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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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指切りトンネル。(その32)

 隼人(はやと)は、己の仇である目の前にいる山姥(やまんば)を睨んだ。

睨む瞳には、黒い刃が宿っていた。

灯花はそんな彼の背を見て、もう止めなかった。

その場にできたことは、その後ろを見守ることだった。

灯花が息を呑んでいると、同じく山姥を退治しようとしていた陽炎が行動を始めた。

「拙者は、先に参るでござる」

その言葉を聞いて、灯花は振り返った。

そこには陽炎が、既に黒ロープを掴んでいた。

ロープがここにあるのは、先に引き上げたオオカミが、無事にたどり着いたということだ。

そのロープが陽炎が掴んでいるとなると…。

「おっ…オタ面さん?」

確か、上に登る順番は、隼人に、私に、そして、オタ面さんだったはず…。

「ああー!」

「大事ないでござるよ~硯鬼は拙者が持って行くでござる~ぐふふふっ」

陽炎はそう言って、片手に硯鬼を持って、上へと上がって行った。

灯花はその光景を口をあんぐりと開けては、呆れていた。

一番元気な人が、先に行ってしまうとは…。

この場に残っているのは、灯花と隼人だけとなった。


 隼人は刀の塚と己の手をネクタイで縛ると、山姥に向ける刃を構えなおした。

すると、山姥は突然、奇声を上げた。

「ギィヤアアア!!」

山姥の指のない指からは、先が尖っている骨のようなものが伸びていた。

両指10本とも、かぎ爪のように鋭かった。

山姥は近くの岩壁を引っ搔いては、こちらを煽っているようだった。

「ギィイイヤァアア!!」

「…ふんっ来い、か…ならば、お望み通り斬って捨ててやる!」

隼人は山姥に向かって駆けた。

揺れる洞窟内での隼人の足は軽かった。

その足で強く地面を蹴り、山姥へと刃を振り下ろした。

だが、その攻撃は、一つの刃に10本の刃には敵わなかった。

山姥は隼人の攻撃の前に、隼人の身体に10本のかぎ爪を交差に突き刺したのだ。

「隼人さん!」

灯花はとっさに名を呼んだ。

すると、洞窟のどこからか、隼人の声がした。

「うるさい」

「えっ?」

どこからかと辺りを探した。

そして、見つけた時には、灯花はまたもや口を開けてはポカンとした。

隼人が二人いたのだ。

山姥の正面と真後ろに。

「ギイィイ……?」

「俺が堂々と真正面から斬りかかると思ったか?甘いな、俺は山犬の中でもひねくれものの卑怯者だ。そんでもって、後ろを獲るのが好きな男だ」

バサッ!!

隼人の振り下ろした刃は、山姥の首を落とした。

ドサッと首の嫌な音が地面に響いた。

悲鳴一つ上げることなく山姥は、首を失くした。

山姥を斬った隼人は言葉を出した。

「…戻れ、黒古(くろこ)

山姥の前にいた隼人が突然、真っ黒く濁った。

真っ黒人間になっては、その身体を粘土のようにくねらせた。

小さいボール状になっては形を作り、そして、小さな黒鼠(くろねずみ)なった。

黒鼠は、本物の隼人の足元へと来ると影の池にするりと入って行った。

一部始終を見た灯花は、言葉を失くした。

「…………」

そんな灯花に隼人は言葉をかけた。

「終わったぞ」

「あ、はい…」

灯花がぽつりと返事をすると、山姥の亡骸が変形し、数体の白い芋蟲になった。

この白い芋蟲は、トンネルで見た芋蟲に間違いないだろう。

人に擬態する特性を持っている。

擬態が解けると攻撃性はなくなるみたいだ。

現に芋蟲達は、うねうねと体を動かし、必死に逃げ出していた。

それを許さなかったのは隼人だった。

一気に青い炎が芋蟲達を焼き払った。

芋蟲達の焼かれる悲鳴を聞きても、その顔は冷徹だった。

灯花は耳を塞ぎたくなった。

ギイィギイィと鳴く芋蟲達は、紛れなく生きているからだ。

灯花は芋蟲達に言葉をぽつりと出した。

「鳴かないでよ…誰も助けには来ないよ」

なぜなら、その前にあなた達を私が灰にするから…。

灯花は黒の扇子を握った。


 洞窟の揺れが最高潮となった時、灯花達は黒ロープに掴まっていた。

黒ロープの数が二本になっていたからだ。

上で陽炎がロープを増やしてくれたようだった。

灯花はロープにしっかりと掴まっては、落ちないように必死だった。

「う、う…うぉ…」

上と上がるロープに胸を高鳴らせた。

落とさないでよ!頼むから!

そして、天井の割れ目から強い光を浴びた時、下から洞窟が崩れる音が強く響いて来た。

灯花は、その音は幽世が壊れる音だと思った。

その音を聞きながら、灯花は上へと手を伸ばした。

すると、自分の手より少し大きな手が伸びて来ては、灯花はその手を掴んだ。

「おせーよ朝峰!」

川村の声を聞いた。

灯花は笑みを浮かべながら言葉を出した。

「ごめん、お待たせ」

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