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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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指切りトンネル。(その30)

 「終わったな…」

陽炎の言葉で、この土地にいた都市伝説が消えたことがわかった。

そして、薄暗い洞窟内に僅かな揺れが始まった。

それは、幽世の崩壊の始まりだった。

灯花は落ち葉の上に座り込んでは、その場でぼーとしていた。

山の神が崩れた直後だった。

オオカミが白装束の少女を喰い殺したのだ。

「………おい…おい朝峰!」

声をかけられ、はっとした。

「川村君…」

「気持ちはわかる、だが、今は我慢しろ…」

その言葉で灯花はゆっくり頷いた。

「うん」

オオカミは、犬のように人を傷つけないと甘く見ていた。

思ったより、ショックな出来事だ。

川村はぐったりしている山犬の腕を肩に担いでは、立ち上がった。

「早いとこ、ここから出ようぜ!」

「うん」

灯花もまた、山犬の腕を肩に担いだ。

崩壊の揺れは、次第に強くなっていった。

揺れる中、川村は振り返っては名を呼んだ。

「晃!」

茶色の毛並みを持つオオカミは口元を濡らしながら、ぽつりと言葉を出した。

「私はここまでだ…」

その言葉を聞いた川村は怒り出した。

「はあ!なに言ってんだよ!一緒に出るんだろうが!」

「…ありがとう、でも、私はとっくに死んでいる」

「…何言って…」

川村は驚いた顔をしたが、同時に苦虫を噛んだような顔をした。

川村もまた、どこかでわかっていた。

オオカミの姿は無残なものだった。

その姿を見たら、誰だって手遅れだと思うだろう。

「ぁあーくそ!くそったれ!いいから来い!」

駄々っ子のように言い出す川村に、灯花はショックのあまりに言葉を失っていた。

大口叩いただけで、何もできてない。

誰も、救えてない。

また、残していくのか…。

りんさんみたいに…。

灯花が下を向いて嘆いていると、川村は担いでいる山犬を離した。

「…かっ川村君!」

「つべこべ言わず、一緒に行くぞ!晃!」

川村はオオカミに手を伸ばした。

「…っ!!」

その時、ずっと動かなかったオオカミの瞳孔が動いた。

瞳にビー玉のような輝きが映った。

まるで、生きてるようだった。

山犬さんの命の重みを感じながら。

灯花はその重さで地面に倒れ込もうとした、だが、オタ面さんにすぐに支えられた。

「らしくないでござるよ、灯花たん」

わかっているよ…。

オタ面さんの言葉に灯花は唇を噛んだ。

川村はオオカミの元へ向かうと血まみれの毛並みを抱き寄せた。

「帰るぞ!」

オオカミは優しい目をしながら言葉を送った。

「…まったく…これだから少年は」

「うるせ、ガキじゃねーよ…」

二人の会話は、まるで親子だった。


 洞窟の岩壁の一部が地震によって、崩れた。

「ここから出ようぞ」

陽炎の言葉で止まっていた足を灯花達は動かし始めた。

「でも、出口はどこだ?」

川村の言葉は、この場にいるみんなと同意見だった。

灯花は上を見た。

洞窟の天井は、割れ目があった。

その割れ目から、月明かりのような光が漏れていた。

「…………」

私達は、ここまで堕ちて来た。

堕ちて来たのが、ここだった。

「…………」

堕ちて、もう一度堕ちて…これ以上に堕ちる所はあるだろうか?

岩壁が崩れても穴が開くことはなく、積もるだけだった。

「……ないよね」

…そう、これ以上堕ちれないんだ。

灯花は漏れてくる月明かりに目を細めた。

幽世の明かりは、夕陽しか見ていなかった。

この明かりは、特別のように感じた。

地下へと堕ちているのに関わらず、月明かりが漏れている。

その違和感に、灯花は思いつく。

「上に向かいましょう…」

ぼそりと言った言葉がみんなの耳に届いた。

「上って、どこだよ」

川村の言葉に灯花は答える。

人先指を使って、行くべき方向を差した。

「あの割れ目よ」

あの月明かりに向かって…。

灯花の差し示した道に皆が頷いた。

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