後で、説教してやる。

それと最後に、つまらなそうに欠伸(あくび)をしている硯鬼。

皆を見渡し、灯花は言葉を出した。

「みんな、いるね」


 灯花はたっぷりと息を吐き、一気に力を抜いた。

「はあ~~~~~……」

一気に抜けすぎて、後ろにひっくり返りそうになった。

「ひゃあ!」

「朝峰!」

「…っ!!」

灯花の真後ろには地面がなかった。

暗い穴の中に再び落ちそうになった時。

「よっと…!」

力強い手によって、落ちることはなかった。

「隼人さん…」

「まったく、お前は…」

呆れた様子で隼人は灯花を見下ろした。

「あはは…すみません…」

隼人の手を握り返しては、元の姿勢に戻った。

川村もまた灯花に手を伸ばしていた。

隼人に先を越されて、伸ばした手を誤魔化すように、手首を振っては言葉を出した。

「勘弁しろよ、また上げるのはごめんだ」

すねたように言葉を出してくる川村に、灯花は言葉を返した。

「ごめんってば」

「おっさんが上がって来た時は、ロープを放しそうになったしな」

「それは、オタ面さんに言ってよ…」

「ま、いいけどよ。無事にみんな上がってこれたわけだし…」

川村はそう言って、茶色の毛並みのオオカミの方を見ては、オオカミの頭をガシガシと掻いた。

オオカミはキュウと小さく鳴いた。

灯花が落ちそうになった穴は、3メールほどの深さがあった。

そして、その穴の奥には、何かを祀るような小さな家があった。

瓦礫の石で家の屋根が潰れていた。

「これって…(ほこら)?」

この祠で、山の神を祀っていたのだろうか?

灯花がそう思っていると、陽炎は硯鬼入り瓶を片手で持ちながら言葉を出した。

「その祠には、もう神はいないでござる」

「…倒しちゃったですもんね」

「ぐっふふふっ…拙者は、最強でござるよ~」

「最強て…」

「あの神は、かつては名のある神であったでござろう。だが、時が経つにつれ、忘れられ廃れた。あのように悪鬼のようになってしまったのは、とても残念でござる」

「なんだか可哀そう…忘れられて、この薄暗いトンネルに祀られてあるなんて…」

灯花がそう言葉を出すと、陽炎は崩れた瓦礫の方を見ては答えた。

「仕方ないでござるよ、人も土地も変わりゆくものでござる。ところで灯花たん、拙者をおっさん呼ばわりしたあの小僧は先に行ったでござるよ?」

「えっああー!!置いてかないで!」

灯花は、先に出口の方へと向かった川村達を追いかけた。


 「若いの、そちも行くがいい」

向けられた言葉は隼人に向けられた。

「あなたはいったい…?」

「拙者は、鬼ぞ。鬼に追われたいか?」

「…いえ」

隼人は陽炎に対して訝しげな様子を見せたが、灯花達の事もありその足を渋々動かした。

陽炎は一人、自分のペースでトンネルから出ることにした。

「ぐふふふ…人は恐ろしいなぁ…なあ?山の神よ」

その言葉を残して、陽炎はその場から去った。

静かになった祠に、パキリと何かが割れる音が鳴った。

それは、祠に祀っていた動物の骨が割れた音だった。


 灯花は、トンネルの出口付近で座り込んでいる川村を見つけた。

「川村君、どうしたの…?」

灯花が近づくとそこには、地蔵様が立っていた。

「あ、このお地蔵様…」

確か、私と川村君がきれいにしたあのお地蔵様だ…。

あったことをすっかり忘れていた。

灯花がお地蔵様をのぞき込むと川村は言葉を出した。

「晃がお地蔵様に感謝しとけってさ…」

「晃って…あのオオカミさんの名前?」

「ああ…そんでもって、俺らが無事に帰ってこられたのは、お地蔵様の導きがあったからだってさ」

「えっそうなの?」

「ほら、月夜がきれいだろ?」

川村は(あご)でしゃくっては、灯花に示した。

「そうだね…月が眩しいね」

トンネルに差し込む月明かりは、道を照らすには十分な明るさだった。

「それに、風が気持ちいいねぇ!」

ずっと、カビと埃と血生臭い所にいたから、新鮮な空気はすごく気持ちよかった。

森林をなびく風とか、なおよかった。

ああ外だあーって、感じた。

灯花は気づく。

「その、晃さん?は、どこにいるの?」

川村はお地蔵様に手を合わせて、言葉を出した。

「ちょっと散歩。えっと…隼人だっけ?隼人、お前に用があるってさ」

「隼人さんなら、もう行っちゃったよ?」

「……ならいい」

「それより…いいの?晃さんのこと…」

「いいんだ…さっき散々話したから、いい…」

「そっか…」

灯花は川村に並んで、お地蔵様に感謝の祈りを捧げた。



 隼人は重い身体を引きずっては、晃の元へと向かった。

一歩一歩ずつ歩く度に、血の気が引いているのがわかった。

まずいな…これは…。

これでは、刀を振るえない。

相棒(パートナー)となった山犬は、互いに膿蟲になった相棒(パートナー)を処罰する決まりになっている。

だが、例外はある。

天狼とその八羽織とその関係者は、適応されない。

理由は簡単。

山犬達を束ねる長とその神だからだ。

関係者はその親族達。

一度も二度も同じ、仲間殺しを良しとしない。

こうした仲間殺し…処罰は、山犬の仕事だ。

老朽化している割れたコンクリートの上で伏せている茶色のオオカミがいた。

月夜に照らされながら、静かに風を感じているようだった。

隼人はそのオオカミのそばに腰を下ろした。

オオカミの頭をガシガシと掻いては、言葉を出した。

「嫌な役回りだ…なあ相棒」

「すまないな…隼人」

目を瞑ってはびくともしないオオカミに、隼人は重い息を吐いたが、すべてを吐き切ることはできなかった。

「隼人、本当にすまない…」

「謝るな…!なんだ?俺は、ずっとあんたの子供(ガキ)か?いい加減俺を見ろ!」

「…………見てるさ、隼人」

「……っ」

「日に日に大きくなって行くお前を、ずっと見ていた」

「だったら…!」

「だからこそ、父親らしくお前の前を歩きたい」

「……うぐっ…くっぅ…」

「なんだ、泣いているのか?まだまだ子供だな…」

「うる、さい……くそ父親(おやじ)

「…まだ反抗期か…?まだまだ…だな………………は、やと……はや、と…は、やと…は、、、や、と」

彼のリフレインは、息子の名前だった。

「とっと行けよ…親父…」

隼人は、最後の青い火を灯した。

読んでくれてありがとうございます!

評価してくれた方、ブックマークしてくれた方、星を一つでもつけてくれた方、とてもとても感謝しています!

誤字脱字や文章間違え、小説のここら辺おかしいぞとかありましたら、気兼ねなく教えてください。

自身の成長のため、とても励みになります。

これからも、マイペースではありますが、がんばって投稿していきたいと思います。

by落田プリン

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